第三話 ⅩⅤ
短いです。ごめんなさい。
お楽しみいただけると幸いです。
「エル」
今日も今日とてエルはベッドの住人。
ぼーっとしているとここ数日の日常の風景、ビールを飲むバアルに名前を呼ばれる。
「何?」
「気を付けろ。ほんの僅かだが、きな臭い魔力がある」
告げるバアルは真剣な表情をしている。
「きな臭い?」
魔力をきな臭いと表現した事もされた事もないので、エルは思わず聞き返した。
「ああ、きな臭い」
「きな臭い……」
「きな臭い」
話が進まない。
「場所は?」
「そこの建物の中」
バアルの適当な言い回しにエルは脱力する。
「そこって……」
「そこはそこだ」
ほんの数日前から寮の部屋に入り浸っているバアルが学院の構造を知る筈は無い。
「学院の中だと思って良いのか?」
「多分良いだろう。近いからな」
「そうか……」
「そこから、何処か異質な魔力を感じる」
「異質?」
エルは眉根を寄せる。
きな臭くて異質って、どんな魔力だ。
「詳しく説明は出来ん。何せ今まで感じた事の無い魔力だからな」
人間より遥かに長い時を生きているバアルが感じた事の無い魔力。
「……それって、めちゃめちゃ怪しくないか?」
胡乱な目をするエルとは違い、バアルは涼しい顔をしている。
「さぁな。気にならんと言えば嘘になるが、積極的に関わろうとする程の関心は無い」
そんな物よりビールの方が大事、と言わんばかりに彼はグラスに口を付けた。
「…………」
自分の世界で起こっている事では無いとは言え、それが魔界の最上位の存在の一員である者が未知の危険(違うかもしれないが)に対して取る態度なのか。
まぁ、魔界に住む者は奔放な性格である傾向が強く、束縛を嫌い、自由を好む事は知っているのでエルはこれ以上考えない。虚しくなるだけだ。
そんな事より、バアルの言うきな臭くて異質な魔力について考えよう。
今、学院の中にその様な魔力があると言う現象の心当たりは一つしか無い。
通り魔だ。
違う可能性も無きにしも非ずだが、時期と己が立てた魔力を狙っているという予想を合わせて推測するとほぼ確実ではなかろうか。
きな臭くて異質な魔力。通り魔。
……何か、ヤバくね?
「……悪い予感しかしない」
うへぇ……、とエルは顔を顰める。
その瞬間にバアルがこちらを向いて、
「そうは言っても、お前は動けんだろう」
と、苦言を呈された。
「……」
無表情50%、冷たさ50%の顔になる。
「ロウェンに訊くか……」
結局の所、出来るのはそこら辺までしかないのであった。
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