第三話 ⅩⅡ
ⅩⅠの内容が先週とほぼ同じで、物語が進んでいないのでもう一つ投稿です。
お楽しみいただければ幸いです。
コンコン。
部屋のドアがノックされる。
「? 誰かしら」
マリアが逸早く反応し、来客を出迎える。
「「やほー!!」」
姿を見るまでも無く、エルもロウェンも来客が誰か分かった。
だから、ちょっと驚いた。
姿を現した来客の数の多さに。
「お邪魔します」
「よっ」
「……」
「何でユウキとジョルジオとカイまで……」
来て悪いとは言わないが、寝不足じゃないのか? とエルは思う。
「眠るんじゃなかったのかよ?」
ロウェンも同じ事を思ったのか、疑問を口にした。
「いやぁ、通り魔の事考えてたら気になって仕方なくなっちゃって」
えへへ……、と笑うナディア。ソフィアも同じ顔をしている。
眠気より好奇心が勝つ。エルの脳内辞書の双子の項目に書き足された。
「皆で考えても分からなかったじゃない」
呆れた口調でマリアが言う。
「もしかしたら、エルなら何か分かるかなぁ~? と思って」
ソフィアの発言にエルも呆れる。
病人に何を求めているんだこいつ等は。
「じゃあ、何でユウキ達はここに来たんだ?」
「聞きに行くなら、皆誘った方が良いかなって思って」
ロウェンの質問に、訊かれたユウキ達では無くソフィアが答える。
「二人に誘われて僕も気になっちゃって」
どこまで流され易い性格をしているのだろう。苦笑するユウキにエルは思った。
「俺もそんな感じだな」
「……」
ジョルジオがユウキの言葉に同意し、カイが頷く。
好奇心旺盛なのは別に良いが、今のエルにはちょっと迷惑である。
「……何が知りたいんだ?」
面倒、と内心思いながらも先を促してしまう自分は優しいのでは無く、只単に甘いだけなのだろうとエルは思う。
「えーっと、…………色々?」
「………………」
つまりは明確に何を知りたいと決めている訳では無いという事で。
目を泳がせてとてもアバウトな答えを出すナディアに、エルは閉口した。
「……取り敢えず、一から十まで説明して貰おうか」
話を頭が理解するかどうか、それから何かしら考えが出て来る程頭が回るかどうかは別として。
◇◇◇◇◇◇◇
「ふーん……、本当に何にも分かってないんだな」
双子からの説明を聞いたエルは一番初めにそう言った。
ソファに陣取り、横たわった状態で。
肘掛けを枕代わりにして、体には毛布が掛けられている。
この特別待遇はロウェンとマリアに依るものである。
ありがたいが、居心地が悪いし恥ずかしい。言い換えれば、体に優しいが精神には優しくない、という何とも言えない状況になっている。
「……それで、エルは何か分かる?」
ナディアが訊いてくる。
「んー……」
エルは考え込む。
そもそも、沢山の人生の先輩方が頭を悩ませても未だに分かっていない事を、一個人で18歳の自分が分かる筈ないだろう。とエルは思う。
それに、何か分かったとしてそれをどうするのか? とも。
「被害者は全員分かるか?」
一点だけ気になったので、訊いてみる。
「うん、分かるよ」
「一人目はアルダス=マッケイ。性別は男でトラハ」
ナディアが頷き、ソフィアが喋り始める。
トラハ、というのは職業の一種である。この名前には旅人や何でも屋、腕の立つ者という意味が込められている。
彼等は依頼会社という民間、団体、または国からの依頼が集まる機関で、依頼を受けてそれを完遂し報酬を得る事で生計を立てている。
「二人目はドリーン=ウルフスタン。性別は女でトラハ。三人目はコーデリア=サウス。性別は女で民間人、職業は薬屋。四人目はホアン=フェルナンデス。性別は男で神官…………」
ソフィアの口から紡がれる被害者の名前と性別と職業をじっとエルは聞き続けた。
「どう?」
心配そう、というより怪訝な顔でソフィアに訊かれる。他の面々も彼女と同じ様な顔だ。
無理も無い。被害者の名前は勿論、性別も仕事もてんでバラバラ。規則性も全くない。
一見そう見えるが。
「多分、通り魔は魔力を持った人達を襲っている」
エルの言に、ナディアから質問が上がる。
「え? 人って皆、魔力持ってるでしょ?」
「チェンジリングを潜った人の事だ」
エルは結論を言い換える。
「説明してくれるか?」
ジョルジオの簡潔な物言いにエルは頷く。
「何故、この結論に至ったかの最大の理由は、通り魔の移動だ」
通り魔は北から少しずつファルベント魔術学院がある都市ミュートに近付いている。
「ファルベント魔術学院に近付けば近づく程、チェンジリングを潜った人、つまり魔力を多く持った人間が多くなる」
「でも、偶然そういう移動になってるだけかもしれないよ?」
ソフィアが反論する。
「いや。被害者の順番が後になるにつれて一般人が多くなっている。最近はもしもの時の護身の為に魔術を学ぶ人が増えているから、まず間違いなく通り魔は魔力を多く持った人を狙っている」
最初の方の順番の被害者はトラハや神官が多かった。しかし、順番の数値が大きくなる程、つまり通り魔がファルベント魔術学院に近づく程、一般人の被害者の数が増えているのはそういう事だろう。
「お前等の通り魔誘き出し作戦が嵌ったのも同じ理由だろうな。ロウェンは他者より魔力を更に多く持っているし、魔術も掛けてたんだからな」
ロウェンが元々持っている魔力と、掛けられていた魔術の魔力の相乗効果に惹かれたのだろう。
偶然とは言え、恐ろしく的確に通り魔のツボを突いたのだ。そりゃ通り魔が出て来ない訳が無い。
「まとめると、通り魔は魔力を狙ってる訳だ。チェンジリングを潜った率100%のココに向かってくるのは当然だ。近い内に本当にここに現れるかもな」
断言してやれば、七人は黙った(カイは何時も黙っているので六人というべきかもしれない)。
「で? 確定じゃないが、通り魔の目的が分かった。どうするつもりだ?」
ソファに横たわっているという格好の付かない格好でエルは問う。
問い掛けの相手は特にナディアとソフィアとユウキの三人だ。
カーティスの件があるが、他の四人はエルが言うまでも無く自重できるし、する。
ロウェンとマリアとジョルジオは昔から知っている間柄であるし、カイはロウェンとマリアの話から大丈夫だと判断した。
アイコンタクトで四人を口出しするなと黙らせる。
「……警備騎士団に言うのは、どうかな?」
ナディアが出した案は一番思い付き易く堅実な物だった。
「こっちは一介の学生だ。相手にして貰えないぞ」
エルは反論する。
神子サマ権限を使えば小石程にも大きさが無い障害だが、今のエルの体調では誰もそれを許してはくれない。
アルバなどは今直ぐにでもエルをベッドに連れ戻したくて仕方が無い筈だ。
「でも、中には信じてくれる人がいるかもしれないし、何回も行けば……」
ユウキが更に反論するが、エルは否定する。
「なら、信じて貰えたとして。その事に気付いて教えたのがお前等だと通り魔に知られて襲われたらどうする? 対処できるのか?」
気配無く背後に忍び寄り、一瞬で消え去る幽霊の様な相手に。
「「…………」」
ナディアとユウキは目を伏せた。
二人の次にソフィアが口を開く。
「じゃあ、昨日の夜みたいに誘き出して私達が捕まえる」
もっと駄目だ。
「二度も同じ方法が通用すると思うのか? それに向こうが違う方法で襲ってくるかもしれないぞ?」
「…………」
沈黙。
これで折れる様なら苦労はしない。そして、展開的に苦労しない展開はありえない。
「でも、それでも何か出来ないかな?」
ユウキが言った。
やっぱり。
流されやすい彼にしては珍しい事だ。
エルは溜息を吐いて返す。
「なら、スハイツ先生にでも相談しろ。俺は動けないし、これ以上何も思いつかん」
と、素っ気無くポイ捨てする様に言ったのに、何故か三人は表情を輝かせた。
「「「うん、分かった!!」」」
なんでやねん。
お読みいただき、ありがとうございます。




