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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第三話 ~引いて欲しくない時に限って風邪を引く~
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第三話 ⅩⅠ

 前回の話のロウェン視点です。

 お楽しみいただければ幸いです。

 通り魔との遭遇戦の後、深夜に学生が暇を潰せる様な店が開いているはずも無いので、ロウェン達はただ只管ひたすらダラダラ歩きながら学院へ戻った。

 そして、開門とほぼ同時に門をくぐり、寮に着いた。

 全員、仮眠なども取っていないし疲れていたので、会話もそこそこに部屋へと直行する。

 女性陣と別れ、ロウェンはユウキとジョルジオとカイの三人と共に男子寮へ入り、

「じゃぁな」

「ああ」

 みたいに軽く挨拶を交わして部屋のドアを開けた。

 開けた先には、カップを手に持ちソファに座ってこっちを見るエル。

「「………………」」

 時間は午前五時を過ぎている。まだまだ早い時間けれど、今世界には起床している人がごまんといるだろう。

 だが、エルが起きているとロウェンは予想していなかった。

 考えてみれば、最近のエルの一日はそのほとんどをベッドの上で過ごしている。ろくに体を動かしていないので、起床時間が早くなってしまうのは簡単に推測できる。

 このまま黙っているのは不味い気がしたので、ロウェンは何とか言葉をしぼり出す。

「悪ぃ悪ぃ、子供達と遊ぶのに夢中になって世話とかしてたら何時いつの間にか十二時過ぎててさ」

 ハハハ……、と笑いながらエルの視界からの脱出を試みる。

 まさか、通り魔と戦った事がバレる訳は無いと思うが、うっかり口が滑ってしまうかもしれないから。

 そう思いながら寝室のドアのノブに手を掛けたその時。

「ロウェン」

 呼ばれて、ロウェンは動きをピタッと停止してしまう。

 やましい事が無ければ何とでも対処できるものを、それがある為に体が一々反応する。こういう時こそ何でも無い顔で流したいのに。

 でもまだ名前を呼ばれただけだ。大丈夫。

 ロウェンが考えた瞬間だった。

「その魔力は、何だ?」

 予想外な上に、意味不明で理解不能な言葉が降ってきた。

 ロウェンは動揺する。

「……な、何の事だ?」

 何とか返すと、エルにはぁ……と溜息を吐かれた。

 マズイ。何とか早く逃げ出さなければ。

 ロウェンはそう思うが、頭の中を焦りが支配していて動いている様で動いていない。

「取りえず、風呂に入って着替えて来い」

 だから、何だか良く分からないけどエルのこの言葉に心底安堵した。

「ああ」

 今日は運が良いな、そう思った。

「その後にきっちり話してもらうからな」

 前言撤回。全然良くない。

「………………」

 沈黙。

「…………」

 振り向いてみる。

 振り返った先にあるのはエルの笑顔。

 ヒク、と口元が引きる。

 良くない所か、今日の運は悪い。

「良いな?」

 嗚呼ああ、恐ろしくてたまらない筈の笑顔が眩し過ぎる。

 冷や汗が止まらない、止まらない。

 低い声で言われれば、拒否など出来よう筈も無い。

 ブンブンと首を振り、体で肯定を表現してロウェンは寝室に入った。

 大急ぎで風呂に入り、着替えてエルの向かいにあるソファに腰を下ろす。

「……………………」

 しかし、エルは口を開かない。

 とても気まずい。

「……ごめんなさい」

 耐え切れなくて、頭を下げた。

 謝ったら、やっとエルが声を出してくれた。

「マリアは?」

 忘れてた。共犯者の存在を。エルに対する恐怖で一杯で。

「マリアもだ。後、ナディアとソフィアに、ユウキとジョルジオとカイも一枚噛んでる」

「…………」

 正直に答えたら、めっちゃ渋い顔をされた。

 ロウェンもエルの立場だったら、同じ顔をすると思う。

「取り敢えず、マリア呼んで来い」

「……はい」

 命令には、従うのみである。

「……で? 何してきたんだ?」

 マリアを呼び出し、再びソファに座った所でエルが尋ねてくる。

 素直に白状します。

「「通り魔と戦いました」」

 マリアとハモっても、今は何とも思わない。

 それはマリアも同じ様だ。大人しくしている。

「通り魔? 何だそれ」

 エルに目をぱちくりさせて問われ、驚いた。

「え? 知らないの?」

 マリアが聞き返す。

「いや、通り魔の意味は知ってるぞ? そうじゃなくて、何がどうなってそうなったんだ?」

 別に、通り魔の意味を知らないのか? とマリアは問い返した訳では無いだろうし、通り魔という単語を知らないとも思ってないから、余計な説明はしなくて良いのに。

 エルの言葉にマリアが返す。

「いやいや。最近、この近くで現れてる連続通り魔の事、知らないの?」

「連続? 何だそれ」

 困惑顔でエルにまた問われて、やっと気付いた。

「あぁ、そっか。エルはナディアとソフィアの話聞いてねぇもんな。俺も話してねぇし、知る訳ねぇか」

 何時も三人一緒に行動している所為せいで、ロウェンとマリアの知っている事はエルも知っている、とこれがなかば常識と化しているから失念していた。

 最近、エルはずっと寮の部屋にこもりっ放しで外の情報がほぼ届かない。

 知らないのも無理はない。

 納得していると、エルが不機嫌な表情をした。

 ヤバ、早く話さないと。

「何なんだ? その連続通り魔は?」

 話し始める前に、エルに訊かれた。

 それから、連続通り魔の事と戦う事になった経緯の説明をする。

「……それで、帰りが朝になってしまったと……」

「「はい、そうです」」

 気付かない内に、何故なぜかマリアと二人で正座をしている。

 何故か。そんな気分だからだ。

「まぁ、らない事に首を突っ込むなとか、色々と考えが足りないとか、言いたい事はあるが……」

 来るだろう説教という名の雷にそなえ、体を縮こまらせる。

 自分達が悪いのは分かっている。怒られる覚悟もしている。だが、それとこれとは話が別で、怖い物は怖いのだ。

「分かってる様だから、別に言わなくても良いだろう。それに、今俺に怒る体力無いし」

 何て言うか、こう、ゴミをポイッとゴミ箱に捨てる様な感じで言われて、ロウェンは拍子抜けした。

 ポカンと口を半開きにしているマリアも多分そうだろう。

 エルが口を開く様子が無いので、本当に雷が来ないと分かってロウェンは安心した。

「…………でも、俺がこの部屋から一歩も出られなくて、暇で退屈で死にそうなのに、お前等は外でそんなに遊んで、さぞかし楽しかったんだろうなぁ」

 最後に、哀愁あいしゅう、みたいな重苦しい雰囲気で呟かれ、とても申し訳ない気持ちになった。

 ホント、申し訳ない。


 お読みいただき、ありがとうございます。

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