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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第三話 ~引いて欲しくない時に限って風邪を引く~
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第三話 Ⅹ

 お楽しみいただけると幸いです。

 夕方まで帰って来れない。

 こう言われれば、夕方頃に帰ってくる。または、最悪その日の内までには帰ってくる。

 と、エルは解釈する。解釈した。

 だから、翌日の朝に帰ってくるとは露程つゆほどにも思わなかった。

 エルは今、昨日来て部屋を出て行った服を着たロウェンが玄関から入って来た事に驚いている。かろうじて表情には出ていない。

「「………………」」

 お互いに何も言わない。

 帰って来ない事に気付かなかったのか? そう訊かれればエルは正直に、はい、と答える。

 昨日はロウェンが出掛けた後、一気に調子が悪くなって体力を消耗し、夕方頃に就寝。不可抗力とは言え、朝日と共に起きる爺よりも早く眠ってしまったのだ。

 寮に外出届や外泊届なぞ存在しないが、学院の開門・閉門時間は決まっている。

 寮は学院の敷地内にあるので、必然的に門が閉じている時は学院へ入る事も学院から出る事も出来ない。

 開門は朝五時から。閉門は夜十二時だ。

 何があったのかは知らないが、詰まり、ロウェンは夜十二時を過ぎても街に居た事になる。

 まぁ、それは別にどうでも良い。

「悪ぃ悪ぃ、子供達と遊ぶのに夢中になって世話とかしてたら何時いつの間にか十二時過ぎててさ」

 ハハハ……、と笑いながらエルの座るソファの横を通り過ぎ、自分の寝室へ足を運ぶロウェン。

 エルは改めてロウェンを視る。

「ロウェン」

 名を呼ばれ、ドアノブに手を掛けた状態でピタッと停止するロウェン。

 応答を待たず、エルは続ける。

「その魔力は、何だ?」

「……な、何の事だ?」

 しらを切るもりの様だが、動揺を全く隠せていない。

 はぁ……、とエルは呆れた様に息を吐く。

「取りえず、風呂に入って着替えて来い」

 そう言ってやれば、ほっとしたのかロウェンは息を吐き出し返してくる。

「ああ」

「その後にきっちり話してもらうからな」

 喰い気味に付け足す。

「………………」

 ロウェンは答えない。

 何となく、そんな気がしたので、上半身をひねって後ろを振り返る。

 笑顔で。

「…………」

 ゆっくり、背を向けていたロウェンがこちらを振り返ってくる。

 普段に無い雰囲気を察したのだろう、その顔は若干引きっている。

「良いな?」

 疑問符が付いているが、彼に拒否権は無い。

 笑顔のまま、低く告げると、ロウェンはブンブンと首を上下に振り寝室に入って行った。

 余程の事が無い限り、ロウェンとマリアが危機におちいる事は無いと分かっているので危惧きぐはしない。

 しかし、理性が納得し理解していても、感情はそう簡単に納得も理解もしない。

 それに、不可抗力でそうなってしまったのならまだしも、突っ込まなくても良い事に首を突っ込んでいたのなら、怒るのは当然である。

「……………………」

 汗を流し、服を着替えたロウェンがテーブルを挟んだ向かい側のソファに座っても、エルは口を開かなかった。

 対するロウェンは相当気まずそうだ。

「……ごめんなさい」

 テーブルに額が着く程、彼は頭を下げた。

 それを見て、エルはようやく口を開く。

「マリアは?」

「マリアもだ。後、ナディアとソフィアに、ユウキとジョルジオとカイも一枚噛んでる」

「…………」

 返ってきた答えに、エルは眉根を寄せ、閉口する。

「取り敢えず、マリア呼んで来い」

「……はい」

 程無くして、エルの前にいる人数が一人から二人に増えた。

「……で? 何してきたんだ?」

 問うと二人はあっさりと口を割る。

「「通り魔と戦いました」」

 エルは目をぱちくりさせる。

「通り魔? 何だそれ」

 これを聞いてロウェンとマリアも目をぱちくりさせる。

「え? 知らないの?」

 マリアが聞き返す。

「いや、通り魔の意味は知ってるぞ? そうじゃなくて、何がどうなってそうなったんだ?」

「いやいや。最近、この近くで現れてる連続通り魔の事、知らないの?」

 驚いた様子で訊いてくるマリア。

「連続? 何だそれ」

 困惑顔で問い返す。

「あぁ、そっか。エルはナディアとソフィアの話聞いてねぇもんな。俺も話してねぇし、知る訳ねぇか」

 一人で何かを理解するロウェン。

 エルは少しむっとする。

「何なんだ? その連続通り魔は?」

 それから、連続通り魔の事と戦う事になった経緯けいいの説明を受ける。

「……それで、帰りが朝になってしまったと……」

「「はい、そうです」」

 何時の間にか、エルの前に座る二人はソファの上で正座をしている。別にそんな指示はしていない。

「まぁ、らない事に首を突っ込むなとか、色々と考えが足りないとか、言いたい事はあるが……」

 話の経緯から、説教をしなければならない相手はロウェンとマリアではない。二人にもいたらない部分があるとは言え。

 ロウェンとマリアは沈んだ表情をしている。

「分かってる様だから、別に言わなくても良いだろう。それに、今俺に怒る体力無いし」

 説教をしない最大の理由は後半だったりする。

 こうして話してるだけでも疲れるのだ。申し訳ないが、自分以外の者にかまっていられない。

 二人はあからさまにホッと安堵した顔をする。

 ただ、一つだけ、言っておきたい事が。

「…………でも、俺がこの部屋から一歩も出られなくて、暇で退屈で死にそうなのに、お前等は外でそんなに遊んで、さぞかし楽しかったんだろうなぁ」

 顔を背けて遠い目をし、フッ……と暗い笑みを浮かべて呟く様に言う。

 すると、ロウェンとマリアは見る見る内に狼狽うろたえ出す。

 完全な八つ当たりだが、二人にも悪い所はあるので許して欲しい。


 お読みいただき、ありがとうございます。

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