第三話 Ⅵ
昼休み。
今度はジョルジオとカイを入れた七人で、通り魔事件について再び盛り上がっていた。
何故また同じ話題なのかというと、単に他に面白い話題が無いからである。
「何か色々な噂を聞いたよ」
交友関係の広いジョルジオが言った。
「凄腕の暗殺者のお遊びだとか、騎士団への挑戦状だとか、人間嫌いの人間の仕業だとか、他にも変な話を一杯」
眉を下げて苦笑するジョルジオ。
因みに、騎士団とは正式名称をヴァルト警備騎士団と言い、ヴァルト中立自治領の警察の様な物と思ってくれれば良い。その内に説明する機会が来るだろう。
「幽霊……」
ポツン、と隣でカイが零す。
「幽霊?」
右隣でカイの小さな呟きを聞き取ったユウキが復唱する。
そして、向かいでユウキの言葉を聞き取ったロウェンが尋ねる。
「は? 幽霊?」
「何が幽霊?」
更にマリアが口にする。
「通り魔が幽霊って噂もあるって事?」
推測してユウキがカイに訊く。
コクン、と首肯するカイ。
「あー。やっぱエルが居ないとカイとの話はスムーズに進まないな」
ハハハハハ……、と乾いた笑いを発するジョルジオ。
「普段あんまり喋らないからそう思わないけど、偶に喋るとそう感じるね」
今日はエルが居ないから特に、とソフィアが言う。
ナディアがフォローに回る。
「別にカイが悪い訳じゃないから気にしないでね」
カイは無言で頷いた。
「何はともあれ、速く捕まって欲しい物だね」
「そうね。学院にまで来る事は多分無いだろうから、安心っちゃ安心だけど」
ジョルジオとマリアの希望にソフィアが反応する。
「どうだろうねぇ。もう12人もやられてるし、長く掛かると思うよ?」
通り魔は一回に付き一人を襲うので、被害者の数が12人=事件の件数が12件である。
「じゃなきゃ、こんなに噂は立たないでしょ」
ナディアが妹に同意する。
「兎に角、夜の外出は控えないと」
「だな。つっても、夜に外へ出る用事なんてねぇけど」
ユウキの言葉に賛同しつつ、興味無さそうなロウェン。
因みに、ファルベント魔術学院の寮に外出届や外泊届などは、無い。
全て自己責任。
「土曜日はどうする? カーティスさんのとこ行く?」
「大丈夫でしょ。昼間なんだし、早めに帰れば」
マリアとソフィアの台詞にジョルジオが興味を持つ。
「カーティスさん? 誰それ」
「入学直後に知り合った人。今週の土曜日に遊びに行く予定なの」
説明してナディアはジョルジオとカイに視線を向け誘ってみる。
「一緒に行く?」
「んー、いや、予定があるからまた別の機会に」
カイも首を横に振る。
「そっか」
三人の会話の横でソフィアが声を上げる。
「あ! 土曜日エル行ける?」
彼女はロウェンとマリアに答えを求める。
「「無理だな(ね)」」
同時に二人は即答した。
「マジで~。お菓子どうしよう?」
「どっかで買って行けば良いじゃない」
嘆くソフィアにマリアが進言する。
「それが駄目なのよぅ」
沈んだ声でソフィアは否定した。
「何で?」
当然、マリアは質問する。
「だってこの前、次は飴を持って来るってエルが約束してたんだもん」
ソフィアの嘆き様が分かった。
「……それはマズイね」
皆の心の声をユウキが代弁した。
託児所の子供達はエルの飴にすっかり心酔している。
飴が無い理由を言えば、あの子達はすんなりと諦めてくれるだろう。
しかし、ソフィアが見たエルと約束する子供達の瞳の輝きといったら。
もう、とてもとても楽しみで仕方が無い、という期待に満ち満ちていたのだ。
不可抗力とはいえ、あの期待を裏切るのは想像するだけで心が痛む。
マリアは呟く。
「困ったわ……」
ロウェンとユウキは兎も角、子供達にメロメロな女性陣の落ち込み様は半端無い。
「ロウェンとマリアが持って行けないの?」
ナディアの言葉に二人は首を振る。
そういえば、双子とユウキはエルが飴を作っている張本人だと知らないんだった。
「俺等じゃ無理」
ロウェンは言って、苦い顔をする。
作っている本人がダウンしているのに、用意する事なんて出来ない。
「そっかぁ……」
ナディアが再び沈む。
「「???」」
事情を知らないジョルジオとカイは目を白黒させるばかり。
お菓子の威力って、絶大だ。
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