第三話 Ⅱ
今回は、一応ロウェン視点です。
お楽しみいただけたら幸いです。
朝目を覚ましてロウェンが寝室から出ると、エルがキッチンで水を飲んでいた。
「おはよう」
コップに入った水を飲み干し、エルが挨拶してくる。
「ああ、はよ」
ロウェンはいつも通りに挨拶を返すが、違和感がある。
「………………」
その違和感を突き止める為に、じっ……とエルを観察する。
「何だ?」
当然、まるで睨む様に見詰められて、気になったエルが訊いてくる。
違和感を突き止めたロウェンは答えない。
代わりに言う。
「エル、今日からお前、休みな」
殆ど命令に近い。
「は?」
エルが間の抜けた声を発している間に、ロウェンは続ける。
「朝食は食べ易いもんを後で部屋に持って来るから。大人しく待ってろ」
グビッと一気に水を呷り、寝室に戻ってさっさと制服に着替える。
先手必勝。エルに有無を言わせない様、言葉と行動で畳み掛ける。
寝室から出て、早足で一気にリビングを横切る。
急いで扉を開けてロウェンは部屋から出て行く。エルに反論にさせる隙は与えない。
階段を下り、食堂に行くと、マリアが居た。
マリアは直ぐにロウェンに気付いた。
「おはよ」
「はよ」
互いの挨拶の後、次にマリアに言われる事は決まっている。
「エルは?」
「調子が悪い。今日から休み」
「どの位悪いの?」
やや深刻な表情でマリアが問う。
「首触ってたからな。かなり悪い」
「あぁ、なら、暫く休ませないとね」
エルは体調が思わしくなくても我慢する。その上、隠すのが上手いので周りの人達はエルが打っ倒れるまで気付かない。しかも、本人もそうなるまで気が付かない事も多々ある。
と言っても、完全に隠し切れている訳では無い。悩みや嘘など精神的な物に関わる物なら兎も角、病気の様に体に起こっている物は無意識に表に出てしまう。
そのサインが、首を触る、という行為。それがエルに出るのが、朝のまだ彼が寝惚けている時間だ。まぁ、それも体調がかなり悪化してからだけれど。
エルは体調を崩すと、熱として体に表出するらしく、恐らくは顔を冷やそうと首を触っているのだろう。
額を触るんじゃ無いのか、と思われるかもしれないが、そうすると周りに簡単に気付かれるので無意識に痩せ我慢している物と思われる。
体調が悪いのに、本人は休まないし気付いて無い事も多いし、周りが気付くのも遅いので、エルが休む期間は大体長くなる。
ロウェンは朝食を受け取り、マリアと一緒に食べていると、ユウキが来て、次にジョルジオとカイが来て、最後に双子が来る。
ほんの少し前まではジョルジオとカイを除いた六人で食べていたが、今では二人を入れた八人で食事をする事が多い。
そして、後から来たカイ以外の四人に同じ質問をされる。
そして、ロウェンは同じ答えを返す。ちょっと面倒臭い。
答えを聞くと、皆心配そうな顔をする。ジョルジオはエルの悪い癖を知っているので、他の人より深刻そうな表情だ。
「二人のどっちか休む? 看病で」
少し考え、ナディアが言う。
「ううん。そこら辺は大丈夫。看病より、休んでる間のノートの方が重要」
傍に人がいるとエルは休まない、とマリアが答える。
「そう? じゃ、お見舞いはしない方が良いね。お大事にって言っといて」
「OK。学院には先に行って。エルの所に寄って行くから」
ナディアとマリアの会話を聞きながら、ロウェンは黙々と食事を続ける。
「風邪?」
ソフィアが訊いてきたので、モゴモゴと口を動かしながらロウェンは返す。
「ま、そんなトコロ」
「最近忙しかったから、疲れたんじゃないかな」
ユウキの言葉に、カイがコクリと頷く。
朝食を食べ終え、マリアと共に席を立つ。
「何か必要な物があったら言ってくれ。手伝うから」
「分かった、サンキュ。また後で」
ジョルジオに感謝をして、ロウェンはエルの朝食を受け取って部屋に戻った。
お読みいただき、ありがとうございます。




