第一話 Ⅵ
お久しぶりです。
書いては止まり、書いては消し、ということを繰り返しているうちに、前回から二十日以上経ってしまいました。
楽しみに読んでくださっている方々、申し訳ありません。
クラス発表当日。
双子を含めたエル達五人はクラス編成が記された大きな白いボードの前に立っていた。
綺麗に横に並べられたボードの数は全部で八つ。
一番上には目立つように大きく太字で書かれたA~Hのアルファベット、その下にはそれぞれ二十五人の名前が書かれている。
現在、エル達を除いてボードと睨めっこをしているのは六、七人。
人が少ないのは、人込みの中での名前探しを嫌って少し早めに寮を出たからだ。
名前を見つけた生徒が向かう先には、約千年の歴史と威厳を感じさせる赤レンガ造りの校舎がある。
その向かい側にも多少の違いはあるが、ほぼ同じ造りの校舎があった。
見れば、此方と同じように白いボードが八つ並んでいるのが分かる。
学院には魔術科と魔具科の二つの学科がある。
魔術科は魔術師、魔具科は魔具師になる為の学科だ。
魔術師は魔術を使った仕事をしている人のこと。
魔具師とは魔具を作る職人のこと。
嘗ては魔具師も魔術師と呼ばれていた。
魔術師には及ばないが魔具師も魔術を使えたからだ。
だが、いつしか区別が面倒だった人々が魔具師と呼び始め、定着した。
名前の由来は説明しなくても分かるだろう。
昔は魔術師、魔具師という名前は個人の持っている力や技術のことを指していたが、現在では職業を指して呼ばれる色合いが強い。
五人が所属しているのは魔術科。
それほど苦労することなく五人は自分の名前を見つけた。
五人とも同じ1-Gだった。
「全員一緒か。スゲーな」
ロウェンが驚きの声を上げる。
「ホント、こんな偶然ってあるのね」
マリアも同じく驚いている。
そんな二人を見て、ナディアが言う。
「マリアとロウェンって、似てるよね」
ソフィアがそれに同意する。
「うん。言動が」
それを聞いたロウェンとマリアが、
「「似てない!!」」
と、ハモる。
「「息ピッタリ」」
双子もハモる。
「「合ってない!!」」
おぉ、凄い。三回連続。
「こんな乱暴女と一緒にすんな!」
残念、三回で終わってしまった。
「こんなデリカシーのない奴と一緒にされたくないわ!」
どちらも双子に向けられたものだ。
「何だと?!」
「何ですってぇ?!」
標的が双子から互いに変わった。
「何でも暴力に物を言わせて物事を解決するお前に言われたくねぇよ!」
「人のプライバシーに土足でズカズカ入っていくるアンタに言われたくありません!」
「暴力女よりマシだ!」
「デリカシーのない奴よりマシよ!」
二人はぎゃんぎゃん言い合う。
「止めなくてもいいの?」
ずっと傍観しているエルに、まだ二人の喧嘩に慣れていない為心配になったナディアが聞いてきた。
「あぁ」
即答する。
「ホントに?」
素っ気ない返事に不安を覚えたのか、今度はソフィアが聞いてきた。
「あぁ。あれはアイツ等のコミュニケーションだ」
「あれが?」
ナディアが、マジで?という顔をしている。
「そう」
これも即答する。
双子は喧嘩をしたことが殆ど無いか、または一度も無いのだろう。
二人の顔にありえないという文字がデカデカと浮かんでいる。
「忠告するが、あれは止めようとするな」
アドバイスする。
「何で?」
ソフィアが不思議そうな顔をする。
「こっちにとばっちりが来る」
「「来たことあるんだ?」」
「あぁ」
察しが良いな、と思う。
話の流れからして、どんなとばっちりが来るのか真っ先に聞かれると思ったのだ。
だが、双子は無意識に言葉の中に込められた僅かな苦い思いを読み取ったらしい。
「どんな?」
感心しているとエルが予想していた疑問を嬉々としてナディアが聞いてきた。
表情と雰囲気から完全に面白がっているのが手に取るように分かる。
見ればソフィアも同じ興味津々な顔をしていた。
そんな二人から目を外し、何でもない事を言っているような表情で言う。
「その時は辺り一帯に直径十メートル位のクレーターが出来たな。俺はそれに巻き込まれて五十メートルほど吹っ飛ばされた」
「「………………」」
双子の顔が青ざめる。
「だから、止めておいた方がいい」
「「……!!」」
二つの頭がぶんぶんと上下に動いた。
あの時は本当に死ぬかと思った。
地面に激突する寸前に助けが入ったから大事には至らなかったが、そのまま落ちていたら腕や足の骨が折れるどころでは済まなかっただろう。
最悪の場合、死んでいた可能性もある。
その後、それを知ったタリアやディアナ、他の人達が激怒し、心配したことは言うまでもない。
勿論、ロウェンとマリアがどうなったかも。
それ以来、周りの者達の懇願で二人の喧嘩を仲裁するのは止めた、というか禁止された。
エルもあんなことは御免なので二度とやるつもりはないが。
あの時二人は猛反省したらしく、それからの喧嘩はいつも口論で終わり、そのようなことは一度も起こっていない。
分かっているのにそれでも喧嘩を止めようとしないのは、有名無実化した約束を守っているからなのか、それとも吹っ飛ばされたことがトラウマとなって怖気づいているのか、将又ロウェンとマリアの喧嘩を見ていたいだけなのか。
見舞いに来た二人はしょぼくれていて、その時は心配させて申し訳ないという気持ちを抱くと同時に、とても嬉しいと思ったのを覚えている。
今思い出すと物凄く面白くていい思い出だ。
あんな二人の顔は、後にも先にもあの一回だけだから。
そこまで考えて、そろそろ行くか、と声をかける。
「ロウェン、マリア。俺達はそろそろ教室に行くからな。ナディア、ソフィア、行こう」
そして、双子を連れてさっさと校舎に入っていく。
「えっ?! ちょっ、待ってくれ!」
「そんなぁ。待ってよー」
さっきまでの険悪な空気はどこへやら、ロウェンとマリアが走って三人の後を追ってくる。
そんな二人を見て顔を寄せ合い、ナディアとソフィアがくすっと笑う。
「やっぱり」
「似てるよね」
その言葉を聞いて、エルも笑う。
「そうだな」
今回の反省と私個人が忙しくなって参りましたので、投稿の速度を落として行こうと思います。
希望としては、月に三回ほどにしたいと思っています。
勝手だと思いますが、今後もお付き合いいただけると大変嬉しく思います。