第二話 ⅩⅠ
先日、第二話 Ⅶで読み仮名がちゃんと付けられていない部分があったので、修正しました。
お楽しみいただければ幸いです。
チャールズがステージから去り、今度はエル達がステージに立つ。
全員が前を向き、姿勢を正したのを認め、教師は言う。
「では、これより生徒会、風紀委員会、神官部活動生の紹介を始めます」
言った教師が壁際に下がるのを見て、まずオレストが一歩前に出て自己紹介をする。
「私が今年度の生徒会長を務める事になったオレスト=ブレイフマンです。よろしくお願いします」
人数が多いので、皆ほぼ名前だけを告げて次の人へパスする。
生徒会の中で一年生はエルのみなので、名乗る順番は六番目、生徒会では最後になる。
「生徒会の書記をする事になりました、エル=フェルトゥナです。よろしくお願いします」
一歩前へ出て、ペコッと頭を下げ、エルは元の位置に戻る。
そして、エルの左に並ぶ風紀委員会、神官部活動生が名乗る。
全員の自己紹介が終わった所で、もう一度オレストが一歩前に出る。
「この中に、生徒会、風紀委員会として、自分の方が相応しいと思う者は居ますか? 居たら、手を挙げて下さい」
神官部活動生は神官部に入っている人しかなれないので除外されている。
手を挙げる人がいなければ、生徒達がステージに立つ面々を承認したという事になる。
ステージに立つ者達は実力が未知数な一年生を除いて、文句無しに今のファルベント魔術学院に於いて最強のメンバーだと言える。
その上ここ数年、手を挙げる者は居なかったので、今回もそうだろうと皆が思っていた。
しかし、予想に反して手が挙がった。
ザワッ……、と声無く、生徒は勿論、教師も驚く。それはステージに立つエル達も同じだ。
オレストはハッとして、手を挙げた人物に言った。
「ではその場に立ち、自分の名前と相応しくないと思う相手を言って下さい」
オレストに言われて立ち上がったのは、緑色のネクタイをした男子生徒。
黄色い髪に緑の瞳をした彼の顔は、真面目な物であったり、緊張で強張っていたりはしていなかった。
彼が顔に浮かべているのは、笑み。
人を見下し、不快にさせる様な。
「俺はバルド=オークランス。相応しくないのは、エル=フェルトゥナだ」
「え」
「なっ……」
エルは固まり、オレストや他の者達は衝撃を受ける。
エルは当然として、彼以外の人達が衝撃を受けたのは何故なのか?
バルドは三年生だ。そしてエルは一年生。
ただ年齢だけを考えるのならば二年という差はそれほど大きい物ではない。
だが、魔術学院で魔術を学ぶ者としては一年でもとても大きな差になるのだ。
二年生と三年生ならまだしも、特に一年生と二年生の差は大きい。
ましてや、一年生と三年生の力量の差は考えるまでも無い。
故に学院の生徒達の間には、上級生は下級生に勝負を挑んではならないという暗黙のルールが存在している。
しかし、バルドはそれを堂々と破った。
本来なら三年生に勝負を挑まなければならないのに、反対にまだ入学して間もない一年生を相手に指名したのだ。常識的にあり得ない。
エルを含め、バルドの台詞を聞いた人達が驚くのも当然だった。
「本気なのか……?」
オレストの言葉にバルドは笑みを深める。
「は? 三年が一年に戦いを挑んじゃいけないって校則なんて無いんだから、別に良いじゃねぇか」
「ッ…………」
確かに、学院にそんな校則は無い。事実なだけに、オレストは反論する事が出来ない。
どんな結果になるとしても、オレストは勝負をする事に躊躇いは無いし、問題無かった。
問題なのは、勝負の相手に指名されたのが一年生のエルで、勝負を挑んでいるのが三年生のバルドであるという点である。
恐らく、ステージに立つ面々を除けば、バルドはトップの実力を持っている。
エルは、オレスト達生徒会が一年生の中でこれだと思う人材ではあるが、学院でかなりの強さを持つバルドに勝てるとはオレストは思わなかった。
ならば棄権すれば良いじゃないか、と思うかもしれないが、それは出来ない。
通常の勝負、決闘であれば可能なのだが、今回は違う。
勝負の後、生徒達に実力が本当にあるのかと不信を抱かせない為に、戦わずして勝敗を決する事は出来ないのだ。
バルドの性格は残虐だ。他人を傷つける事を平気で、いや、楽しんでする。
ヴァルトでは都市を治める人の事を都市長と呼ぶ。バルドの父親はストラという都市の都市長だ。
彼の父親、ディックは知的で良い都市長なのだが、教育が悪かったのか関わってくる人間が悪かったのかバルドの性格は頗る悪い。
人間として最低レベルなバルドであったが、去年まではまだマシだった。
それは彼の兄の存在の御陰だ。
名をイェルドというバルドの兄は、父ディックにそっくりな知的な人物で副会長をやっていた。
流石にバルドは兄のイェルドに自分の蛮行を知られるのは不味いと思っていたのだろう、イェルドが学院にいる間は素行にやや難はあった物の、特に問題を起こしはしなかった。
だが、イェルドが学院を卒業してから、バルドの行動はどんどん悪くなっていった。
腕がそこそこある為に取り押さえるのが大変で、生徒会と風紀委員会と神官部の悩みの種になっている。
そんな彼と戦って、エルが無事で居られるとは到底思えなかった。
エルを無理矢理生徒会に入れてしまっているので余計に、彼を危険な目に合わせる事をオレストはしたくなかった。
そう思っても、バルドに引き下がらせる術をオレストは持たない。
「大丈夫です」
眉間に皺を寄せ悩むオレストに声が掛かる。
掛けられた言葉にオレストは、バッ、と声の主に振り返る。
「大丈夫です」
もう一度同じ言葉を口にし、微笑みかけるエルにオレストは言った。
「……済まない」
眉間の皺は消えない。
オレストは、ステージを見上げてニヤニヤ笑っているバルドを見て、告げた。
「……分かった。試合は来週の金曜日、時間は五時、場所は闘技場。異存は?」
「無い」
バルドが肯定し、教師が集会の終了を言い、お披露目会は終わった。
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