第二話 Ⅹ
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それから四日間をエルは見世物パンダ状態で過ごし、お披露目会当日。
お披露目は神官部活動性、風紀委員会、生徒会の順。
大講堂に集まるのはファルベント魔術学院の全生徒と全教員。
クラリスの説明の、全教員、の部分にエルは疑問を感じた。
生徒会、風紀委員会、神官部活動性のメンバーを発表する会に、全生徒が集まるのは理解できるが、仕事の面を考えると全教員が集まる必要は無いと思ったからだ。
疑問に思いはしたが、その疑問をエルが口にする事は無かった。
教師達にも顔と名前を覚えてもらう為かな、と予想を立てた事もあるが、物事全てに一々意味がある訳が無いからだ。
それに、必要があるなら教えてくれるだろうとも思っている。
頭の中でそんな事をぼんやり考えながら、エルは先輩達の指示と行動に従う。
ステージの前には生徒。教師陣はそれぞれ思い思いの大講堂の壁際に。ステージに向かって左側にはエル達お披露目会のメンバー。
照明が四割程落とされた広い空間に一人の教師の声が響く。
「只今からお披露目会を始めますが、その前に、先日の入学式に所要でいらっしゃる事が出来なかったケレステア神殿の元神子、チャールズ=フェルトゥナ様からお話があります」
教師の言葉に生徒達がざわめく。
ざわめきの理由は驚愕。
無理も無い。ヴァルト中立自治領に於いて一、二を争う程に有名で力を持つ立場にいる人物が、何の前触れも無く今この場に来ていると言われれば。
ケレステア神殿。
ヴァルトの五つに分けられた権力の内の一つを持ち、ヴァルトの医療・福祉を担う機関である。
代表、神殿のトップである神官長を務めるのはディアナ=サクラーレ。
ケレステア神殿で一番偉いのは彼女だ。
では、前述したヴァルトで一、二を争う程に有名で力を持つ立場であるというケレステア神殿の神子とは一体何なのか?
神子を一言で表すなら、象徴、と言った所だろうか。
国や組織と言った大きな物には、見た人にそれをそれと知らせるシンボルがある。
大抵は国旗や絵の様に見て分かる物であり量産できる物なのだが、神子にはケレステア神殿の象徴の他にもう一つ役割がある為、人なのだ。
神殿が行う医療と福祉は物理的な物だけではなく、精神的な物も活動の範囲に入っている。
それは勿論、精神に異常を来した人の治療となるのだが、これは神子の役目ではない。
医者に掛かる程ではなくても、恐怖や悩み等、心に影を持つ人は大勢いる。
影に負けない様にするには、心の拠り所、支えを持つ事が、まず第一に挙げられるだろう。
そして、出来るだけ多くの人の支えになる物と言えば、やはり神様と答える人が多いだろう。
そう。神子のもう一つの役割とは、人々の神となる事。
居なくなる事が無く、代替わりする所が異なるが、人々を助ける神殿・神殿の象徴たる神子・神子を慕う人々、その在り方は宗教であると言える。故に、神子が政治的な権力を持つ事は一切無い。
ヴァルト中立自治領である意味、最も高貴な存在。それが神子である。
周りが神様の様に思っている人物の来訪に驚いている中、エルは別の意味で驚いていた。
気付いた人もいるだろう。学院に来たという人物の名は、チャールズ=フェルトゥナ。
エルのフルネームは、エル=フェルトゥナ。
姓から二人が血縁関係である事が分かる。
チャールズはエルの祖父、お爺ちゃんである。母方の。
生徒達が、
「え? 神子様っ!?」
と驚いている時。エルは、
「え? 爺ちゃんっ!?」
と驚いていたのであった。
エルは驚くと同時に、クラリスの事を少し恨めしく思った。教えてくれれば良いのに……、と。
まぁ、そうクラリスに言えば、訊かれなかったから、と言われて終わりになると思うので言いはしない。人間、諦めが肝心だ。
視線を左右へ向けると、ジョルジオやカイや他の一年生も驚いていた。
同じ境遇の者が居たのでエルは何となく安心した。
そんな講堂内のざわめきも、当の本人の姿が見えると一気に収まって行った。
青磁色の髪に梔子色の瞳。髪も髭も長い姿は神子というより、辺境の村の長老の方が良く似合う。
年は67。70歳も近い年齢だが、背筋をピンと伸ばしてステージを歩く様子は、まだまだ彼が魔術師として衰えていない事を示している。
エルは学院の全教員が何故この場にいるのかを理解する。
地位も高く、忙しい神子にお目に掛かる機会は中々無い。
間近で姿を見たいと思うなら尚更だ。
学院外部からの来訪者が居ない今日のこの集会は滅多に無い機会。逃したくないと思うのは当然だろう。
また、チャールズは歴代の神子の中でも五指に入る程、魔術師としての実力を持っている。これも理由の一つになっているだろう。
自分の祖父なのでエルは理解しきれないが。
現在、チャールズは元神子と紹介された通り、神子の立場からは退いている。
しかし、今の神子は就業年齢である18歳に達していないので、チャールズが代わりに神子の職務を続けている。
一応、神子も仕事の一つとされているので、ヴァルトの法律により18歳にならなければ例え神子になっても神子として活動する事は出来ない。
名前も明かされないので、人々は神子の姿も名前も知らない。
ステージの中央に立ち、チャールズは口を開く。
「只今ご紹介に与りました、ケレステア神殿で神子を務めておりましたチャールズ=フェルトゥナです。一年生の皆さん、入学式でお祝い出来ず申し訳ありません…………」
一年生への謝罪と祝辞、そして生徒全員と教師全員への激励、と話が続く。
正直、詰まらない。
話す当人がどう感じているのかは知らないが、こういう話をするのは偉い人の義務の様な物なので仕方ないのだろうが。
元神子の御高説を右から左へ聞き流しながら、つらつらとエルがそんな事を考えていると。
バチ。
実際に音は鳴ってはいないが、そんな感じでチャールズと目が合う。
その瞬間、彼の顔がでれぇっと崩れそうになり、慌てて引き締める所をエルは見なかった事にする。
チャールズは爺バカだ。エルを溺愛している。
序でに言うと、彼の妻、エルにとっての祖母、名をダフネというのだが、彼女もチャールズと同じくエルを溺愛しており、婆バカである。
序での序でに言うと、二人共親バカでもある。今は対象がエルに移っている所為か、あまり感じないが。そして、彼等の娘であるジゼルも親バカ。
親バカって遺伝するのだろうか? …………恐ろしい。
親バカが悪いと言っているのではない。ただ……、エルは自分がそうなるのを考えると鳥肌が立つ。
考えるだけ無駄だ。止めよう、忘れよう。
「……では皆さん、楽しい学院生活を送って下さい」
気付けば、チャールズの話は終わっていた。
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