第二話 Ⅸ 上
すみません、今回も短いです。
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これからもお付き合いいただけると嬉しいです。
翌週、まさか早速ジョルジオとカイの二人がここに訪れるとはエルは夢にも思っていなかった。
その日は朝から疲れる日だった。
アーロンとキリルがG組の教室を訪れ、エルが生徒会入りを承諾したのは五日前。
会議室で風紀委員会や神官部の人達と顔合わせをしたのは三日前。
学院の生徒ほぼ全員が同じ寮に住むこの環境で、エルが生徒会に入ったという情報が生徒達の間に広がるには十分な時間だったろうが。
それにしても、この状況は一体何なのだろう。
寮の部屋から出てからずっとチラチラと視線を向けられ、見られながらヒソヒソ話をされているこの状況は!!!
「はぁ……」
学院の教室に着いたら着いたで見た事のない顔が教室を覗いていく。
正に見世物パンダとはこの事ではないだろうか、とエルは溜息を吐いた。
運の悪い事に、一年生の中でエルと同じDランク、オレンジ色の髪に銀色の瞳を持った生徒はいない(双子情報)ので、間違いも起こらないのであった。
昼休み。昼食を生徒が大勢集まる学食で食べたくなかったエルが、購買でパンでも弁当でも買って人気の無い所で食べよう、とロウェン達に進言しようとした所に二人はやって来た。
「やぁ。昨日ぶりだね、エル。久しぶり、ロウェン、マリア」
クラスの視線を集めながらジョルジオはまず顔見知りである三人に声を掛けた。
カイはジョルジオの一歩後ろで黙っている。
「そして初めまして。エル達の友人で僕はジョルジオ=カムッシ。後ろにいるのはカイ=ヴィンケルホック、僕の友人です」
次に、初対面のユウキとナディアとソフィアにペコリと頭を下げる。彼の後ろではカイも頭を下げている。
「「「は、初めまして……」」」
エル達の友人だと言う男のいきなりの出現に、ユウキ達は驚くばかりだ。
「で、何の用?」
少々冷たい声でマリアが訊く。
エルがジョルジオに会った事は、既にロウェンとマリアには話してあるので二人が驚く事はない。
昨日の今日で何の用が出来るのか? とマリアはこう言いたいのだろう。確かに疑問に感じるが、そもそも友人が友人を訪ねるのに理由などいらないのである。
マリアのちょっと冷たい声を気にせずジョルジオは答えた。
「昼食を一緒に食べようと思ってね。駄目かな?」
「別に良いけど?」
ロウェンの返答にジョルジオは笑顔で言った。
「じゃあ、学食に行こっか」
(え)
エルの思惑は実行する前に脆くも崩れ去った。
そして、学食へと歩きながら互いの自己紹介を済ませ、学食で昼食を摂る。
そこでは予想通りエルは針の筵、とまでは行かないものの、糸の筵位にはなっていた。悪い物ではない分、痛くはないが鬱陶しくて気になってしまう。加えて、聞き取れそうで聞き取れないヒソヒソ声。
それが教室の三倍はある。
嗚呼、疲れる。
朝は多少の苛立ちがあったが、無駄な労力を使っている事に気付き気にしない事にした。
したのだが、やはり疲れる物は疲れる。
(だから嫌だったんだ……)
勿論、量が三倍以上なので心労も三倍以上になっている。
エルの心境など露知らず、ジョルジオ達はお喋りに花を咲かせていた。
と言っても、会話に参加しているのはナディアとソフィア、そして主催者のジョルジオの三人のみではあるが。
「えぇ?! うそぉ!」
「すっごぉい!」
「それでね…………」
羨ましい限りである。
流石、社交的な三人は直ぐに仲良くなった様だ。
長方形のテーブルの片側に、ソフィア、ナディア、マリア、カイの四人が、反対側にはジョルジオ、ロウェン、ユウキ、エルの四人が座っている。
ジョルジオと双子のお蔭で、テーブルの半分は騒がしい。しかし、もう半分はそうは行かなかった。
「「「………………」」」
エルの隣は会話で聞き手に回る口数の少ないユウキ、正面は声を発する事がない寡黙なカイ。
今のエルはそんな二人を相手に会話を続ける為に頑張れる精神状態ではない。
必然的に残りの半分はカチャカチャと食器同士が当たる音が出るだけの、無言の世界が出来上がっている。
ジョルジオの「学食行こうか」発言や双子の会話へのノリノリ具合を、態とじゃないだろうな、とエルは勘繰りたくなるが、最早そんな気力は残っていない。
これが一週間は続くであろう事を思うと、更にげんなりする。
今日も役に立ちはしないが生徒会に行かなければならない。
エルが生徒会の役に立つ様に、仕事を先輩方から教えてもらう為である。
生徒会に入った実感を得るのはまだまだ当分先だ。
お読みいただき、ありがとうございます。




