第二話 Ⅷ 下
お楽しみいただければ幸いです。
解散、と言われても目上の人より先に退出するのは憚られる。
エルが会議室から出ていく先輩達の背を見送っていると、ポンと肩を叩かれ声を掛けられる。
「や。久しぶり、エル」
声を掛けてきたのは想像通り、ジョルジオだった。
しかし、予想に反して彼の後ろには女性ではなく男性がいた。
「ああ。久しぶり、ジオ」
エルは挨拶を返す。
エルの視線がジョルジオの後ろに向いたのに気付いたのか、彼は一歩左に動いて自分の背後に立っている人物を紹介する。
ジョルジオが一歩動いた事でエルの正面に現れたのは、金糸雀色の髪に常盤色の瞳を持つ、長身なロウェンに迫る背丈の青年だった。
背は高いがすっきりした容貌なので、スマートに感じる。
「彼はカイ=ヴィンケルホック。僕と同じクラスで初の友人だよ」
「初めまして」
表情筋を動かさず発せられた短い言葉から、エルはペコッと頭を下げるカイをあまりお喋りが得意でない、寡黙な人物と位置付けた。
「俺はエル=フェルトゥナ。よろしく」
カイににこっと笑った後、ジョルジオの方を見て言った。
「珍しいな。お前の初の友人が女じゃなくて男なんて」
エルの感想を聞いて、ジョルジオが苦笑した。
「いや、女の友人だけじゃ流石にやっていけないからね?」
「確かにそうなんだけどな」
染み付いてしまった印象はそう簡単に拭えはしない。
それに、(特に女性相手に)社交的なジョルジオと無口なカイが意気投合するとは思えなかった。
エルの考えている事を察したのか、ジョルジオが話し始める。
「僕が神官部の部室に行った時、そこにカイがいてね? お互い同じクラスだって事は分かってたし、神官部の活動性になったから仲良くなったって感じだよ」
な? とジョルジオがカイに同意を求めれば、コク、と彼は頷く。本当に口数が少ない。というか喋らない。
「ジオ、クラスはどこだ? 全く見なかったからここにいるとは思ってなかった」
「Aだよ。エルは?」
「Gだ」
「成程。教室がほぼ反対側だから会わないのも仕方が無いかな」
「ああ」
「ロウェンとマリアは? 落ちた?」
「残念ながら落ちていない。あいつ等も俺と同じGだ」
「へぇ。細工でもされてるんじゃない?」
「俺もそう思うが、今更だしな。気にしない」
「僕は気にするなぁ」
意外なジョルジオの言葉にエルは怪訝な顔をする。
「何で。お前には関係ないだろ?」
「関係あるよ。序でに僕も一緒にしてくれれば良いのに」
がっかりした表情をするジョルジオに、エルは眉を寄せる。
「一緒にならなくて良い」
ロウェンとマリアも疲れるが、ジョルジオも違う意味(特に女性絡み)で疲れる。
エルは彼等の母親でも父親でもない。
「酷いなぁ。知り合いが一人もいない集団の中に放り込まれるのは、とっても不安で寂しく感じる事なんだよ? ね、カイ?」
問い掛けにカイは短く、
「心配いらない」
と言った。
「普通なら同意する所だが、お前にそんな心配はいらないってさ。因みに、俺もカイと同意見だ」
そうエルが言うと、ジョルジオとカイは驚いた顔をしてエルを見てくる。
驚いた顔、と言っても、カイは若干目を見開いている? 位ではあるが。
「何だ? 何か変な事を言ったか?」
何の気なく口に出した台詞にそれほど驚かれると思っていなかったエルは頭の上に疑問符を浮かべる。
訊かれた事に、カイは話さないので必然的にジョルジオが答える。
「いや、まずエルの言う事は心外だと思うんだけど。カイの必要以上に省かれた言葉をそこまで正確に解釈する人は誰もいなかったら、驚いた」
答えるジョルジオの隣ではカイがコクコクと頷いている。
「そうなのか? 言うほど難しくないぞ」
寧ろ、学院で初めて出来た友人の言葉を理解できていないのはどうなのか、とエルは思う。
そのジョルジオとエルの会話にカイが入ってくる。相当の衝撃だったらしい。
「家族だけ」
ジョルジオの言う通り、言葉が必要以上に省かれているのは変わらなかったが。
「エル」
ジョルジオに催促された。
それで良いのか? と非常に疑問に感じたが、エルは催促に応じる。
「自分の言葉を解するのは家族だけだったらしい」
「だろうなぁ」
ははは、とエルの解説を聞いてジョルジオは笑った。
そこに声が掛けられる。
「お前等、早く出ろ。鍵閉めるぞ」
出入り口に立つ先輩に言われて、三人は長話をしていた事に気付いたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
常磐色とは濃い緑色の名前です。
金糸雀色は少しくすんだ様な黄色です。




