第二話 Ⅷ 上
お楽しみいただけると幸いです。
「「おはよぉー。で、昨日の結果は?」」
翌朝、エルが寮の食堂でいつもの如くロウェンとマリアの二人と、少し遅れてやって来たユウキと共に朝食を摂っていると、楽しみで仕方がないという様にニヤけ顔をした双子が声を掛けてきた。
ナディアとソフィアの意に沿い、エルは期待に応える。
「早速だな。御二人の御期待通り、生徒会書記になりましたよ」
訊いてきた本人達とユウキを人質に取られ、脅されたとは口が裂けても言えない。
「そっか、残念だったねー」
「そう言う割にはとても嬉しそうな顔をしているな」
台詞と表情が一致していない事をエルがナディアに言えば、同じ顔をしてソフィアが言ってくる。
「そりゃあ、嬉しいわよ。楽して面白い学院生活になりそうで」
正に、人の不運は蜜の味(不幸ではない所がミソである)。
間近から見て楽しくて面白いと思うのは、人の不幸ではなく不運である。By作者。なんちて。
例えて言うなら、バナナの皮を踏んで滑って転ぶ人間を一番面白可笑しく感じるのは、その姿を遠くから見た他人ではなく、近くで見た家族や友人等の親近者である、そんな感じだ。
「二人共、欲望に忠実だね……」
三人の会話を聞くユウキが感想を述べる。
「「勿論」」
即座に返ってきた答えにユウキは苦笑した。
暫く雑談をしていると、ロウェンとマリアが同時に立ち上がる。
「「ごちそうさま」」
二人を見て、エルはあまり心の籠っていない声援を送った。
「ま、頑張れ」
複数の鬼の足音が近付いて来ていた。
走るのはマナー違反なので、早足で食堂を去って行くロウェンとマリアの背を見送りながらエルは思った。
(頑張るのは俺もだな……)
◇◇◇◇◇◇◇
時は進み、再び放課後。
場所は生徒会室。の隣にある会議室へ行く途中である。
昨日、生徒会室を去る間際、
「明日、生徒会と風紀委員会と神官部の活動生の顔合わせがあるから来てね」
と、生徒会長オレスト=ブレイフマンから告げられたので、エルは生徒会室に訪れた。
生徒会室には既にエル以外のメンバーが集まっており、オレストは部屋に入ってきたエルを見て、
「じゃあ、全員集まった事だし、会議室に行こうか」
と言い、現在エルは生徒会の皆様に連れられて一緒に会議室に向かっているのである。
会議室は生徒会室の隣に存在している。
そう、隣だ。距離は精々十メートルといった所。
その短い距離を生徒会のメンバー全員が固まって移動するのだ。その中に含まれる自分を棚に上げ、物々し過ぎる、と最後尾で歩くエルは思った。
更に何を考える暇も無く、オレストが会議室の扉を開いて中に入り、それにエルを含めた後ろにいる面々も続く。
部屋の広さは会議室という事があってか、生徒会室や神官部部室よりかなり広い。
扉は部屋の右端、机と椅子は部屋の形に沿って長机が四角く配置されている。
中には顔も名前も知らない者が殆どだが、グウィードやミズホ、ホメロス、オルティアがいる所を見るとエル達生徒会が最後だという事が分かる。
部屋を見渡せば色つきの人数が結構いるので、カラフルだなぁ、という感想が出て来る。
多少色は違うが茶色に黒に黄色、オレンジ、赤、銀、紫、緑、と髪だけでもこれだけある。カラフル、としか言い様がない。
座り方は生徒会、風紀委員会、神官部│毎であるらしく、グウィードやミズホ達風紀員会とホメロスやオルティア達神官部が向かい合って座っている。
よって、必然的に生徒会は風紀委員会と神官部の間に座る事になる。
「じゃあ、会議とは名ばかりの顔合わせを始めるよ」
全員が座り、オレストが開始の合図をする。
「俺は生徒会長のオレスト=ブレイフマン。これから一年間よろしく頼む」
先ずは生徒会のメンバーの自己紹介から始まり、次に風紀委員会、神官部と続く。
特筆すべきなのは神官部の一年生の中に知った顔があった事だろうか。
「一年生のジョルジオ=カムッシです。よろしくお願いします」
髪はオレンジ。瞳は薄ら黄色い銀色。少々垂れ目で中の上と言った顔立ちは、女性受けが良さそうな感じがする。
また、首の半ばまで伸ばされた癖毛で畝っている髪型は、女好きな印象を彼に与えている。まぁ、容姿に違わず実際に彼は女好きでナンパ野郎で女│誑しだが。
本人は誰かにそう言われると、「女性に優しいと言ってくれ」と言っていた。
閑話休題、何故エルがジョルジオを知っているかというと、彼もエルやロウェン、マリアと同じ神官部候補生だからだ。
ジョルジオもファルベント魔術学院を受験するとは聞いていたが、今まで合わなかったので忘れていた。
つらつらとエルが考えている内に自己紹介は終わってしまった。
これでもう解散だ、と誰もが思っていた所に手を上げた人物がいた。
解散の合図をしようとしていたオレストが手を上げている人物を見て言う。
「どうしたのホメロス? 何かあった?」
「何故……」
呟くようなホメロスの言葉が聞き取れず、オレストは聞き返す。
「ん?」
「何故、フェルトゥナ君が生徒会に入っているのだっ?!」
ビシィッ! とオレストを指差してホメロスは大きな声で言った。
指を差す対象が間違っていると思うのはエルだけか。
人差し指を向けられたオレストは至極真面目に返した。
「何故って、お願いしたらエル君が了承してくれた。ただそれだけだけど?」
いや、あれは絶対お願いじゃないだろ。
そんなエルの内心など誰も知る由もない。
「彼は神官部だぞ! 生徒会に入るなら神官部と学院長の許可が必要だろう?!」
「許可は取ったよ」
ホメロスの質問にオレストはあっさり返す。
「俺は許可など出した覚えはないぞ!」
「私が出しました」
「何?!」
予想していなかったオルティアの発言にホメロスが驚愕する。
「何故?!」
「フェルトゥナさんは非活動生でしたし、会長がいらっしゃった時に部長がいなかったので」
副部長であるオルティアが許可を出した、と。
「いやぁ、悪いねぇ。こっちも急いでたからさぁ」
台詞の最後でニヤリと笑うオレスト。
ホメロスがいない時を狙って許可を貰いに行ったに違いない。
これは驚きだ。事前にこれだけの根回しをされているとはエルは思っていなかった。
神官部の許可は兎も角、学院長の許可まで必要だとは。一体どんな事情があるのだろうか?
「……ッッ!!!」
オレストの表情を見て、悔しくて声も出ないホメロス。
打ち震える彼を無視して、オレストは皆に告げた。
「じゃ、解散」
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