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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第二話 ~学校みたいな所には大体アレが存在している~
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第二話 Ⅵ

 お楽しみいただければ幸いです。

 放課後、エルは一人で再び生徒会棟に訪れた。

 前回は二階だったが、今回は三階だ。

 生徒会室の扉の前に立ったエルは扉を見詰めたまま動かない。

「…………」

 正直、非っっっ常にこの部屋に入りたくない。

 入ったが最後、自分の立ち位置が厄介やっかいな事になるのが決定しているからだ。

 いや、アーロンとキリルの頼みを了承してしまった時点でもう遅いのか。

「……ふぅ」

 ならば、ありそうにない逃げ道を求めて無駄に足掻あがくか、と決意してエルは扉をノックする。

「どうぞ」

 応えは女性の声。

「失礼します」

 ガチャッと扉を開けて言った後、エルは廊下と部屋の境界線を踏み越える。

 若干じゃっかん長方形の形をした部屋には、部屋の一番奥に机が一脚、左右に机が三脚ずつ配置されている。机とそれとセットになっている椅子もダークブラウンで統一されており、全て部屋の中を向いている。

 正面に置かれた机の椅子に座る男、恐らく生徒会長であろう人物にエルは声を掛けられる。

「いらっしゃい。突然呼び出して済まないね。初めまして、俺はオレスト=ブレイフマン。生徒会長をやらせてもらっている」

片腕の手の甲にあごを乗せ、ピッ、ともう片方の腕を上げて自己紹介をするオレストは理知的にエルには見えた。

 次に、彼の右隣(正確には右前)の女性が口を開く。

「初めまして。私はクラリス=ルリエー、生徒会副会長よ。よろしくね」

 声からして先程エルのノックに応えた女性だろう。

 ゆるく波打つセミロングの髪は白に近い銀色、性格の明るさを表す瞳は蜜柑みかん色をしていて、茶目っ気のある可愛らしいお姉さんと言った感じのする人だ。

「私はエイレーネ=ムシェリ。生徒会の会計をしている。以後よろしく」

 三番目に自己紹介をしたのは、クラリスの隣に座る焦げ茶色の髪と群青色の瞳を持つ女性だった。

 背中の半ばまである長い髪を末端で束ねた彼女は何となく、キリッとした顔の造作は姉御という単語が似合う。

 そして次にクラリスの向かい側、オレストからは左前の机の椅子に座っている紅藤あかふじ色の髪の男、アーロンが名乗る。

「今朝名乗ったばかりですが、アーロン=バイルシュタインです。生徒会副会長をしています。二年生です」

 前に説明したが、やはり彼からは真面目という印象を受ける。

 さらに彼の隣、こちらも今朝会ったキリルが口を開く。

「キリル=ニーニストだよ。ここでは書記をしてるんだ。よろしくね」

 今朝会ったばかりだが、相変わらずのんびりした口調をしている。

 最後、この場に何故なぜいるのか? とエルが疑問に思う人物達がいた。

「会った事があるが一応名乗っておこう。俺は風紀委員会委員長、グウィード=アバルキン。そして、こっちが副委員長のミズホ=タカハシだ」

「よろしくお願いします」

 グウィードは多分空席なのであろうエイレーネの隣の席に座り、ミズホはその隣に立ち微笑んでいる。

 この場で緑色のネクタイをしている、つまり三年生なのはオレスト、クラリス、エイレーネ、グウィードの四人。青色のネクタイ、二年生なのがアーロン、キリル、ミズホの三人だ。そして、赤色のネクタイ、一年生なのがエル一人。

 …………何て居心地の悪い場所なのだろう。立ち位置からしてもまるで尋問に掛けられている様だ。逃げたい。

 己の不運を恨めしく思いながら、あちらの全員の自己紹介が終わったので、今度はエルが自身の名前を名乗る。

「エル=フェルトゥナです。よろしくお願いします」

 内心をおくびにも出さず、エルは真面目な表情を作る。

 そんなエルを見て、オレストはニッコリ笑って言う。

「うん、よろしく。で、単刀直入に君をここに呼び出した理由を言うと、生徒会に入って欲しいんだよね。役職はキリルと同じ書記」

 キリルを指差すオレストの指に釣られて彼の方を見ると、キリルはヒラヒラと手を振ってきた。

 エルが軽く会釈をしてオレストに向き直ると、彼は続けた。

「要するにスカウト。どうかな? 入ってくれない?」

 オレストは笑顔のままだ。

 エルの取る行動の先を読まれている様で、躊躇ちゅうちょが生まれるが答える。

 エルは頭を下げる。

「申し訳ありませんが、お断り致します」

 その答えにオレストは驚く事無く質問してきた。

「ふむ……。理由を訊いて良いかな?」

 あっさり返されるだろうな、と思いながらもエルは答える。

「第一に、俺は非活動生とはいえ神官部に入っています」

「それなら大丈夫だよ。オルティアに許可は取ってあるから」

 予想通り、オレストは即座に否定してきた。

 ただ、得た許可が神官部部長のホメロスではなく、副部長のオルティアである事が気になる点ではあるが。

「そうですか。では最後に、最大の理由は俺に生徒会に入って活動するその実力とやる気が無い事です」

「実力ならエイレーネが確認しているから問題ないよ? それに、やる気の方も俺だって最初は全く無かったし」

 エルの言にオレストはまたも反論。二人の問答が続く。

「態々やる気のない人を選ぶより、やる気のある人を選んだ方が良いと思います」

「それは山々なんだけどね。こっちも選択の余地がないんだよ」

 つまりは、他に条件を満たす人物がいないとオレストは暗に言っている。

 エルは更に返す。

「俺の武器は銃です。しかも二丁。そんな人間を生徒会に入れて良いんですか?」

 武器が銃。魔術師でなくとも扱いの難しい武器を選ぶ馬鹿で阿呆あほうな人間を生徒会に入れて良いのか? と。

 この台詞せりふにはエルの力を確認したエイレーネが答えた。

「問題ない。そんな人間であれば、いの一番に私達の申し出を受け入れている」

 それに私が確認したんだ。間違いない。と言う彼女には迷いなど一切ない。

「扱いきれない事がバレたくないからだとは思わないんですか?」

 エルは問う。

「思わない。それが本当だとしたら、君はすでにそう言っているはずだ」

 エイレーネの言葉にエルは一瞬詰まる。

「……買いかぶり過ぎでは?」

 顔を合わせて話したのはこれが初めてですよ? と言外にエルが言えば。

「そうやって自分の評価を低く低くしようとする人物だから、大丈夫だと言っている」

「…………」

 逃げる理由が断たれる。しかし、嫌なものは嫌なのだ。

「それでも、お断りしたいのですが」

 正面を向き、エルがオレストに面と向かって言ってやれば、彼は笑顔を苦笑に変える。

「うーん、それは困るんだけどなぁ」

 どちらも譲らない押し問答の中、エルが最も参加して欲しくない人物が参加してくる。

「会話の途中だが、良いか?」

 見れば、グウィードが手を上げている。

 エルは嫌な予感しか感じないが、オレストにそんな事が分かる筈も無い。むしろ、今この場でエルが嫌な予感がするものは、オレスト達にとって良い予感がするものだ。

 オレストはこころよく了承する。

「どうぞ」

 許可を貰ったグウィードはエルを見て言った。

「フェルトゥナ。以前、……ムローワと言ったか。彼等とのいざこざ、覚えているな?」

「……はい」

 エルの予感が確信に変わる。

 こうなれば、この先の展開がエルには手に取るように分かる。

「ムローワ達に非があるのは明らかだ。だが、お前は魔術を使ったな?」

 グウィードの声音は淡々としている。

 その口調は、じわじわと真綿で首をめる様にエルを追い詰めているとしか彼には感じられない。

「使いました」

「それでお前にペナルティを与えても、お前は首を縦には振らないだろう。だが、あのいざこざは魔術をムローワに発動させるにいたらせた彼等にも原因があるという事になったら?」

 それは、アマンシオ達を挑発したナディアとソフィア、ユウキにも非がある事を示唆しさしている。

「…………」

「そうなれば、彼等に何かペナルティを与えなくてはならない。これならどうだ?」

「っ……」

 アマンシオがユウキとナディアとソフィアの三人を敵対視している原因はエルにある。

 原因であるエルが責任を負いこそすれ、エルは巻き込まれた三人が罰を受けるのは許せないし、嫌だ。

 その上、グウィードが言っているのは現在の事だけではない。

 アマンシオの事だ。これからもああいう事が起こるだろう。その時の事もグウィードは言っている気がエルはする。多分、間違いない。

 分かっている。これはおどしだ。あちら側も、こちら側に貸しがある事を理解していて言っている。

 選択肢を選ぶ権利を、エルは持っていない。

 エルは溜息を吐いた。

「…………分かりました。生徒会に入ります」

 じっとエルとグウィードの会話を聞いていたオレストを見、エルはスカウトを受けた。

「……うん、ありがとう。これから生徒会の書記として頑張って貰うって事で良いかな?」

 苦笑を笑顔に再変換してオレストは言った。

「はい。よろしくお願いします」

 エルは頭を下げた。

「よろしく。ようこそ、生徒会へ。歓迎するよ、エル君」


◇◇◇◇◇◇◇


「身に余る評価、ありがとうございます」

 帰り際、エルはグウィードとミズホを見てそう言い、会釈えしゃくして生徒会室を出て行った。

「……バレていた様だな」

 グウィードは独り言の様に、ミズホに言う。

「そうですね」

 ミズホも同意する。

 先程のエルとグウィードの遣り取りは、一見、エルをグウィードが脅している様に感じる。

しかし、いくら繋がりがあるとは言え、生徒会ではなく風紀委員会であるグウィードがそこまでする必要はないし、寧ろ不自然である。

 風紀委員長のグウィードが脅し紛いの行動をしてまでエルを生徒会に入れた。それはグウィードがエルを高く評価しており、大きな期待をしているという事に行き着く。

 エルはそれを察したらしい。

 その証拠は、グウィード達に言った彼の台詞だ。

「今年の生徒会は凄くなると思います」

「……そうだな」

 ミズホの言葉に、今度はグウィードが同意した。


 二人がエルに対する評価が低すぎた事を知るのはまだ先の事である。


 お読みいただき、ありがとうございます。

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