第二話 Ⅳ 上
こんにちわ、いらっしゃませ。
今回は前回と打って変わって長いですー。
お楽しみいただければ幸いです。
四日後、武器選択は朝から実施された。
まず、武器の説明を。
エル達が武器、武器、と言っている物は只の武器ではない。
正確には魔武器と言われている魔具の一種。
想像が付くだろうが、持ち運びしやすいように形状が変わる武器が魔武器だ。
形態は様々、起動状態(武器の形を取っている形態の事をこう呼ぶ)の時は剣や槍、斧、ナイフ、弓、杖など一般的に武器と呼ばれる物。
待機状態(武器の形ではない、持ち運びしやすい形態の時の事をこう呼ぶ)の時はネックレスにイヤリング、ブレスレット、指輪などアクセサリーが多い。
魔武器は魔力を注ぐだけで起動する。また、扱いが上達すれば魔力を注いでいても待機状態を保ったり、離れている魔武器を起動したりすることも可能だ。
また、行使する魔術の補助、魔力や魔術を纏うなど、使用者の好みや用途によって色々な能力を持たせることも出来る。魔術師にとっては必須アイテムだ。
半人前の魔術師の為に市販品も多いが、実力がある魔術師が持っているのは殆どオーダーメイドである。
説明終了。
と言う事で第四訓練室。
そこには時間以外全く変わりないいつものメンバーが揃っていた。
昨日の様な珍妙な光景は無く、いつもの様にカルロが生徒五十人の前で喋る。
「今日は武器選択の日だ。既に決まっている者もいるかもしれないが、違う武器に触れる良い機会だと思って使ってみると良い」
余談だが、他のA~Fのクラスは一日講義だ。G、H組も昨日までの三日間は講義しかなかった。
「第一訓練室には剣などの近接武器。第二訓練室には槍など長柄の武器。第三訓練室には杖などの魔法を補助したりする武器。第四訓練室……ここには弓のような遠距離を得意とする武器が置いてある。刃のあるものには刃挽きがしてあるが、人には向けるな。勿論他の武器も」
エルは何処にどんな武器があるかしっかりと頭の中に刻み込む。
「何処から行っても構わない。質問はそれぞれの訓練室に教員がいるからその教員に訊くと良い。武器は好みで選んでもいいが、自分に合っているかどうかを考えるのも重要だ。忘れないようにな」
パタン、と開いていたファイルを閉じ、落としていた視線を上げてカルロは言った。
「では解散」
◇◇◇◇◇◇◇
若干戸惑いながらも生徒達はそれぞれに散っていく。
自然に集まった六人は相談を始める。
「どこから行くの?」
開始の合図はユウキ。
「どこが良いかな?」
「どこに行く?」
ナディアとソフィアが回す。
「どこに行きたい?」
「どこでも良いわよ?」
既に武器が決まっているロウェンとマリアが更に回す。
「じゃあ1から」
エルは盥回しに参加せず、希望が無いならと数字通りに見て回る事を提案。当然、反対意見は無い。ついでに言っておくと、1とは第一訓練室の事だ。
という訳で、出口に向かって歩き出す。
提案に反対は無かったが、別の部分で反対というか批判があった。
「む。ノリが悪いぞ、少年」
ソフィアが眉を寄せて言ってくる。
「時は金なり。歩きながらでもノレる。あそこで突っ立っているのは時間の無駄なのだよ、少女」
至極真面目な顔でエルは返す。
ナディアがエルの隣に並んで口を開く。
「しかしだな、少年。時には立ち止まることも必要だと私は思うのだよ」
「確かに。だが、それは今ではないと私は愚考するのだよ。少女2」
エルが笑って見せれば少女1と少女2はちょっと悔しそうな顔をする。
「ううむ……。これは言い返せんな」
「そうだな……。一本取られてしまったようだ」
「ノリ、そんなに悪くないだろ? 少女1、少女2」
そんなこんなで第一訓練室。
中に入って目に入ってくるのは大量の近距離戦闘用の武器。
名称を省いて大まかな種類を言うと、短剣、短刀、刀剣、剣、刀、大剣となる。
「結構あるのね」
予想以上の数の多さにマリアが驚きの声を上げる。
「こんなにあるとは思わなかったよ」
ユウキもマリアと同じような顔をしている。
箱に何本か纏めて入れられているのではなく、一つ一つの武器が大きな板に立て掛けかられている。勿論、全て刃挽きされてある。
周りを見れば、既に得物を手に取り振っている生徒がいる。
「取り敢えず、持ってみるか」
言って、エルは立て掛けられている武器に歩み寄る。
手に取ろうと腕を伸ばしかけるが、ナディアによって中断させられる。
「ねぇ、最初って何が良いの?」
「ん? 別に何でも良いんじゃねぇの? 好きなので」
ロウェンが答えるが、ナディアのお気に召さなかったようだ。
「えぇ? 最初に変なの選んで後が面倒臭くなるのは嫌なんだけど」
「でも私は好きというか、何となくこれかなぁーっていうのを選んだんだけど」
マリアが少し不思議そうな顔をして言う。
「ええぇ? それって勘って事?」
「あー、言われてみれば確かに勘だな」
何かを思い出すように視線を上に向けるロウェン。
「私はそんなの無理よ、無理。二人みたいに動物以上の野生の勘なんて特殊能力持ってないわ」
呆れた顔をするナディア。
(確かに、こいつ等は動物並み、いや、動物以上の野生の勘を持ってるよなぁ……)
若干遠い目をしてエルはそう思った。
「それって褒めてる? 貶してる?」
ナディアにマリアが訊く。
二つ選択肢を出されたが、ナディアが選んだのはどちらでもない。
「いや、呆れてるの」
恐らく、同じことを訊かれればエルも彼女と同じ選択肢を選ぶだろう。
話がズレてきているので、エルは軌道修正する。
「その話は置いておいて、最初に手に取るなら片手剣が無難じゃないか?」
やっと欲しい答えを貰えて嬉しいのか、ナディアが喰い付いてくる。
「やっぱそう? ならこれだね。振ってみようっと」
ナディアは近くにあった片手剣を手に取り、離れた所で剣を振り始める。
構えは悪くない。細かい部分は教えられなければならないが、長い物を持って振るとなれば体は自然とそういう体勢を取る。
だが、そこから先が問題だった。
構えるまでは良い、良いのだ。だが、振った後に剣の勢いに釣られて前に走り、その事に気を取られて剣先が床に着いて、べしゃっと転ぶのは如何なものか。
素人の域を超えている。
その後もナディアは何度か片手剣を振ってみた。しかし、剣を振り下ろす前に振り上げた勢いで剣が手からすっぽ抜け、後方に飛んで行って危うく後ろに立って見ていたマリアに当たりそうになり。
振り下ろす直後にまたもや手からすっぽ抜けて前方に退避していたマリアの方へ飛んで行ったり。
左から右へ剣を横薙ぎに振ってみるがやはり剣が吹っ飛び回転しながらマリアの方へ……。しかも本人はバランスを崩して転んでいる。
「一体何なの?!!」
ナディアが片手剣を振り終わった後、ギャアッ?! とか、ンギャァ?! とか、全く女らしくない叫びを上げて剣を避け続けたマリアの感想はこうだった。
兎にも角にも、ナディアに剣の才能が無いのは良く分かった。
剣が飛び道具になっている。これはいけない。
「駄目かぁ……」
しょんぼりするナディア。
さすがにあれだけ駄目だと落ち込むのは当然だろう。
「他にも武器はあるんだから、そんなに落ち込むな」
苦笑してエルは彼女の肩をポンと叩いた。
二人の目の前ではマリアが剣を振っている。
それをナディアは羨ましそうに見詰める。
「……マリアって剣使ってるの?」
そう言えば、という風にナディアがエルに訊いてきた。
「ああ。ロウェンもそうだ。剣の形は違うけどな」
「どう違うの?」
「マリアは一般的な剣、剣を使ってるな。ロウェンはそれより細身の剣でロング・ソード」
「普通、それって逆じゃない?」
エルの台詞にナディアが変な顔をする。
「まぁ、確かにそうなんだけど……」
確かに、一般的に力の無い女性はロング・ソードやレイピアの様な細い剣を選び、力のある男性は剣やグラディウスの様な幅広の剣、または両手剣を選ぶのが普通だ。
よって、細身の剣を使っているロウェンと身幅のある剣を使っているマリアは珍しい。
「ロウェンの戦い方はスピード重視だし、マリアは魔術を使う事の方が多いし、剣も振るけど盾に使ってる事が多いから」
エルはナディアに説明する。
「へぇー。なら納得」
「だろ?」
そして、エルは傍で会話に参加せず聞き手に徹しているユウキに訊く。
「ユウキの武器は何なんだ?」
「へ? 僕? えっと、僕は短刀かな。ナイフとか、投げ武器も使うけど、一番は短刀だね」
その答えは意外なものだった。
「そうなの? ユウキは弓とか杖とかだと思ってた」
ナディアに言われてユウキは苦笑する。
「うん。周りからはナディアみたいに思われるけど」
人の良さそうなユウキが超近距離戦闘をするとは誰も思わないだろう。
投げ武器、と考えてエルはふと思いつく。
「投げ武器って、手裏剣とかか?」
「そうだよ。他にも色々投げるけどね」
あっさりと答えるユウキ。
その答えから導き出されるモノは、ユウキからは想像できない。
「ユウキって、忍者だったんだな」
エルは驚きの声を出す。
「恥ずかしくて自分じゃ言えないんだけどね」
本当に恥ずかしいらしく、ユウキが赤くなる。
彼の様子を見たナディアが不思議そうに言う。
「そう? カッコイイじゃない、忍者」
「外国からしたらそうなんだけどね」
照れた顔を苦笑に変えて言うユウキ。
ユウキが恥ずかしがる理由に思い至ったエルはナディアに説明する。
「簡単に言えば、自分を自分で天才だと言い触らしている奴と同じってことだな」
「あぁそうそう、そんな感じ」
ユウキが共感する。
ナディアも理解したようで、あぁ、と口を開く。
「そっか。ユウキは友達だからカッコイイと思うけど、知らない奴だったらイタイ人になっちゃうもんね」
雑談をしていると、結構時間が経っていることにエルは気付く。
「そろそろ次に移動するか。……そういえば、ソフィアとロウェンはどこだ?」
視界にいない二人を探して、エルとユウキとナディアは辺りを見回す。
果たして、二人は意外とあっさり見つかった。
どこにいるか分からなかったのは二人が走り回っていたからだ。
「馬鹿! こっち来んな、ソフィアッ! テメェは俺を殺す気かッ!!」
「キャハハハハハハッ」
状況を説明すると、ソフィアが剣を振り回しながら逃げるロウェンを追いかけている。
逃げるロウェンの顔が切羽詰まっているのは見間違いではないだろう。何せ、ソフィアの持っている剣に問題があった。
彼女が持っているのは両手剣。クレイモアだ。
クレイモアは単純な形状の大剣である。大きさは多種多様。
ソフィアが振り回しているクレイモアの全長は彼女と同じくらい。1.5mはある。幅は彼女が完全に隠れられる位には広い。厚い刃は巨大ハンマーや巨大斧並みの迫力を醸し出している。
それを十代の少女が振り回しながら男を追いかけているのである。中々にシュールな光景だ。そりゃ、ロウェンの表情が切羽詰まるのも頷ける。
だって、あれは最早切り殺すというより、撲殺する物にしか見えない。刃挽きがこれほど無意味に思える瞬間はそうそう無いだろう。
(ソフィアにあれを振り回せるほどの力があるようには見えないけどなぁ……)
エルの考えは少々ズレているが、人は見掛けに寄らないという事だろう。
取り敢えず、あんな馬鹿デカい物を軽々振り回しているソフィアには姉と違い、剣に関して才能がある事が分かった。
「剣から手を放せぇぇぇぇ! やめろぉぉぉぉぉ!」
「キャハハハハハハハハハ!!」
ロウェンの必死の叫びが木霊し、ソフィアの笑い声が響いていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
改稿部分は、
冒頭の「次の日」を「四日後」へ変更
「余談だが~」の後に「G、H組も昨日までの三日間は講義しかなかった。」を追加
です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。




