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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第一話 ~最初の騒動はあっさりさっぱり?~
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第一話 Ⅳ

 

 読んでくださっている方々、お気に入り登録して下さった方、ありがとうございます。

 エル達は周囲の視線を浴びながら、入学式が行われる大講堂に到着した。

 中に入ると、座席は(すで)に八割ほど埋まっていた。

「あれ、俺ら寮出るの遅かったか?」

 式場を見渡してロウェン言った。

 (ちな)みに学院は全寮制で、三人は五日前に入寮している。

「ううん、まだ式まで十五分あるわ」

 マリアが時計を確認して言う。

「たぶん、式の後にリングを(くぐ)るから皆気が(はや)ってるんだろう」

 疑問に答え、エルは座れる場所を探す。

 座席の指定はないので、座る場所は自由だ。

「あぁ、それは確かに気が逸るだろうな」

 そういえばそうだった、とロウェンは頭の上の? を消す。

 会話をしている内に丁度三つ空いている所をエルは見つけ、そこへ移動する。

 隣に座っている男子生徒に声を掛ける。

「すみません。隣、空いてますか?」

 男子生徒は気付いていなかったのか、驚いたように此方(こちら)を振り向いた。

 黒目黒髪の大人しそうな生徒だ。

「はい。どうぞ、座って下さい」

 彼はハッとして驚いた表情を引っ込めて、笑顔で答えてくれた。

「ありがとうございます」

 笑顔で返し、隣に座る。

 そして、ロウェンとマリアがその隣に座る。

 座った後、自分が真ん中に座れば良かったか、と思った。

 二人が喧嘩(けんか)するのを危惧(きぐ)したのだ。

 だが、それは杞憂(きゆう)に終わった。


 式はこれといった特徴もなく進み、終了した。

「くぁ~、終わった終わった」

 ロウェンが伸びをする。

「じゃ、寮に戻りましょ」

 欠伸(あくび)を噛み殺しながらマリアが言う。

「お前らな……」

 式の間ずっと寝ていた二人にエルは呆れる。

 喧嘩が起こらなかったことは良かった。

 だがその理由が、寝ていたから、というのが残念でならない。

 そして、エルの心の声に二人は気付かない。

「次は管理棟に行くぞ」

 呆れながらも、話を聞いていなかった二人に次の予定を告げる。

「管理棟?」

 ロウェンが聞き返してくる。

「チェンジリングがある所だ」

 学院の資料位読んでおいてくれ、という言葉が口から出かけるが、注意しても無駄だ、と思い直す。

「え? 私たちは関係ないでしょ?」

 何で? とマリアが聞いてくる。

 ロウェンも不思議そうに此方を見ている。

「そこでランクの確認をするんだよ」

 はぁ、と心の中で溜息を吐きながら答える。

「実技の講義だと術を暴走させることがあるからな。特に『色つき』だとその規模が普通より大きくなることが多い。だからランクの確認をして、教師の負担と被害を軽減するために『色つき』を各クラス平等に分ける必要があるんだ」

 式の最中に言ってたぞ、と二人を冷たい目で見る。

「そ、そうなんだ。じゃあ、早く行かないとね」

 マリアが目を()らした。

「ほら。早く行こうぜ、エル」

 誤魔化(ごまか)すように、いや、実際誤魔化すためにロウェンが笑って先を急がせる。

「はぁ、分かったよ……」

 諦めたように言い、管理棟に向かって歩いた。



 ファルベント魔術学院はチェンジリングを管理し、守っている。

 学院の創立者はクロス=エントラーレ。

 管理、守る、と言っても、チェンジリングは触れることは勿論(もちろん)、持つことなど到底出来ないので、リング自体の警備はそれほどでもない。

 現にどこの国の人でも五分程度手続きをすればリングを潜ることが出来る。

 (ゆえ)に、直接守る必要があるのはリングではなく、学院の敷地だ。

 それも、まさか四六時中魔術で結界を張り続けるなんてことは不可能な(ため)、緊急時のみとなっている。

 そして、なぜこの学院がリングを管理しているのか。

 理由は単にリングを潜るのは若い人が多いので、そこに魔術を学べる学校を造れば効率がいいからだ。

 また、魔術師が多くいる為、何かあった時には素早く対応できるので一石二鳥なのである。



 十分ほど歩いて、三人は目的地に着いた。

 リングのある部屋は一階にある。

 三人が管理棟に入ると、そこには新入生たちが行列を成していた。

 並んでいるのは全員リングを潜る順番を待っている生徒だ。

 皆興奮を抑えきれないのか、ある者は友人と(はしゃ)ぎ、ある者はじっと出来ずにそわそわしている。

 それを尻目(しりめ)に開いている細かな装飾を施された両開きの扉から、躊躇(ちゅうちょ)なく部屋に足を踏み入れる。

 三人は既にリングを潜っているので、ランクの確認をするだけだ。

 大講堂へ向かって歩いていた時より数倍多い視線が自分達に向けられる。

 部屋は思いのほか広く、中央に光り輝くリングが浮かんでいる。

 リングを見るのは、エルは九年ぶり、ロウェンとマリアは八年ぶりだ。

(あの時の父さんと母さんの顔は忘れられないな)

 緊張しながらリングを潜っている生徒を見ながら、エルは思い出す。

 幼かった自分は少し怖がりながら潜り、その後の自分を見た両親や周りの人達を物凄く驚かせた。

 開いた口が塞がらないというのは、正にあの時自分が見た表情だと思う。

 三人は部屋の奥にある受付でランクの確認をして、すぐに管理棟から出た。

「よし、次は何もないよな」

 確認するようにロウェンは言った。

「あぁ、寮に戻ろう」

 肯定する。

「明日は休みだし、暇だなー」

 言うマリアはつまらなさそうだ。

 明日は教師たちが新入生のクラス編成をするので、一日休みだった。

「友達でも作ればいいんじゃないか? これから三年間同じ寮に住むわけだし」

 提案してみる。

「そうするかなぁ~」

「乱暴者のお前に友達なんかできるかねェ」

 ここでロウェンが茶々を入れる。

「大雑把でデリカシーのないアンタに言われたくないわよ」

 マリアが言い返す。

「暴力振るう奴よりマシだろ」

 ロウェンがニヤリと笑う。

「いいえ。自分の身の回りもちゃんとできない奴よりマシよ」

 マリアはフンと顔を反対方向に向ける。

(また始まった)

 どうにかできないものか、と思いながらエルはもう既に諦めている。

 ギャーギャーと喧嘩を続ける二人の後ろを頭を抱えながら付いて行く。

 二人の喧嘩は寮に到着するまで続いた。

 読んでいただき、ありがとうございます。

 次回は2月30日位に投稿する予定です。

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