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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第一話 ~最初の騒動はあっさりさっぱり?~
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第一話 ⅩⅩⅧ

 ユニーク数が5,000を超えました! 皆さんありがとうございます!

 今回で第一話終了です。

 第二話は休むことなく投稿しますので、今後もお付き合い下さると嬉しいです。

 では、第一話 ⅩⅩⅧ、お楽しみいただけると幸いです。

「「………………」」

 事の中心だった場所に立つ一匹とその背に座る一人はしばし無言で動かない。

 やがて、エルは自身が座るぐっしょり濡れたヒッポグリフの背中に手を着き、片足を上げて飛び降りる。

 ビシャッ! と水音を立てて床に着地。

「ふう……」

 かぶった大量の水を吸収しきれず水滴をしたたらせる制服の所為(せい)で、自分の体重が二倍以上重くなったように感じる。

「…………」

 黙っていると居心地が悪いので、取りえず思った事をエルは口にする。

「……ごめん、ハイト。水かけて」

 同じ境遇の相棒に謝る。

「クルル……」

 気にするな、と言ってくれる相棒。

 しかし、主として彼をこのままにしておく訳にはいかない。

「ここじゃ乾かせないから、帰った方が良い」

「クル」

 これ以上ここにいてもやれることは無いと察したのか、ハイトは素直に返事をした。

 他の召喚獣と同じようにハイトも消えていく。

 ハイトか消えた後、もう一度長めの息を吐く。

「ふう……」

 それにしても。

(まさか濡れるとは……)

 勘が良い人なら気付いているだろう。何故、結界が張られていたのに濡れているのか? と。

 バチャバチャという音がエルに近づいてくる。続いて、

「エル!」

 と呼ぶ声。

 エルとハイトに結界を張ってくれた人物、ロウェンだ。

 走ってきた彼は、開口一番に謝った。

「悪い! 設定火だけにしたんだ。こうなるとは思ってなくて……」

 防御魔術は防ぐ対象をしぼる事で魔力の消費量を抑える事が出来る。

 ロウェンは火だけ防げば良いと思ったらしい。

 あの状況下では仕方の無い事だろう。

「いや、俺も何も言わなかったからな。別にいい。気にするな」

 怪我をしていないのだから、役目をきっちり果たしたロウェンに悪い部分は無い。

 ロウェンの後ろから、マリア達が走ってくるのがエルの視界に映る。

「エル、怪我は無いっ?!」

「無い」

 マリアが心配と焦りの混じった顔で訊いてくるのにエルは答える。

 言葉だけでは足りなかったようで、マリアは全身ビショビショのエルの体を触って確かめてようやく安堵の息を吐く。

「はぁ……、良かった……」

「過保護だなぁ」

 そんなに心配しなくても、とエルは苦笑する。

「心配するわよ! 魔術が発動してる中、蜥蜴とかげに突っ込んで行くんだもの!」

「悪い。使った魔術は傷を負う様なものじゃなかったし、ロウェンの結界もあったから」

 エルは罰の悪い顔をして謝るが、マリアの勢いは止まらない。

「確かに、あんなこと位じゃエルにかすり傷も付けられないけど! 見てるだけの方はたまったもんじゃないのよっ! 寿命が縮むわ!」

「それは俺も同意見だなぁ」

 物凄い剣幕でまくし立てるマリアに、ロウェンが腕を組んでうんうんと同意する。

 この二人は普段は犬猿の仲の癖に、エルが今回の様な事をすると決まって同盟を組んでエルに過保護な説教(?)をする。

「悪かったよ。でも、お前等も同じような事してるだろ」

 謝りながらも、エルは反撃するのだが。

「「私(俺)達は良いのよ(んだよ)」」

 何故なぜ、自分は悪くて二人は良いのか。エルは全く納得できない。

 不本意なのが、これがロウェンとマリアだけではない事だ。

 神殿いる者全員がこう言うのである。

 自分の周りには過保護しかいないのか! とエルは叫びたくなる。

 まぁ、自分の立場を考えると彼等の気持ちも分からなくはないので実際に声に出す事は無いが。

 可笑(おか)しな説教をされているエルにスハイツからの御声(おこえ)が掛かる。

「エル。蜥蜴はどうなったんだ?」

 姿が無い蜥蜴についての疑問だった。

「あぁ、蜥蜴なら帰還させましたよ」

 何でもない事のようにエルは答えた。

 だが、その中身はロウェンとマリア以外の者を驚かせるには十分な破壊力を持っていた。

「帰還させたぁっ?! 暴走状態の蜥蜴を?!」

「はい」

 大声を出すスハイツにエルは短く返す。

「どうやって?!」

「強制退去魔術で」

 スハイツの質問にエルは簡潔に答える。

「……魔力、足りたのか?」

 エルの薄い反応に落ち着きを取り戻したのか、スハイツは声のトーンを落とした。

 強制退去魔術は召喚獣を強制的に退去させる魔術。成功の条件は対象の召喚獣が持っている魔力の二倍の魔力を注ぐ事と、魔方陣を対象の召喚獣に当てる事。

 スハイツは、暴走状態で魔力量が増大している蜥蜴を退去させる程の魔力があったのか? と訊いたのだ。

 目測ではあるが、アマンシオは恐らく自身が持っているほぼ全ての魔力を蜥蜴に注いでいたとスハイツは考えている。アマンシオの魔力保有量はCランク。そこに蜥蜴自身の魔力を加えると暴走した蜥蜴の魔力量はさらに多くなる。それに対してエルの魔力保有量はDランクだ。絶対的に魔力が足りない。

「はい」

 これまたあっさりと返事をするエルに、スハイツの言葉を聞いたユウキが不安顔でエルに尋ねてくる。

「エル、それって大丈夫なの?」

「何が?」

「暴走状態の蜥蜴を帰還させて良かったのかって事」

 つまり、蜥蜴は死なないのか? とユウキは言っているのだ。

「ああ、大丈夫。水の魔術も強制退去魔術も蜥蜴の持ってた魔力を消費したから、蜥蜴の魔力は元に戻ってるよ」

 エルは知らず爆弾を投下する。

 その爆弾にスハイツが反応する。

 他人(?)の魔力で魔術を使うなんて所業は聞いたことが無い。と言うかありえない。

「どうやって?」

「俺、魔力の操作が得意だって言いましたよね? それで、完全に制御されていない魔力なら他人の物でも操れるんですよ」

 時間が掛かりますけど、とエルは最後に添える。

 あ、ありえない…………、とスハイツは口から魂を出す。

 そこでエルの言葉の非常識さを理解しきれていないナディアが、ポン、と手を打つ。

「もしかしてこの前、アマンシオの魔術が発動しなかったのって……」

「そう。あれは俺が魔力をいじったのが原因」

「でも、あの時は離れた場所にエルは居たじゃない。それって距離があっても他人の魔力を操れるってことだよね? だったら蜥蜴の近くに行かなくても良かったんじゃない?」

 今度はソフィアが疑問をぶつけてくる。

「それは魔力の量の差。アマンシオの時は少なかったけど、蜥蜴の魔力は多かったからな。量が多ければ多い程、近くにいないと操作が難しくなるんだ」

「へぇ~」

 フムフムと頷いているソフィアの横でナディアがスハイツを見上げる。

「それって難しい事なの?」

「……そうだな。まず、他人の魔力を操作すること自体が難しい。本来、魔力は自分の体の中にあるものだけしか認識できないからな」

 眉間に浅くしわを寄せ、口から出た魂をどうにか飲み込んだスハイツが答える。

 前にも言ったが、魔力は体の一部と考えて良い。自分の体は自分の意志で簡単に動かせるが、他人の体を自分の意志で動かすのは簡単ではない。

「へぇ~、エルすごーい」

 パチパチパチとナディアが手を叩いて称賛する。

「いや……、制御されてるものだと操作出来ないから、実践では全く使えないんだ」

 照れているのを隠すようにエルは苦笑する。

 アマンシオの時は彼の頭に血が上っており、魔力がほぼれ流し状態だった。蜥蜴も魔力を使ってはいたが制御はしていなかったので、どちらも簡単に制御を奪い取れたのだ。

「それでも魔力の暴走を止められる人なんて中々いないわ」

 ソフィアも褒めてくる。

「……ありがっくしゅんっ!」

 エルは感謝のために口を開くが、背中から来た寒気にはばまれる。

 すっかり忘れていたが、自身が今びしょ濡れであることをエルは思い出す。

「先生、すいません。寮に戻っていいですか?」

 このままでは風邪を引いてしまう。冷えた体を温めなければ。

 すんすん……、と鼻をすするエルにスハイツは何か聞きたそうな顔をしていたが、諦めて了承する。

「ああ。どうせ今日はもう解散だ。早く戻れ」

「ありがとうございます。じゃ、先に戻ってるから」

「荷物は任せろ」

「きちんとお風呂に入ってね」

「気を付けて」

「「お大事にー」」

 スハイツに礼を言い、ロウェン達に告げ、重い制服を背負ってエルは寮に戻る。

 風邪を引きたくないしずぶ濡れ姿を見られたくはないので、早足でさっさと戻る。

 戻る途中で、フッ、と今日が月曜日であることを思い出す。

(後、まだ四日もあるのか…………)

 思わぬアクシデントで疲れたのに、明日も明後日も明々後日も明後日(みょうごにち)も学院はある。

 ズーン……、と落ち込みながら、ただでさえ重い足を更に重くしてエルは寮へ戻った。


 その後、エルを抜いたG組とH組の生徒、スハイツとカルロ、異変を察知して駆け付けて来た教師で水溜りの様な床を清掃。

 清掃終了後はすぐに解散した。


 召喚魔術の講義に関して。

 H組は全員終了しており、残っていたのはロウェンとマリアだけだった。

 しかし、二人に対して講義の時間を割いたり、補習が行われたりする事は無かった。


「え? 点は付けてないし、面倒臭いからやんなくて良いじゃん」

 お読みいただき、ありがとうございます。

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