第一話 ⅩⅩⅥ
総合評価が100PTに! と思っていたらいつの間にやらユニーク数が4,000を超えていました。
特にPVやユニークは最近伸び率が高く、意味もなく焦っている今日この頃です。
感謝する暇がないです。皆さんありがとうございます。
では、お楽しみいただければ幸いです。
ありえない。
これが、自らが呼び出した召喚獣を見て、アマンシオ=ムローワが思った一番最初の言葉だった。
◇◇◇◇◇◇◇
エルがハイトを召喚し、契約するところをアマンシオも見ていた。
アマンシオだけではない。彼を含めた、H組の生徒全員がその様子を見ており、彼等の担任であるカルロも見ていた。
全員が驚きの表情を浮かべる中、アマンシオだけは汚い物を見るような蔑みの視線をエルに向けていた。
(また何か姑息な手段を使ってヒッポグリフを召喚したに違いない)
風紀委員会が介入してきた一件から一週間が過ぎ、実習を受けている内に彼はそう考えるようになった。
言葉を交わさなくとも、同じ講義を受けていれば否が応でも話は耳に入ってくる。
曰く、エル達は神官部に入っている。
曰く、エル達は神官部候補生である。
曰く、故にエル達は強く、また凄い。と。
これは、アマンシオやガロ、サルバが直接誰かから聞いたものではない。同じ講義を受けることで仲良くなったG組の生徒に、H組の生徒が質問したその答えを聞いただけだ。
しかし、それまでの運という無理のある理由でエル達を否定してきたアマンシオにとって、彼等の会話の内容は嬉しいものだった。
(そうか! コネを使っていたんだ、アイツ等は)
アイツ等の力は自分の力じゃない。卑怯にも、他人の力を使って自身を誇張しているのだ。という結論にアマンシオは辿り着く。
もちろん、己が権力を持つこと、魔力保有量が多い事を謳い、クラスメイトを日々蔑み侮辱しているアマンシオはそのカテゴリーに入らない。―――逆にクラスメイトから蔑まれていることなど知らず。
彼や彼の取り巻きは自身が色つきであることを力だと思っているが、実際はそうではない。
色つきと言っても、アマンシオ達は初心者。魔術の魔の字も習得できていない、正にスハイツが言ったような、まだ殻を完全に破ることのできないヒヨっ子とも言えないヒヨっ子なのだ。そんな彼等に同じ魔術学院の生徒が恐れを感じることなど無いに等しい。
彼等が恐れられているのは、偏に彼等が貴族であることに他ならない。アマンシオ達はヴァルト中立自治領ではなくグラオデルタ帝国の貴族だが、それがどれほどの力を持つのか知らない生徒達は何もすることが出来ない。
生徒達が自分を忌避し、自分に抵抗しない事で、アマンシオは自分が特別であることを再確認した。
そんな彼には憎むべき邪魔者がいる。
邪魔者とはエルやロウェン、マリア、ユウキ、ナディア、ソフィアの六人だ。
初めはエルとロウェンとマリアの三人だったが、先の一件でユウキとナディアとソフィアも加わった。
(俺の配下にしてやろうと言うのに拒否しやがった)
アマンシオの言葉は絶対だ。拒否することは許されない。
(俺の舞台を奪いやがる)
実習はアマンシオの力を示す、絶好のアピールタイムだ。奪うことなど許されない。
(俺を公衆の面前で侮辱した)
貴族のアマンシオへの侮辱は重罪だ。許されることなどありえない。
(俺がアイツ等を神の代わりに断罪してやる)
歪んだ決意を胸に、アマンシオは召喚魔術を発動する。
(俺にはフェルトゥナよりも強力な召喚獣が出てくるはずだ)
根拠のない自信を持って。
魔方陣が光り、消える。
そうして、優越の笑みを浮かべていたアマンシオの前に現れたのは、一匹の小さな蜥蜴。
ただの蜥蜴ではない。その蜥蜴は火で出来ていた。
尾に火を灯して、アマンシオを見上げている。
その姿は、誰がどう見ても下級以上には見えない。
事実、蜥蜴の階級は下級三位だった。
(ありえない)
笑みを消して、アマンシオは呆然とそう思った。
(ありえない)
エルの召喚獣とは比べ物にならないほど弱い、小さな蜥蜴の姿をした火の精霊。
(ありえない、ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!)
まるで呪文のように、アマンシオは心の中で絶叫する。
現実逃避の末に、彼の考えは自分の都合の良い方向へ流れ出す。
(そうだ、俺に弱い召喚獣などありえない。こいつのこれは仮の姿。大き過ぎる力を抑える為にこんな弱々しい姿をしているんだ)
なら、真の姿にさせれば、自分の力を見せつけることが出来る。
自分が特別であることを分からせることが出来る。
「おい。お前の本当の姿を見せろ」
蜥蜴を見下ろして、アマンシオが命令する。
そんなものは存在しないのに。
「?」
召喚された途端に訳の分からないことを言われた精霊は首を傾げるだけ。
蜥蜴の行動はアマンシオの考えを否定している。
だがアマンシオは認めない。
「聞こえないのかっ?! 真の姿になれと言っているんだ!!」
彼の喚きに蜥蜴は言葉ではなく、何言っているんだ? という様な訝しげな顔で返す。
無言の否定は、アマンシオを焦らせ、ますます苛立たせる。
「俺の命令は絶対だ!! 言う事を聞けっ!!」
アマンシオの命令があっても無くても、蜥蜴はもう既に自身の本当の姿を見せている。これ以上行動を起こすことは無い。
それに、契約していない召喚主に従う義理は無い。
何もしない蜥蜴に、アマンシオの怒りは爆発した。
「なら俺がやってやる!!!」
聞いている側からしたら、全く訳の分からない台詞。
当然、蜥蜴の精霊にだって分からない。
アマンシオは怒りのままに動く。
怒りに突き動かされるまま、目の前の精霊に魔力を注ぐ。
魔力を与えれば、真の姿になると思ったのだろうか。
彼のその行動が、惨事を招く原因となる。
アマンシオが、それこそ湯水のように全力で精霊に魔力を与えると、尻尾をちろちろと振っていた蜥蜴の動きが止まった。
「ウゥゥゥゥ…………」
蜥蜴は頭を下げ、地面に向かって低く唸る。
それを見て、アマンシオは笑顔になる。
だが、彼の笑顔は数秒で驚愕へと変化する。
蜥蜴はグワァッッ!!! と一瞬で巨大化し、下げていた頭を上げて吠えた。
「オオオォォォォォ――――――――――ッッ!!!」
アマンシオの表情が驚愕から恐怖へと変わった。
お読みいただき、ありがとうございます。




