第一話 ⅩⅩⅢ
今回は解説です。
とってもとっても心苦しいですが、あんまり笑いとかありません。
あまり期待はしない方が良いですよ?
と言いつつ、第一話 ⅩⅩⅢ、お楽しみいただければ幸いです。
矛盾してますね…………。
あの後、エル達は子供達と遊びまくった。
スハイツは余ったフルーツドロップを貰って、先に一人で意気揚々と帰って行った。
その後を追うように、名残惜しげな子供達に「また来る」と約束して六人も学院に帰った。
次の日の日曜日、エル達は予定であって予定ではない予定で一日を消化した。
それから五日間をちょっとだけビクビクしながら過ごし、その週が明けた月曜日。
いつものように十分ほど遅れてスハイツは教室にやってくる。
「講義始めるぞー」
全く気の締まらない開始の合図。
しかし、次の言葉は声に力が無くとも生徒を興奮させるものだった。
「今日は実習で召喚魔術を使うからなー。召喚魔術の説明するぞー」
それを聞いて、ざわざわ……と控えめに騒がしくなる教室。
「静かに―。今すぐ黙らないと、チョーク投げるぞー」
妙に間延びしたスハイツの注意に、生徒達の私語がピタッ……と停止する。
痛い思いをして仏様にはなりたくない。
それにしても、今日のスハイツは不機嫌だ。
普段なら多少の私語があっても構わず講義を始めるのに。
「はぁ……。別に危険がない様に措置はしっかり取ってるんだから、俺が見張る必要なんてないだろうに、面倒くせぇ……」
溜息を吐き、肩を落として呟くスハイツ。
どうやら、実習の時に生徒が危ない目に遭わないように傍につかなければならないことが面倒臭くて嫌ならしい。
それでイライラして生徒に八つ当たりをしたようだ。
大変迷惑である。
何でこの人教師になったんだろう? と本気でエルは疑問に思う。
不思議だ。
「仕方ない……。修行と思えばいいのさ。頑張れ。俺」
自分を元気づけるスハイツ。
普段頑張っていない彼が頑張るのだから、ちょっとだらしない教師のスハイツが見られるかもしれない。悲しいことにこういう期待をされていることから、スハイツの教師としての姿勢の評価がどれだけ低いかがよく分かる。
「んじゃ、召喚魔術だが。まずはこの世界について説明しなきゃならない。この世界には三つ世界がある。俺達が今ここにいる人間界。それから神界と魔界。この三つだ」
スハイツが右手で一つ、二つ、三つと曲げていた指を伸ばして説明する。
「三つの世界の違いはただ一つ。魔気の質と濃度の違いだ」
魔気とは魔力より質と濃度が低い魔力のことだ。
その境界線は人が感じ取れるか、感じ取れないかという所で線引きされている。
魔気は世界中に存在している。この世界に魔気のない場所やモノなどない。
言ってみれば、魔力は魔気が凝縮したものでもあるのだ。
「神界の魔気は質が高く濃度が低い。魔界はその逆。人間界はその中間だ。人が空気の薄い所で空気が薄いと認識できなくても息が切れたりするように、魔気も人は感じ取れないが体は反応する。神界に住んでいるものが魔界や人間界に行ってもそこに長時間いることは出来ない。魔気の環境に体が耐えられないからだ」
特に神界と魔界は魔気の環境がほぼ真逆なので、人間界と神界、人間界と魔界を行き来するよりも難しい。
ちなみに、異界の魔気の環境で体調を崩すことを魔気酔いという。
「そこで、この問題を解決するために生まれたのが召喚魔術だ。召喚魔術によって呼び出された者を能力・見た目を問わず召喚獣と言うが、召喚魔術には召喚獣を保護する仕組みが組み込まれているから、魔気酔いをすることが無い」
スハイツは黒板に超簡潔な犬とも猫ともつかない絵を描き、その周りにシールドのような丸い円を描き加える。
彼の講義はいつも図で説明するので、字というものをほとんど書かない。
とても分かり易くてエルは好きだが、ノートに板書したい人にとってはちょっと大変な講義だろう。
「ここまでだと召喚魔術はとても便利なものだと言える。だがこの魔術は、異界に住んでいる者を誘拐しているのと同じだ。異界同士の戦争になってもおかしくない」
スハイツは大きな円を三つ追加して、右と左の円から真ん中の円に矢印を描く。
「それが起きないのは召喚拒否魔術と異界にもちゃんとしたメリットがあるからだ。召喚拒否魔術は文字通り、召喚されるのを拒否する魔術だ。つまり、この魔術が掛けられた奴は呼び出せない」
左の円の中に最初に描いたものより小さい動物を描いて、スハイツは矢印に×を描く。
「この魔術が掛けられてるのは赤ん坊や子供だ。稀に子供でも魔術を解く種族がいるが、大抵は成人した時に魔術を解かれる」
小さい動物の下に大きい動物が描かれ、真ん中の円へ矢印が追加されてその上に丸が描かれる。
「次にメリットだが、異界に住んでる奴等は俺達人間と違って、チェンジリングを潜ったりする必要なく魔力が使える。その所為か、異界の文明・技術は人間界より大分劣っている。魔具に関してもそうだが、医療や食物もな」
そこで何の前触れもなく高速でスハイツの右腕が動き、速過ぎて目視が難しいがヒュンッと空気を切り裂いて白いチョークが教室を走る。
だが、それに気付いた生徒が驚いたり動揺することは無い。
学院に来てから一か月も経っていないが、もう既に見慣れた光景だからだ。
一日に一回も無いこともあるが、ひどい時には三、四回はある。回数は恐らく50を超えようとしている。どうして学習しないのか。
二本のチョークが、ガッッ! と二つのおでこにジャストヒットして二人の仏様が出来上がる。
「イテェ~~」
「イタ~イ」
ダメージ部に手を当て悶えるロウェンとマリア。
エルは情けなくて涙も出ない。
その様子にくすくすと周りが笑う。
前言撤回、周りと言ったがエルは笑っていない。
そして、もう一つ前言撤回しよう。生徒が驚いたり動揺したりすることは無いと言ったが、一人だけそうじゃない奴がいた。
ユウキである。
額を押さえているロウェンとマリアを見て、エルの隣で心配そうな顔をしてオロオロしている。
別にそんなに心配しなくてもあれ以上二人は馬鹿にならないし、馬鹿みたいに頑丈だから心配するだけ無駄だというのに、とエルは思った。
痛がる二人の痛みを無視してスハイツが問題を出す。
「マリア、召喚される召喚獣は異界に対してどういう役割を持っている?」
有無を言わせぬ口調だ。
「……っっ異界を発展させるための人間界への使者。召喚獣は人間界で学んだ事を異界へ伝える役割を持っていますっ」
痛みを堪えてマリアが答える。
「という訳だ。そして、異界からすれば貴重な情報源。おいそれと死なせる訳にはいかない。ってことで、召喚獣は契約を勝手に破棄できるし、命の危険が迫れば召喚魔術に組み込まれた仕組みによって強制的に元の世界へ返される」
答えたマリアに何の言葉も掛けずに講義を進めるスハイツ。
マリアが睨みつけているのを完全無視している。
これは担任の機嫌が悪い時に居眠りをする(居眠り自体褒められることではないが)マリアとロウェンが悪いので文句は言えない。
「以上のことから、人間界と異界では力と情報の交換という貿易が成り立っているので戦争にはならない」
何回かロウェンとマリアは寝たふりをしてスハイツを騙そうとしたことがある。
しかし、スハイツはそのことをしっかりと見抜いていた。
彼はロウェンとマリアが見えない教室の一番後ろまで歩いて、後ろから二人に近寄り丸めた教科書で後頭部をパコンパコーンッと叩いた。
マリアは窓際から三列目の後ろから二番目、ロウェンは窓際から二列目の一番後ろの席で丁度斜めの位置に二人の席はある。
不運にも、席の近さが後頭部を二人とも叩かれる要因となった。
そして三人の言い合いが始まり、講義が終わった後にロウェンとマリアが悔しがったのは言うまでもない。
ここで一つ息を吐いてスハイツはまた話し出す。
「そして、本題の召喚魔術だ。召喚魔術には二種類ある。指定召喚と無差別召喚だ」
スハイツは黒板に描いたものを黒板消しで全て消す。
今度は縦棒を書いて黒板を左右に分け、右の上に指定、左の上に無差別、と書く。
「指定と無差別の差は? ロウェン」
後ろを振り向くことなくスハイツが問う。
「指定は契約を結ぶことが出来ない。無差別は結ぶことが出来る」
ロウェンは簡潔に答える。
「そう。指定は呼びたい奴を召喚できる代わりに契約を結べない。皆が皆、契約したい奴を呼んでたら人間界も異界も色々困ったことが起こるからな。その上、無差別より魔力も時間も相当かかる。逆に、無差別は契約を結べるが望んだ奴を呼ぶことは出来ない。ラッキーで呼び出されることはあるが、それはまず無い。そして、指定に比べて魔力も時間も少なくて済む。契約を結べば更に少なくなる」
スハイツは説明しながら、人と犬のような召喚獣をそれぞれ描いて説明を追加していく。
「召喚獣は自分の手数も増えるし、地道に修行するよりも早く戦力アップに繋がる。しかし、例え無差別召喚魔術で契約を結んでいたとしても、魔力を多大に消費する。契約しすぎれば、今度は自分の魔力が無くなって戦えなくなる。普通は一匹、魔力が多い奴でも二匹が良いとこだ」
黒板に白く塗り潰された円が描かれ、黒板消しで半分ほどが消し去られる。
「魔力はごっそり持っていかれて、その後は契約破棄しない限り減った魔力で遣り繰りしていかなきゃならない。しかも、望んだ相手が召喚されるとは限らない。召喚した召喚獣の性格が悪いかもしれない。とか諸々《もろもろ》の理由で契約する奴はほとんどいない」
前の壁に掛けられている深緑色の板は初めて見る人に落書きされたと思われ兼ねないほど、スハイツの絵で埋め尽くされている。
「俺も契約はしてない。契約する時はよく考えることだな」
そしてスハイツはふうっと大きく息を吐き。
「疲れた~。講義はこれで終~了~」
詳しいことはカルロが実習で説明するから~、とやる気ゼロ発言をして彼は教室を去って行った。
お読みいただき、ありがとうございます。




