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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第一話 ~最初の騒動はあっさりさっぱり?~
36/92

第一話 ⅩⅩⅡ 中

 全部書くと長くなってしまうので、中途半端になりますが切っています。

 ご了承ください。

 また、いつもより投稿が少し遅れました。すみません。


 第一話 ⅩⅩⅡ 中、お楽しみいただけると幸いです。

 金髪に青い瞳のその青年は、フランツ、と名乗った。

 彼はエルに助けてもらった後、女性と子供達に土下座して謝り、こう言った。

 いわく、自分と自分以外の仲間がカツアゲをした理由は違う、と。

 仲間は本当に金を巻き上げる目的であったが、フランツは子供と一緒に歩いている女性がうらやましく、ねたましかったからだ、と。

 彼は子供に関わる仕事がしたかったのだが、男の自分では家族に反対されると思っていたし、恥ずかしくて言い出せず、その思いが心の中でくすぶっていたらしい。

 我慢することで、日に日に苛立いらだちが増していき、子供達と楽しく歩く女性を見た瞬間その苛立ちがあふれてしまった。と告白した。



 そして、現在。

 エル達は、リズという名の女性が率いる子供隊+フランツ=合計八名の人達とリズが務めている託児所たくじしょへ向かっていた。


 託児所とは、ケレステア神殿が運営している施設の一つである。

 仕事で子供の世話が出来ない親が子供を預ける所。保育園と同じである。

 ただ、対象年齢が0~8歳と少し範囲が広い。

 似たような施設で孤児院もある。


 なぜ、エル達を合わせて合計14人の集団を結成して託児所を目指しているのかというと。

 謝罪を繰り返すフランツに、リズが「託児所に来てみませんか?」と誘ったからだ。

 もちろん、その申し出を青年が断るはずも無く、今は子供達を仲良く手をつないで歩いている。元々人に好かれるタイプらしい。

 そして、エル達はついさっきからまれて危ない目に遭ったリズや子供達とさっさと別れて帰れるはずも無く。

 予定にあった買い物を中断し、託児所へと送っているのである。

 自分達が迷子になっていた、という理由も半分……七割ほどあるが。

 ちょっとした(付添つきそいが多すぎる)遠足の気分になりながら歩いていると、エルの上着のすそが引っ張られると同時に。

「お兄ちゃん! さっきはありがとね!」

 とエルに助けを求めに来た少年が笑って言った。

 フランツが何度も何度も謝り続けていたせいで忘れていたが、まだお礼を言われていなかったことをエルは思い出す。

「どういたしまして。間に合ってよかった」

 振り返ったエルは笑顔で返す。

「うん! 俺、ヒューイっていうんだ! お兄ちゃんは?」

「エルだ。よろしくな」

「うん、よろしく! エル兄ちゃん!」

 満面の笑みでそう言うヒューイが眩しい。

 二人が会話をしているとリズが話しかけてきた。

「すみません。先程はお礼を言うのを忘れてしまって」

「いえ。あんなに長い謝罪を聞かされたら、誰でも忘れますよ」

 エルは苦笑し、冗談めかして言う。

「ふふ、ありがとうございます」

 口元に手を当て、笑うリズにエルは一言付け加える。

「それに、神官候補生としてああいうことをほっとく訳にはいかないですし」

 その言葉にリズが目を丸くする。

「そうなんですか? 私の夫、神官なんです。言ったらとても喜びます」

 施設には必ず最低でも一人は神官が常駐じょうちゅうしていることになている。どんなに小さくてもだ。

「ありがとうございます」

 そんなほのぼのとした会話をしながら託児所へと十四人は到着する。

「大きいですね」

 建物を見上げてユウキが感想をべる。

 目の前に建つ白い家は、家と言うより屋敷に近い大きさだった。

 ユウキの言う通り、ここまで大きいものは珍しい。

「昔から建っていたものを修繕したんだそうです」

 とリズが説明する。

「どうぞ。上がって行って下さい」

 彼女の言葉に甘えて託児所に入ったエル達は意外な人物と会うことになる。

『ただいまー!』

『お邪魔します』

 バタバタと足音を立てる子供達と一緒に六人も中へ入る。

「お帰り。遅かったね」

 と言って奥の部屋の扉を開けて出てきたのは、ベージュ色の髪に焦げ茶色の瞳をした男性だった。

 いかにも、保父さん、といった感じの顔と雰囲気を持った人である。

「ええ。ちょっと、色々あって」

 男性の言葉にリズが応える。

「色々?」

 目をぱちくりさせる男性。

「そう。男の人達に絡まれてしまって」

 カツアゲ、とは言わない。

「大丈夫だったのか?」

 怪我してないか? と男性はリズに問う。

「大丈夫。子供達にも怪我は無いわ」

 リズは安心させるように言った。

「そうか。良かった」

 ほっと男性は息を吐く。

「あの人達が助けてくれたの」

 リズが振り向いてエル達を紹介し、事の経緯けいいを話す。

 話を聞いた男性は笑ってエル達に感謝する。

「助け頂いてありがとうございます。私は神官をしております、カーティス=クローチェと言います」

「いえ、皆さんに怪我が無くて良かったです」

 頭を下げてきたカーティスにエルも頭を下げる。

 それに合わせて、隣にいるロウェンとマリアや、後ろにいるユウキと双子も慌てて頭を下げる。

「何もない所ですが、奥でお茶でも飲んで行って下さい」

「ありがとうございます」

 にこやかなカーティスに案内され、部屋の中に入るエル達。

 部屋には縦に長い長方形で、部屋の形に沿うように同じく一番手前の席に、カップの茶色い液体へ角砂糖をどぼどぼと入れている人物がいた。

「「先生!?」」

 同時に声を上げたのはロウェンとマリアだ。

 エルは声を上げそこねていた。

 どうやら自分は驚くのが常人より一拍遅いようだ、とエルは思う。

「ん? 何だ? お前等」

 気付いたスハイツも片眉を上げる。

「先生こそ、何でこんなとこにいるの?」

 好奇心旺盛なソフィアが真っ先に問う。

「俺か? 俺はカーティスに会いに来ただけだ」

 スハイツの答えをカーティスが訂正ていせいする。

「菓子を食べに来ただけ、の間違いじゃないかな?」

「まぁ、それも理由の一つではあるな」

 ケロッと悪びれもしないスハイツ。

「で? お前等は?」

 次はお前達、とスハイツが再度問いかけてくる。

「それはですね……」

 スハイツの右隣、扉に背を向ける席に座ったエルはここまで来た経緯を話した。

「ふーん……。だからここにってことか」

 説明を聞き終ったスハイツはさして興味もなさそうに呟いた。

「紅茶が入りましたよ」

 リズが白地に金色で模様が描かれた六つのカップに琥珀色の液体を注ぐ。

「砂糖はこっち。ミルクはこっちです」

 丁寧にふたを開けてカーティスが説明する。

 そこに子供達がダダダッと部屋に入ってくる。

 リズと一緒にいた子供達だ。フランツの姿もある。

『先生!』

「こら。走っちゃダメでしょ。お客さんがいるんだから」

 たしなめるリズ。

「でも、おやつ買うの忘れちゃったよ?」

 でもも何もないが、とりあえず早く伝えたかったらしい。

 この台詞に反応したのは、リズでもカーティスでもなかった。

「なにぃぃぃぃいい?!」

『?!』

 スハイツである。

 彼はガタッ! と音を立てて椅子から立ち上がり、悲愴と驚愕が入り混じった表情をしている。

 予想もしないところから突然上がった叫び声に子供達が怯える。

「あらららら。すっかり忘れちゃってたわね」

 叫び声を気にせず、手をほおに当てるリズ。

「スハイツ、大声を出さないでほしい。子供達がびっくりする」

 カーティスが遅い注意をする。

「これが大声を出さずにいられるか!!」

 カーティスの声の十倍はある音量でスハイツは言い返す。

「先生。たかがお菓子で良くそんなリアクションが出来ますね」

 感心一割、呆れ九割の視線をマリアはスハイツに向ける。

「たかが?! 甘いお菓子はこの世で一番の幸せを秘めているんだぞ?!」

 お菓子を侮辱されたと感じたスハイツは、ほぼ呆れ顔のマリアに食って掛かる。

「それは認めないでもないですが、先生のその執着はおかしいです」

 ナディアの言が正確にまとる。

「なにぃ?! 二十四時間三百六十五日頭脳労働をさせられている俺に向かってお前はそんなことを言うのか?!」

 自分の日頃の行いをどうしてそんな風に捉えることが出来るのだろうか、エルには疑問である。

「それが本当だったとしても言いますよ。大人気ないって」

 ソフィアが冷たい声で返す。

「お前等、俺の言ったこと信じてないだろ?!」

「誰がそんな大嘘信じるんだよ」

 他の者と同じく呆れ顔でロウェンが言う。

 エルのスハイツの評価は今のところ、悪戯大好き怠慢教師、である。

 そして今ここに、超甘党、という新たな評価が加わった。

 言う事全てを否定されて、スハイツはクールダウンではなくヒートアップする。

「俺のこと馬鹿にしてるだろ?!」

「「馬鹿にはしていませんよ?」」

 変人扱いしているだけで。

 語尾にそんな台詞がはっきりと聞こえてくる双子のシンクロ。

「でも、先生はもうちょっと真面目な所を生徒に見せた方が良いと思います」

 生徒のユウキが先生のスハイツに助言する。

 この中で一番優しいユウキにまで言われてしまったら終わりである。

 ちなみにエルはこの会話には参加しないし、参加したくもない。

 疲れるだけだからだ。

 そう考えると、エルも意外と面倒臭がりなのかもしれない。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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