第一話 ⅩⅩⅠ 四
第一話 ⅩⅩⅠ 四、お楽しみいただけると幸いです。
四件目の服屋でのショッピングを終了させたマリア達にエルは提案した。
「そろそろ昼食にしないか?」
「そうね。もう12時近いし」
「お腹も空いてきたしねー」
買い物を楽しんだナディアとソフィアがホクホク顔で提案を飲む。
「どこで食べる? 何食べたい?」
マリアが皆を見回しながら問う。
「俺、ハンバーグ~」
即行でロウェンが袋を持った右手を上げ、希望を出す。
「お前、ホント、肉ばっかだな」
エルは呆れる。
「他に希望は?」
マリアが再度問うが、誰も何も言わない。
「ハンバーグに決定みたいだね」
笑顔でユウキが言う。
「なら、そこにハンバーグって書いてあるよ」
「そこにしちゃえば?」
行動が早いナディアとソフィア。
「そうだな。そこにするか」
即決するエル。
「じゃ、早く行こうぜ」
ロウェンが足を進め、他の五人も続く。
ポツリ、とユウキが言った。
「悩まなさすぎじゃない?」
中に入った洋食店で六人が注文した料理は、エルはペペロンチーノ、ロウェンは特大ハンバーグセット、マリアはカルボナーラ、ユウキはボロネーゼ、ナディアはドリア、ソフィアはオムライスだった。
相談の時、ハンバーグで誰も異存は無かったはずなのだが、希望を出したロウェン以外、誰もハンバーグを頼んでいない。
協調性があるのか無いのか分からないグループだった。
まぁ、互いの料理を味見して楽しく食事をしているのだから良しとしよう。
一時間ほどで食事を済ませた六人は、ショッピングタウンを何となく適当にブラブラと歩いた。全て女性陣の先導で。
九十分くらい歩いたところで、エルはふと気付く。
「これ、帰り道、分かってるんだよな?」
迷路のように入り組んでいるショッピングタウンを三人のガイドは平気で、右に曲がり、左に曲がり、あっちに行ったり、こっちに行ったりしていることへの不安を表した言葉だった。
はてさて、エルの不安は的中、すでに現実となっていた。
前を歩く三人の足がピタッと止まる。
ガイドが止まったので、後ろを歩いていた男達三人も足を止める。
「マリア? ナディア? ソフィア?」
エルが問いかけると、ギギギ……と錆びて動きの悪い機械の如く、ゆっくりと彼女達は三人仲良く同時に振り返った。
三人の顔は青かった。
彼女達の顔を見たユウキとロウェンの顔が固まる。
「ま、まさか…………」
「嘘だろ…………」
マリア達に否定されないことで、男二人の顔色もサァーッと青く変色する。
五人は呻くように言った。
「「「「「迷った………………?」」」」」
最後にはてなが付いているのは、現実を受け入れたくない為だろう。
あちゃー、とエルは額に手を当てる。
(知らない方が良かったかも…………)
なぜ帰り道のことを言ってしまったのか。エルは少し後悔する。
こういう時は、知らない方があっさりと出口に辿り着けたりするものだ。
逆に、知らず知らずの内に奥の奥まで行ってしまう可能性もあるが。
要は運次第ということだろう。
エルの前方、少し離れた所では、ロウェンとユウキが女性陣の所に近寄り、どうにかならないかと苦心している。
「なあ、ホントに分からないのか?!」
回答は同じだと知りつつ、ロウェンは再度訊く。
「ちょっと前までは戻れるけど……」
ナディアが困ったように返す。
「初めての場所だし、全部は覚えてないよ」
途中で絶対間違える、とソフィアが続けた。
「誰か、人に道を訊きたいけど、誰もいないし……」
ユウキが辺りを見回す。
見事にシーン……という文字が彼等の間に落ちてくる。
六人がいるのは、雰囲気からすれば通るのは鼠だけで人など到底来はしないような路地とでも言うべき場所だ。
この先にも店があるだろう、と軽く考えてズンズン進んできたので、一体自分達がそれだけ歩いて何回曲がってどっちに曲がってきたのか、見当もつかなかった。
「「「「「Oh my god!!!!!」」」」」
頼れる人物が誰もいないことに、エル以外の五人がショックで無駄に発音の良すぎる嘆きを口から発する。
(18歳で迷子か……)
来たことの無い場所だから仕方がないとしても、エルは情けない気持ちになる。
初めての場所では女性をあまり信用してはいけない。エルは心に刻み込む。
女性は男性に比べ、地図や道には強くないという。
中には強い人もいるが、この場にいる三人は当て嵌まらないだろう。そんな博打を打つより男性に賭けた方が、まだ分がある。
もっと前に学びたかった。そう思っても後の祭りだ。
エルは疑問を口にした時点で、ある程度は予想していたからショックはほぼ無い。
だから、他に気を回すことが出来た。
最初に気付くことが出来た。
タタタタタ……、と背後から走って迫ってくる、小さな足音と呼びかけてくる声に。
「そこのオレンジの髪の人ー!!」
距離がまだ少し遠いのか、エルの耳ははっきりと言葉を聞き取れない。
だが、その声が切羽詰まっていることは分かった。
「そこのオレンジの髪の人ー!!」
エルはようやく聞き取れた。
オレンジの髪、とはこの場ではエルしかいない。
ん? と自分ではないかもしれないと思いながらもエルは振り返る。
振り返った先には、こちらに向かって一直線に、全速力で駆けてくる少年がいた。
金髪に青い瞳のしっかりしていそうな少年だ。
しかし、エルには見覚えが無い。無いゆえに、なぜ呼ばれているのか分からない。
一分ほど遅れて、少年にロウェンやマリア達も気付く。
「何だ? アイツ」
怪訝な顔をするロウェン。
「何か、大変そうだけど」
マリアもロウェンと同じような顔をする。
ハァハァ……と息を切らしてエルの元に走ってきた少年は、顔を上げて大きな声で言った。
「お兄ちゃん、強い?!」
何とも答え辛い質問を投げかけられる。
必死な少年に圧倒されながらもエルは答える。
「ま、まぁ。それなりに……?」
ここは、俺は強い! と答えてやるべきなのかもしれないが、エルはそこまで言い切れるほどの自信を持っていないし、ナルシストでもない。後ろに友人がいる手前、そんな恥ずかしい発言は出来なかった。
答えを最後まで聞かず、少年は続けて言った
「お願い! 先生を、皆を助けて!!」
焦っている少年には、別に答えの内容なんて関係なかったのかもしれない。
お読みいただき、ありがとうございました。




