第一話 ⅩⅩⅠ 壱
ユニーク数が2,000を突破しました!
たくさんの方に読んでいただき、本当に嬉しい限りです!
ありがとうございます!
第一話 ⅩⅩⅠ 壱、お楽しみいただけると幸いです。
そして現在、4月12日土曜日の午前八時、五分前。
「ナディアとソフィアはまだなのかよ?」
待ち合わせ時間の十分前に、寮のホールにあるソファの一つを陣取ったロウェンが早くも根を上げてボヤいた。
今、ホールにはロウェンとユウキ、マリア、エルの四人以外は誰もいない。
一年生寮に住むのは十八歳の若者達だ。と言っても、まだほとんどの者が十八歳の誕生日を迎えてはいないが。この年齢の若者にとっては、休日の午前八時は朝ではない。皆、部屋でまだ眠っているのだろう。
また、寮には管理人さんがいるが、こちらは休日ということで、平日のように一日中ホールの受付にはいない。それは誰もいないという訳ではなく、緊急時に対応するために管理人室には一人だけいることになっている。
人目が無いので、ロウェンは大きなソファを一人で使っている。エルとロウェンの次に階段から降りてきたマリアがその姿を見て文句を言っていたが、エルが宥めて落ち着かせた。
その後、ユウキが現れ、プンスカしているマリアを見た彼にその理由を聞かれて、状況を話すと「それ、何となく分かるなぁ。僕は小心者だから出来ないけどね」と苦笑した。
その言葉を聞いたマリアが「くだらないわ、理解できない」と頬を膨らませて言ったが、エルも普段は一人で使えないものを独り占めしてみたい気持ちは分かるので、苦笑を浮かべるだけで同意できなかった。分かるがゆえにロウェンの行動を黙認していたのだ。
「八時まであと五分だ。もうすぐ来るさ」
ロウェンの正面、一人掛けのソファに座っているエルが言う。
しかし、エルの言に反して、この外出の発起人である双子が姿を現すことは無かった……。
なんてことがあるはずも無く、八時丁度(八時五秒前くらい)にシンメトリーを作った二人が階段から降りてきた。
「おはよー、皆。お待たせ」
「おはよー。待った?」
普通、女性にこの台詞の後半のようなことを言われた時に男性が返す言葉は大体決まっている。
「おせーよ。早く行こうぜ」
と、ロウェン。
……これではない。
確かに、パターンとしてはこれもよくある台詞だ。女性の中にはこちらの方が好みの方もいらっしゃるだろう。
しかし、この場にいる女性の中でこの台詞に胸がキュンッとするようなM…………失礼、刺激を感じる人物はいなかった。
求められているのは素っ気無い方ではなく、紳士な方だ。
ロウェンの言葉を聞いたナディアが左手を腰に当て、右手の人差し指をピンと立て、まるで自分の生徒に教えを聴かせる教授のようなポーズを取り。
「おっと、ロウェン君。オンナのコに」
「『待った?』」
芝居がかった普段よりも高い声でソフィアが言う。
胸の前で手を組み、顔を少し下に傾けてきゅるるーんと上目使いでロウェンを見つめている。そのオーバーな姿は世に言うぶりっ子のそのもので、人に嫌悪を抱かせることが多いものであるが、演技となるとまた話は違ってくるらしい。普段の彼女からは想像できないその挙動は嫌悪ではなく笑いを誘うものにしかならない。
事実、エルの視界の端に映るマリアとユウキはプッと噴出している。
「か、ないしはそれに準じた台詞を言われた場合、オトコのコは」
教授のものまねをしたまま、ナディアが続ける。
「『いや、俺も今来たところだよ。じゃあ、行こうか』」
今度は先程とは打って変わった低い声で、ソフィアは目の前の存在しない相手に微笑を浮かべて手を差し伸べる。
その動作はさっきと同じくオーバーで、誰がどう見ても気障としか受け取られないだろう。彼女のバックに大量の薔薇が見える。幻覚であるはずなのに、目を擦っても薔薇が消えない。何故だ。
「と返し、笑顔で手を差し出すのが常識なのだよ」
ナディア教授は得意気にそう締め括った。
「はいはい、次から気を付けるよ」
ロウェンの返事からはその気が全く感じられない。
何だか朝からテンションが高い教授と女優は、彼の素っ気無い態度はお気に召さなかったようで、ぶーぶーと不満をロウェンに浴びせる。
「返事は一回だけ! あと心が全然籠ってない!」
「次からはじゃなくて今この場でやってよー!」
ナディアの言っていることは正しいが、ソフィアの言っていることはただの要求である。
「嫌だ」
心底嫌そうな顔でロウェンがキッパリと返す。
どちらに対して彼が答えているのか、説明せずとも分かるだろう。
「えぇー、何で?」
「いいじゃない、してよー」
してよーしてよー、とロウェンに気障な演技を請う二人の姿は、駄々をこねる子供にしか見えない。
「んなことしたら、絶対笑われるだろ! 誰がそんな羞恥プレイするかっ!」
しつこい双子にロウェンの声のボリュームが上がる。
彼の言う通り、例え芝居だと分かっていてもロウェンがあんなことをしたら、彼以外の全員が爆笑するのは確実だ。でなければ、頭を打ったのか、熱があるのか、変な薬を飲んだのか、と心配するに違いない。ロウェンが理想の男性に一歩近づいた! と喜ぶ奴なんて一人もいない。
「二人共、そこまでだ。そろそろ出よう。それとロウェン、ナディアとソフィアは八時前に来たんだから遅くは無いぞ」
五秒だけだが。
それでも遅刻していないことに変わりは無い。
エルは双子を止め、ロウェンも注意しておく。
「「えぇ~」」
不満顔をするナディアとソフィア。
「ああ、分かった」
反対に、ロウェンはエルの注意をあっさりと受け入れる。
素直、というよりは、双子を早く自分から引き剥がしたいのだろう。
「じゃ、行こっか」
良いタイミングでユウキが出発の合図を出す。
「こんな所で油売ってないでさっさと行きましょう」
マリアが先頭切って歩き出す。
その後にユウキ、ロウェンと続き。
「「一回だけだから! 一回だけ!」」
「ぜってェ、やんねェ!!」
まだ諦め切れないナディアとソフィアがロウェンの腰にしがみ付いて、ズルズルと引き摺られていく。
女性とはいえ、成人に近い人を二人腰にくっ付けて、双子の要求を全力で拒否っているため鼻息は荒いが平然と進んで行くロウェンに。
(流石、俺達三人の中で一番の力持ち。筋肉鍛えてるだけあるなぁ)
と、最後尾をエルが妙に感心しながら歩いて行った。
ちなみに、俺達三人の三人とはエル、ロウェン、マリアである。
お読みいただき、ありがとうございます。




