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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第一話 ~最初の騒動はあっさりさっぱり?~
30/92

第一話 ⅩⅩ

 お楽しみいただけたら幸いです。

「「お出かけするよ!」」

 ビシッ! と持っていたフォークを丁度ちょうど目の前にいたロウェンとユウキに突きつけ、双子がそう言い放ったのは、はからずも風紀委員化のトップの二人とご対面した週の金曜日、夕食の最中であった。

「ふ?」

 へ? とフォークを突きつけられて、ステーキにかじり付いたロウェンが間の抜けた声を出す。ぶらん、と口にぶら下げられている分厚い肉の板は、見様みようによってはアッカンベーをしているように見えないこともない。ただし、その様は発された声と同様に間抜けで呆れを誘うものであって、笑いを誘うものでは決してない。

 同じく、フォークを突きつけられているユウキは、足をって椅子をガタッと後退させた。その背は若干じゃっかんっており、その目は丸く見開かれ、四つに分かれた銀色の凶器の先端を凝視ぎょうししている。

(ロウェン、ステーキはナイフで切ってから食べろ。それとユウキ、ナディアの腕の長さとテーブルの直径を比べると、どう考えてもフォークがお前の顔に突き刺さることは無い。ビビり過ぎだ)

 目の前で伸ばされているナディアの腕に食事を邪魔されて中断し、ロウェンとユウキに呆れた視線を向けながらエルは思う。

 向かいでは、マリアがエルと同じように、ナディアではなくソフィアの腕に食事を中断させられて箸を置き、口を開く。

「出かけるって、どこへ?」

「「そりゃあもちろん、街へ」」

「いつ?」

「「明日」」

「誰が?」

「「皆」」

 双子は基本的な質問にリズム良く答えていく。

 最後の答えが引っ掛かったので、エルはその答えを繰り返す。

「皆?」

 疑問符付きで。

「そうよ。当たり前じゃない」

「だって、明日全員ヒマだし」

 当然でしょ? 何言ってるの? という顔を双子にされる。

(ナディア、それは当然なのか。そしてソフィア、確かに俺に明日の予定は無いが、明日全員暇だとなぜ断言できる?)

 エルの疑問を読み取ったかのように、ソフィアが続ける。

「皆、積極的に外に出て遊ぶなんて思考無いみたいだし。どうせ、エルとユウキは部屋に引きこもって本読んだり、ロウェンとマリアは体鍛えるとか言って筋トレでもしたりするんでしょ」

 全く持って図星であった。全員。

 どこまで自分達のことをこの二人に知られてしまっているのだろう。それを考えるとちょっと怖い。

「その予定があって予定のないスケジュールを私達が埋めてあげましょうって訳。ま、本音は私達が暇だから遊ぼうよっていう事なんだけどね」

 突き出していたフォークを下げ、ミートソースがかけられたパスタを巻きながらナディアが言う。

「俺は別にいいぞ。ソフィアが言った通り、明日は予定だけど予定じゃない予定しかないからな」

 たまにはいいか、とエルは双子の提案を了承する。

「僕もいいよ。ここに来てから街に出かけたことなかったし」

 隣でユウキも了承する。

「私もいいけど、具体的に何するの?」

 マリアが双子を見る。

「んーと、まず午前中は服を見て、次に昼ご飯かな」

 マリアの隣に座るソフィアが答える。

「俺は行かねぇ。買い物なんて面白くも何ともないからな」

 最初に間抜けな声を出してから、今までずっと黙ってステーキを口に頬張ほおばり、もぎゅもぎゅと食べていたロウェンが本当に全く関心の無い顔で断った。

 その時。

 エルはロウェンの言葉を聞いたナディアの目がキラッと光った気がした。

「その後はアクセサリーも見るんだけど、魔具店に行く予定なんだよねー」

 ロウェンがこの言葉にピクッと反応する。

 さらに素知らぬ顔でナディアは続ける。

「そのまた後に、工房にも行く予定だったりするんだなー、これが」

「行く、俺も」

 さっきまでの興味のない冷めた目とは一転し、瞳を輝かせてロウェンは同行を願い出た。

 エルはナディアの口が少しり上った気がした。

 荷物持ち確保♪、と思っているナディアの心中はソフィアしか知らない。



 ちなみに、工房とは魔具師が魔具を作る場所のことだ。

 魔具店と工房の違いは、量販店と専門店の違いと言えばいいだろうか。

 魔具店は、行けば欲しいものが置いてある。しかし、質のいいものは売っていない。店によって違いはあるが、ほとんどの店が最低のものから、どんなに良くても上の下までしか置いていない。また、専門的な魔具も置いてはいない。魔術を使えない一般人向けである。

 工房は、全てがそろっている訳ではないが、専門的なものが売られている。そして、上質な物が置いてある(それほどなのかはその魔具師の腕次第)。魔具店に対して、工房は魔術師向けだ。

 と言っても、どちらも絶対にそうだとは言い切れないが。



「オッケー! じゃあ、全員参加ってことで」

 ソフィアがフォークを持ったまま、右手の人差し指をピンと立てた。

 最初からすでに決定事項ではなかったか? という台詞を、エルはこの際口にしない。

「明日の午前八時、一回のホールに集合だからね!」

 食事が終わって別れる間際まぎわ、ソフィアが伝達事項を告げる。

 そして、ナディアとソフィアはブンブンと手を大きく振りながら、マリアは小さく手を振りながら、おやすみぃ、と言って女子寮へと去って行った。

 エルとロウェン、ユウキも女性陣に手を振り返し、おやすみ、と返して部屋へと足を向けた。

 こうして、六人の初めてのお出かけが決定した。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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