第一話 ⅩⅧ
今週の分です。
こちらを先に開いてしまった方は、先週の分も投稿しておりますので、そちらを先にご覧ください。
第一話 ⅩⅧ、お楽しみいただけると幸いです。
「なぜ止めた?」
騒ぎが終わった後、生徒会棟へ向かう途中でグウィードが質問を口にした。
「先程の騒ぎのことですか?」
分かっていながら聞き返すミズホ。
「ああ。あれは明らかに相談と言う雰囲気ではなかっただろう?」
隣で歩くミズホを見ずにグウィードは返す。
「本人達はそう言ってましたよ?」
「そうだな。しかし、あの空気ではどう考えても攻撃魔術を描いたと思うんだが」
チラ、とミズホを非難するようにグウィードは視線を隣に向ける。
「そうですね。ですが、ムローワさんが描いた魔術は攻撃するものには見えませんでしたし、怪我人も出ず、何も起こらなかったのは事実でしたから」
ミズホはグウィードの方を向き、微笑んで言う。
「確かにそうだが……」
眉間に溝を作って渋い顔をするグウィード。
「ええ。確かに描かれたのは攻撃魔術ではありませんでした。しかし恐らく、いえ、確実にムローワさんが放とうとしたのは攻撃魔術でしょう」
一つ前の台詞と一転して、今度は笑みを消し、真剣な顔を向けてミズホはグウィードの推測を肯定する。
「ならば……」
「それでも、さっき言ったように、攻撃魔術には見えませんでしたし、魔術は発動しませんでした」
温和な彼女にしては珍しく、ミズホはグウィードの発言を遮って言葉を紡ぐ。
「では、なぜそんなにはっきりと、ムローワが描いた魔術が攻撃魔術だと言い切れる?」
相変わらず前を向いたまま、グウィードが質問する。
「それは、私が最初からあの騒ぎの現場に居たからです」
ミズホはあっさりと言う。
「! ……それで?」
グウィードは、なぜ止めた? とまた言いそうになるのを抑えて、続きを促す。
「はい。委員長が考える通り、彼等は相談などしていません。ムローワさん達がシノノメさん達に絡んで、それが喧嘩に発展しました」
「そういう状況なら、描かれたのは十中八九、攻撃魔術だな」
随分と低い沸点だな、とグウィードはアマンシオのことを評価する。
「はい。ここからは推測ですが、フェルトゥナさんが幻術を掛けたのではないか、と」
彼女の発言にグウィードは驚いて眉を上げる。
「見破れなかったのか? 幻術が得意なお前が?」
「はい。いつ術を掛けたのか、全く分かりませんでした。最初からあの場に居なければ、幻術が掛けられたことすら気付けなかったでしょう」
そう言うミズホは、悔しそうに少し眉を寄せている。さっきグウィードの発言を遮ったこともそうだが、幻術を得手とする者としてかなり悔しい思いを抱いているらしい。それにより、彼女にしては珍しい行動が出てきているのだろう。
工夫次第で解決できることだが、基本、自身の幻術のレベルが相手のものより上なら、その相手の幻術に掛かることはほぼ無い。幻術は、使用者の優劣がかなり明確に付けられてしまうのだ。
ミズホはこの学院で随一の幻術の使い手だ。それはつまり、ここの生徒の幻術なら費やす時間の差はあれど、彼女は全て見破ることが出来るということだ。
彼女に学院一の幻術使いという肩書への執着は無い。だが、周囲から言われればそれなりの自負は抱くものだ。一つとはいえ、年下の新入生の幻術を見抜けなかったことを悔しく思うのは当然のことであった。
「……走り込んできた二人である可能性は?」
一応、確認としてグウィードは口を動かす。
「いえ、それは無いでしょう。委員長の質問にすぐ答えられませんでしたから」
ミズホは即座に否定する。
「そうだったな。そして、それをフォローするためにフェルトゥナが出てきたのか」
「はい。後、魔術が発動しなかったことが疑問なのですが……」
話を途中で切って、ミズホは考え込む。
「描いた本人であるムローワも驚いていたからな。これは幻術を掛けたフェルトゥナにしか分からんだろう」
ふぅ、とグウィードは息を吐き、生徒会棟が近付いてきたので歩調を緩める。
「そうですね。疑問は残りますが、次に機会が来るのを待ちましょう」
ミズホはそう言って、目の前にある生徒会棟の扉を開く。
「……結果的に、フェルトゥナへの貸しになったんだな、これは」
妙に含みのあった彼女の物言いに、グウィードは少し遅れて気付いた。
生徒会棟に入って廊下を歩きながら、彼は思い、呟く。
(フェルトゥナの幻術も高度だったが、他の生徒を庇っていた二人……グライフェンとウェルベイアと言ったか。あの二人の身のこなしも隙が無かった)
「今年の一年はレベルが高いのか。それともあの三人が特別なのか」
もし前者であれば上級生の立つ瀬が無いな、そんなことは無いと思いながらもグウィードは気落ちしそうだった。
「どうかしましたか?」
呟きが聞き取れなかったのだろう、グウィードの雰囲気が少し暗くなったことに気付き、ミズホが訊いてくる。
「いや、何でもない。気にするな」
言って、グウィードは風紀委員会室の扉を開く。
「はい……? 分かりました」
小さな疑問符を頭の上に浮かべながらもミズホが返事をする。
そして、二人は部屋へと入って行った。
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