第一話 ⅩⅦ
先週は予告なしに更新せず、すみませんでした!
前回、更新した直後に、我が相棒であるパソコン様におへそを曲げられ、家出されてしまい、仲直りに時間がかかってしまいました…………。
という事なので、今回は先週の分と今週の分の二つを投稿します。
では先週の分、第一話 ⅩⅦ、お楽しみいただけると幸いです。
人だかりから抜け出して、少し歩いたところでナディアが口を開いた。
「三人共、ごめんね。巻き込んじゃって」
その声にいつもの様な元気は無い。
「ユウキも……。私達が突っ掛かって行ったせいで」
ソフィアの顔も俯きがちで落ち込んでいた。
「いいわよ、こんな事くらい。怪我もしなかったし」
マリアが怪我がないことを証明するようにヒラヒラと両手を振る。
「そうそう。それに事の発端はアマンシオなんだろ? お前等は悪かねェよ」
ニカッとロウェンが双子に笑って見せる。
「僕も、二人が割って入ってくれなきゃどうなってたか分からないから、助かったよ」
ユウキもナディアとソフィアを元気づけるが、その後に顔を曇らせてこう言った。
「そもそも、僕が絡まれたのが原因なんだし……。周りに気を配ってなかった僕が悪いんだよ……」
言いながら、ユウキはどんどん心を底なし沼へと沈ませていく。
その様子を見て、今度は双子が慌ててユウキを元気づける。
「いや、ユウキはちゃんと邪魔にならないところに立ってたじゃない! 悪くないわ!」
「ロウェンも言ったでしょ! 悪いのはぶつかってきたアマンシオなんだから!」
「う、うん……。ありがとう」
ユウキは何とか浮上した。
「悪いのはユウキ達じゃなくて、アマンシオ。それに誰も怪我しなかったんだから、それでいいじゃないか」
反省大会は終了、というようにエルは結論を出す。
「そうそう! あー、でもアイツが魔方陣描いた時は本気で驚いたわ」
その時を思い出したのか、ナディアが苦い顔をする。
「ああ、あれは流石に俺も驚いた」
ロウェンがナディアの言葉にうんうんと頷く。
「私も。まさか魔術を使おうとするなんて……」
心底呆れた、とマリアが溜息を吐く。
「入学して一ヵ月も経ってないのにねぇ」
苦笑するソフィア。
「大分頭に血が上ってたみたいだね。でも、そんな状態なのに正しく魔方陣を描けてたみたいだから、才能はあるのかもね」
何で発動しなかったのかは分からないけど、とユウキは付け足す。
その言葉にエルは驚く。
「ユウキ、あの状況で良くそんなことが分かったな」
お前凄いな、とエルがユウキを見ると、彼は照れながら答えた。
「いや、何となく……ね」
どうやらユウキは洞察力が中々良いらしい。おっとりした印象がある彼には想像つかない意外な能力だ。
エルが感心していると、今度はユウキがエルを褒める。
「風紀委員長さんと副委員長さんと話してたエルも凄かったよ。咄嗟にあんな嘘の言い訳は思いつけないし、動揺も隠せないよ」
うーん、これは喜んで良いのだろうか。嘘を吐くのが上手いと褒められても、自分が嘘吐きだと言われているようでちょっと傷つく。でも、ユウキは本気で言っているようなので素直に受け取る。
「ありがと。俺は皆と違って少し離れた場所にいたから、考える時間が少しだけあったんだよ」
素直に受け取っておきながら、ユウキの言葉をエルは若干否定する。うん、やっぱり嘘吐きは嫌だ。というより謙虚さが出たと思ってほしい。
「でも、あの威圧感バリバリの委員長さんに物怖じせず話せる度胸は凄いと思うわよ」
ヒョコッと横から顔を出してナディアが会話に入ってくる。
「ありがと」
エルは照れ隠しのように苦笑する。
「ま、あのまま問い詰められてたらヤバかったけどな」
ロウェンも会話に参加してくる。
「そうだな。副委員長さんには感謝しないと」
タイミング良く現れた副委員長を思い出しながらエルは言う。
「綺麗な人だったね。ミズホ=タカハシって言ってたから、ユウキと同郷でしょ?」
ユウキの方を向くソフィア。
「そういえばそうだね。ヴァルトとアルベジャントは仲が良いから不思議なことは全くないけど」
ユウキは笑って返す。
アルベジャント皇国はヴァルトの隣、方角で言えば南東に位置している国で、ヴァルトが出来た当初から親交が深い。
優雅、メルヘンという言葉が合うヴァルトの洋風の文化に対して、アルベジャントは風情、風流という言葉が浮かんでくる、他国と全く違った和風の文化を持っている。
この相反する文化のためか、両国の仲が良いためかは分からないが、アルベジャントはヴァルトにあるモノを、ヴァルトはアルベジャントにあるモノを好む傾向があり、物品の売り上げや旅行者の行先もお互いの国が半数を占めていたりする。
また、アルベジャントの国土や人口は、他の国と比べて決して広くないし、多くない。しかし、工芸品を作る技術や産業の技術が発達しており、経済大国としての国力は世界一だと言われている国である。
アルベジャントの一番分かりやすい特徴は、国民のほとんどが黒い目に黒い髪を持っていることだ。
「黒目黒髪って綺麗よね~。憧れるわ」
目をキラキラさせてマリアが言う。
「俺は綺麗っていうより、カッコイイと思うけどなぁ」
ロウェンは頭の後ろで腕を組む。
「僕はもう見慣れちゃってるから、そんな風には思わないなぁ。逆に、他の国の人達の髪と瞳の色に憧れるよ」
二人の言葉にユウキが照れる。
「結局、自分に無いものに憧れを抱いちゃうんだよね」
不思議、とナディアは口を動かす。
「要らないものもあるけどねぇ~」
ソフィアが皮肉を言った。
◇◇◇◇◇◇◇
五人の会話を聞きながら、エルはさっきの出来事、特にミズホのことを思い返していた。
風紀委員会の副委員長である彼女は、本来ならグウィードと同じようにエル達を追及するべきだった。
しかし、ミズホはそうせず、反対にグウィードを止めた。
理由は、アマンシオの描いた魔術が攻撃系には見えなかったことと、そして何も起きなかったからだろう。
と思いたいのだが、ミズホが少々強引に追及の手を止めたことからして、それがエルの施した細工であると彼女が見破っていたのはほぼ確実である。
つまり、エルはミズホ、延いては風紀委員会に借りを作ったことになる。
(この借りは嫌なものを運んできそうだなぁ)
エルはこの借りから嫌なものしか感じなかった。
それも、そう遠くない内にエルの元にやって来そうである。
(ばれないようにしたつもりだったんだけど……)
突然の出来事だったためか、上手く出来なかったらしい。
それでも中々の出来だったと思うのだが、認識が甘かったようだ。
例え学生であっても、実力が高い人はいる。たかが学生、と侮ってはいけない。
(要修行ってことだな。頑張らないと)
気合を入れ直すが、借りのことを考えると気が滅入るようで、エルは自分の足がいつもより重く感じた。
お読みいただき、ありがとうございます。




