第一話 ⅩⅥ 上
今回はいつもより短いです。
第一話 ⅩⅥ 上、お楽しみいただけると幸いです。
学院は広い。
また、それに伴って建てられている建築物も大きい。流石、魔術師を育てる世界最大の教育機関と言われるだけはある。
その中で、生徒会棟は学院のほぼ中央に位置している。
生徒会棟の前には広場、そしてそこから真っ直ぐに伸びた道の先には学院の正門がある。今は四月半ば。植えられている桜の木々の花弁が、広場と正門をつなぐ道に薄桃色の絨毯を敷いている。
桜色に染められた広場を囲むように、生徒会棟の左前には魔術科校舎、右前には魔具科校舎が建っており、三つの建物の行き来は短い時間で済む。またそれは、三つの中のどれか一つでトラブルが発生すれば、他の二つにもそのトラブルが簡単に知れ渡ることを示している。
メリットは、他の校舎にいる教師達がすぐにトラブルの鎮圧へ応援に行けること。デメリットは、発生するトラブルが小さなものであった場合、生徒達の気が逸れて講義が進まないことである。ちなみに、多くの場合、後者になることが圧倒的に多く、難しい科目を担当している教師はよく嘆いている。
しかし今回、エル達にとって学院のこの構造は前者に働いた。
神官部の部室から退出し、生徒会棟から出たエル達はある光景を目にした。
エル達から言えば左前方。魔術科校舎の玄関の前でその光景は繰り広げられていた。
「「「?」」」
校舎同士は近いといっても、学院の敷地は広いし建物も大きい。最初は、何かざわざわしているな、という位にしか三人は認識できなかった。
「……あれは何をしているんだ?」
「喧嘩じゃね?」
「同じく」
エルは見えている光景を認めたくないがために、ロウェンとマリアに質問した。
だが、ロウェンはエルにあっさりと事実を突きつけ、マリアは軽く右手を挙げて追い打ちをかけた。
「…………だよなぁ」
溜息を吐きながら、エルはガックリと肩を落とす。
三人が目にした光景とは、こうだ。
まず、メンバーはユウキとナディア、ソフィアの三人。そして、非常にありがたくないことにアマンシオとガロ、サルバの実習の前にエル達に突っかかってきた三人トリオがいた。
ここまで言えばもう分かるだろうが、ユウキ、ナディア、ソフィアVSアマンシオ、ガロ、サルバの、いや、正確に言えばユウキはオロオロしているだけで喧嘩には参加していないので、二対三の対決が繰り広げられている。
現在、ユウキを抜いた五人は口論というより、口喧嘩の真っ最中だ。いつから始まったかは分からないが、中々ヒートアップしているのを見るとついさっき始まったわけではないだろう。
「どうする? 行くか?」
内容は不明だが、喧嘩をしているのは事実だ。性格上、ユウキ達から喧嘩を売るような事はないはずなので、売られたものを買ったのだろう。
あの三人はエル達が巻き込んだようなものなので、それを考えたのかロウェンが友人達を心配して聞いてくる。
「……俺達が行っても話をこじらせるだけかもしれないし、今は様子見をしていた方が良いだろう。でもまあ、禁止されてるから大丈夫だと思いたいが、魔術で戦闘にならないとも限らないからな。一応、近くには行っておこう」
「ラジャー」
エルの言葉にマリアがちょっとふざけて敬礼する。
くす、と笑って、エルは魔術科校舎に足を向ける。
しかし、三人が数歩歩いたところで事態が急変した。
その変化に一番早く気付いたのは恐らくエル。
変化を認めたエルは脇にいる二人に向かって言う。
「走れ!」
短い言葉だったが、ロウェンとマリアは瞬時に反応して走り出す。
二人が向かうは、ユウキ、ナディア、ソフィアが立つ場所。
走って行くロウェンとマリアに対して、エルはその場で足を止める。
エルは一度目を閉じ、意識を集中させた。
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