第一話 ⅩⅤ 下
ユニークが1,000を突破いたしました!
たくさんの方に読んでいただき、嬉しい限りです!
駄文ではございますが、皆様に楽しんで頂けるよう、精進してまいります。
それでは、第一話 ⅩⅤ 下、お楽しみいただければ幸いです。
「ゴホンッ」
仕切り直し、という様にホメロスが咳払いをして、先程とは打って変わった口調で話し始める。頼んだ身で言うのもなんだが、これはこれで不自然だ。
「長話をして済まない。入部届を貰おう」
「はい、よろしくお願いします」
後ろにいるオルティアのことが気になるが、見て見ぬふりをして入部届をホメロスに渡す。受け取ったホメロスが届を読み、確認する。
「…………」
ホメロスは、一番上から一番下まで目を通していく。その目が最後の項目である活動生と非活動生を選ぶ欄に至った時、彼は我が目を疑った。
「?!」
何と、非活動生の方にチェックが入っているではないか! それも三枚すべて! まさかそんな! 一年生ではあるが、神官候補生である彼らは活動生として動ける実力を十分に備えているはずだ。なのに何故?!
ホメロスは自分の見間違いかと思い目を擦るが、何度見直そうが瞬きしようがチェックがついているのは非活動生の方だった。
(いや、彼らが間違ってしまっている可能性もある。確認しよう。別に彼らが非活動生を選んだことが信じられないという訳ではないのだ。この項目は重要な所だから確認するだけだ。決して、彼らが活動生を選ばなかったことが受け入れられないのではない。これはあくまで確認、確認なのだ!!)
言っておくが、ホメロスは馬鹿ではない。魔術の知識を問う期末テストも魔術の実力テストもいつも上位にランクインしている。普段、冷静で落ち着いている彼はとても頼りがいのある人物である。ただ、一度走り出したら止まらない、ミサイルの様な気性も持ち合わせており、ちゃんと的に向かって飛んで行けばいいのだが、残念ながら正しい方向に飛んで行った試しがない。間違った方向に向かってしまった上に、どこにも当たらず暴発を起こして自滅してしまうという残念な男であるだけなのだ。
彼は暴走する思考を押さえつけ、やっとの思いで質問する。
「……君達は非活動生ということで良いのか?」
ホメロスに入部届を渡した後、エルは大人しく確認が終わるのを待っていた。だが、入部届を読む部長に雰囲気がどんどん変化していくのを見て、何か大きなミスでもしてしまっていたのだろうかと焦ったが、部長の纏う空気が重すぎて声をかけることが出来ずにいた。そして、しばらく待った結果、やっと部長が口を開いたのだ。
かなり身構えて受けた質問はごくごく普通の確認だった。質問を聞いたエルは拍子抜けして肩の力を抜こうとしたが、目の前にいるホメロスを改めて見て力を入れ直した。
ホメロスの様子は一見冷静に見える。しかし、その三枚の入部届を持つ彼の両手はブルブルと震えていた。今にも破れそうな程に引っ張られ、皺が入った紙を持つ手の状態は最早、持っているというよりは握り締めていると言っても過言ではない。
俺は彼に何か悪いことをしてしまったのだろうか、とエルは自分を疑いながら何とか質問に答える。
「……はい。俺達はまだ一年生のなので……」
「本当にそれでいいんだな?!」
ズイッと顔を近づけ、エルの言葉を遮ってまたも確認するホメロス。鼻と鼻が触れ合わんばかりに自分の顔をエルの顔に近づけた彼を引きはがしながら、今度はマリアがエルに助け舟を出す。
「ええ。そうです。私達は神官候補生といっても、この学院に入ったばかりの一年生です。手伝えることもあまりないと思いますし、新入生の私達が取り締まれば後で何が起こるか分からないので、活動生ではなく、非活動生を選択しました」
正論過ぎて反論の余地を許さないマリアの言葉に、ホメロスはガーンと床に手を着き、チーンと言葉もなくうなだれた。
確かに人手不足の神官部にとって、活動する部員が増えないのは残念な事柄かもしれない。だが、それは今エル達三人が断っただけで、床に手を着くほどではないと思うのだが。
そこでエルはある考えに辿り着く。
(そうか、ロウェンとマリアは神官候補生の中でも実力が頭一つ飛び出ていたし、部長の後輩であれだけ親しかったんだから、落ち込むのも当然か)
惜しいが間違った答えだった。もちろん、思考の中での答えなので、その答えを誰も知ることは無く、また誰かが訂正してくれることも無かった。
「手伝えなくてすみません。もっと実力を付けたら、部長と仕事させてください」
エルが出した答えは間違っていたが、彼がホメロスにかけた言葉は大正解だった。そして、効果は絶大だった。
慰めを聞いたホメロスはさっきまでのどんよりとした雰囲気を瞬時に消し去り、ガバッと起き上がってこう言った。
「そうか、そうだな! そうだよな! では君達が活動生となる決心が出来るまで、私は待とう! その時が早く来ることを祈っているぞ!!」
「「…………」」
ああ、また暑苦しいのに戻った、とロウェンとマリアは呆れた目をホメロスに向けた。
その後、簡単な質疑応答を少しして、あれやこれやと理由を付けてエル達を引き留めようとするホメロスを、ロウェンとマリア、そしてオルティアの協力の元、時間はかかったが何とかあしらい、エルは部室から退出した。
彼らが去って行った後、ホメロスはまたもや言い訳に労力を費やすことになった。
一回目はまだしも二回目、その上ちょっととはいえ敬語を使ったのだ。オルティアが疑問を持つのは当然のことだと言えよう。
もしかしたらエル達を必死に引き留めたのは、この事態を避けるための本能からきた行動だったのかもしれない。まあ、今さらこんな推理をしても全くの無意味だが。
今回、ホメロスは誤魔化すために前回の倍以上の労力を使った。寮に帰った彼の様子は、日課にしているトレーニングをすることなく、ただ椅子に座って真っ白に燃え尽きていたとかいなかったとか。
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