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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第一話 ~最初の騒動はあっさりさっぱり?~
22/92

第一話 ⅩⅣ

 来週は予定が詰まっておりますので、出来るだけ更新しようと思っておりますが、更新できるかどうかわかりません。

 楽しみにしてくださっている方には申し訳なく思っております。


 駄文ではありますが、今後もお付き合いいただけると嬉しいです。

 その日の放課後。

 少し落ちてきた日が差し込む一階、一年生担当教員の職員室。


 バリボリ、バリボリ


 バリボリ、バリボリ


 ズズーーーッ


 バリボリ、バリボリ


 ズズーーーッ


 ある一角から何かを歯で噛み砕く音と何かを飲む音が部屋中に響き渡る。

 発生源は、一番窓際の角に置かれている机と椅子の持ち主。

 仕事をしている他の教員が迷惑そうにチラチラと視線を送るが、それに気付く様子はない。やがて、その様子を見た教員達はあきらめたようにハァと溜息を吐いて、自分の仕事に取り掛かる。

 無駄だ、例え気付いていても無視するのがスハイツ=カリカという男なのだから、と。

 そんな教員達の心に気付くことなく、スハイツは思考の海にひたる。

 右手に煎餅せんべい、左手に砂糖がたっぷり入ったカフェオレを持ち、口だけをしきりに動かす。

 煎餅には緑茶、カフェオレには洋菓子だろうと思う方が多いだろうが、彼にとってはこれが最高の組み合わせなのだ。

 三十分ほど前。

 放課後のホームルームを終えた後、スハイツは職員室へ直行した。

 職員室に着いた彼は仕事を始めることなく、煎餅と彼はカフェオレを用意して食べ始めた。

 それからずっと冒頭ぼうとうで書いた音を発し続けている。

「おい、スハイツ。何を物思いにふけっている?」

 声を掛けたのはカルロ=ラクテオ。

 スハイツが担任をしているG組の隣、H組の担任をしている教師だ。同時に、周囲に変人と評価されるスハイツの数少ない友人の中で、唯一親友と呼べるほど親しい友人でもある。

「…………」

 だが、スハイツは親友の声にも反応しない。

 余談だが、一度だけ、なぜ煎餅とカフェオレの組み合わせなのか、とカルロは聞いたことがある。

 答えは、煎餅のしょっぱさが、ただでさえ甘いカフェオレの甘さをさらに引き立てるかららしい。これでスハイツがかなりの甘党だという事が分かる。

「? おい、スハイツ。スハイツ、気付け」

 誰かが近付いたり、声を掛けられてスハイツが反応しない、または気付かないことは滅多にない。

 全くの無反応のスハイツに、カルロは珍しいなと思いながら彼の肩を揺らす。

「っっ。ん? 何だ? カルロ」

 肩を揺らされハッとして、やっとスハイツはカルロの存在に気付く。

「お前が何をそんなに物思いに耽っているのだろうと思ってな」

 カルロは最初にした言葉を再度発する。

「ああ、んー、いや、別に、そんな大したことじゃない」

 大したことではないと言いながら、悩んでいるその様子は言葉と反対にしか思えない。

「お前の様子からして、大したことに思えるんだが?」

 カルロは思ったことを率直に言う。

「そうだなぁ。なぁ、お前はさ、今日の実習どう思った?」

 煎餅とマグカップを机に置いたスハイツが聞く。

 話題の転換をしようとしている訳ではないようなので、カルロは質問に答える。

「平年通り、もしくは良く出来ていたと言ったところだな。まだベースを構築できていない者もいるが、それも意外と少ない。」

 カルロは冷静に評価を下す。

「俺も同じだ。もう一つ聞くが、俺のクラスの色つき三人、覚えているか?」

「ああ。覚えてる。Dが一人とEが二人いたな」

 ちなみに、Dはエル、Eはロウェンとマリアのことである。

「そうそう。んで、その三人、お前はどう思う?」

「どう、と聞かれてもな……」

 今日初めて会ったばかりな上に、一言も話していない相手を評価しるのは難しい。

 判断材料は見た目と実習の様子のみ。

 カルロは実習の時、自分のクラスにかかりきりだったので、結局の所、ほぼ見た目で判断することになる。

 大多数の人は初対面の人間をまず見た目でその為人ひととなりを想像するのだろうが、カルロはそれを良しとしていない。

 それを察したスハイツが言う。

「初めて会った奴を見た目だけで評価するのは俺だって嫌だぜ? そうじゃなくって、アイツ等のことをお前はどう感じた? 雰囲気というか、オーラというか」

「雰囲気か……、……将来の有望株ってところだな。特にDクラスの彼」

「あぁ、まぁ、そうだろうな。他には?」

「今のところ、これ以上は何も浮かばないな」

「そうか……」

 期待した答えが出てこないことに気落ちしたような、納得がいかないような返事をスハイツが返す。

「何だ、お前は担任なんだから、俺の見解と違いが出るのは当然だろう?」

「それはそうなんだけどな」

「何がそんなに引っ掛かっているんだ?」

「……いや、別にそんなに重要なことじゃないから、いい。今ここでぐるぐる考えても無駄なような気がする」

「そうか」

 スハイツの言葉を聞いたカルロはあっさりと手を引いた。

 スハイツ自身が出せていない答えを追及しても意味がないという結論に一瞬で達したらしい。

 無理に聞き出そうとしない彼のこういう性格はとても助かる。

 会話を終えたカルロはすでに机の上の仕事の処理を始めている。

 そして、スハイツは再び思考を思考の海へ入れていく。

 会話を打ち切ったのは、さっきの言葉通り今考えても意味がないと思ったからだ。ただ、重要なことかどうか、またそれが誰にとってかは分からないが。

 気になっているのは、話題に上ったあの三人。

 最初に見た時、その見た目に違和感を持った。容姿が綺麗だとか、不細工だとかいう話をしているのではない。

 わずかなズレを感じたのだ。

 それも根本的な、アイツ等の容姿はそうじゃない、何かが違う、間違っているという様に感じる。

 彼らの名前や顔に覚えはないから、以前会ったことがあるという訳ではない。となると、恐らくこれは自分の勘だ。

 自分が違和感を感じたというなら、それは間違いなく魔術か、またはそれに付随ふずいしてくるものだろう。 

 と、ここまで考えてスハイツは自嘲じちょうする。

(さっき、ここでぐるぐる考えても無駄だと言ったはずなんだがな)

 スハイツが思っている以上に彼はこのことが気になっているらしい。

 自分がここまで自分以外の何かに興味を持つのは珍しかった。

 それは、ただの好奇心から来るモノなのか。はたまた、あのズレが魔術だとして、自分の勘違いかと思わせるほどに巧妙な魔術を掛けた術師に対しての対抗心か。

 十中八九、後者だな、と思いながら、彼は椅子を45度回し、日の沈む窓の外に目をせた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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