第一話 Ⅸ 下
お久しぶりです。
最近、書くペースが遅くなっています。
由々しき事態です。
でも、頑張ります。
今後もどうぞお付き合い下さい。
スハイツが黒板に書いていたものは一般人でも知っていることで、魔術学院を受験する者ならば誰でも知っている常識である。
「知っているだろうが、一応確認しておく。魔術の始まりはチェンジリングの発見だ。チェンジリングは発見されてから現在までの約千年間ずっと研究されているが、詳しいことは分かっていない。分かっているのは、リングを潜ると魔力を得るということだけだ」
スハイツは黒板を指差しながら説明を続ける。
「このことについても、リングが力を与えているとか、潜在能力の覚醒だとか、色んな仮説が立てられてる。今最も権威がある研究者は、クレイグ=カルペパーっていう爺さんと言われている。この爺さんはリングが力を与えている説を提唱してる。ホントかどうかは知らんがな。で、チェンジリングを発見し、潜ったのが、誰だ? ロウェン=グライフェン」
先程の出来事をからかっているのだろう、一見無表情に見えるが、その口元は若干吊り上っている。
これは魔術に関する問題の中では世界一簡単なものだ。
答えられないわけがない。
何故こんな易しすぎる問題を、いや易しすぎるからこそか。
「世界初の魔術師クロス=エントラーレです」
ロウェンは少し苦い顔をしながらも答える。
彼は担任の意図にしっかり気付いている。
「正解、クロスはリングを巡った戦争を防ぐためにヴァルト中立自治国を創り、管理するためにファルベント魔術学院を建てたりしている。クロスは世界的に有名で多くの逸話が存在しているが、意外と謎の多い人物で、クロスのことを調べている学者も多い。後、クロスを熱狂的に崇拝している宗教団体みたいなのが数多く存在していて、最近は起きていないようだが、テロ活動みたいなヤバい事件を起こしたりしていて世界的にも問題になっているな。宗教団体ができる要因で一番有力なのが、マリア=ウェルベイア。何だ?」
スハイツは同じ顔で今度はマリアに尋ねる。
「クロス以外にGランクの魔力を持った人がいないことです」
マリアもロウェンと同じような顔をしながらも真面目に答える。
彼女もからかわれているのに気付いているようだ。
因みにさっきの問いもとっても簡単なものだ。
「そうだ。Sランクはちらほらいるんだが、Gランクが全くいない。まぁ、出てきたら出てきたでそいつの身に何が起こるか分かったもんじゃないから、いた方がいいのか、いない方がいいのか判別できんがな。それじゃあ、最初の講義はこれくらいにしておこうか。次は今日の実習のために魔方陣のことについて説明するからな」
説明が続く中で、二人分の視線を感じるのは勘違いではないだろう。
それは何かを危惧しているような感じのものだ。
(さぁ、どう責めようかな)
視線を感じながら、エルは考えを巡らせる。
その考え(別にない。敢えて言うなら二人を責めること)はスハイツが教室から出て行き、二人が席の正面に立った時に実行された。
「どういうつもりかな?」
笑顔でそういうエルの前には、ロウェンとマリアが気を付けをして立っている。
「悪い、許してくれ! 悪気はなかったんだ!!」
「そう、悪気はなかったの! ごめん、許して!!」
二人は顔の前に手を合わせて、腰を曲げる。
そのタイミングはピッタリ同じだ。
「あれだけ注意したのに……」
二人の息の合った行動に笑いを誘われ、許す気満々になりながらも、それだけではつまらないと二人をからかう。
「ユウキ達に言っちゃおうかなー」
その言葉を言った瞬間に二人の必死度が跳ね上がる。
「頼む、それだけは止めてくれ! 何でもするから!!」
「何でも、何でもするから! エル、お願い!!」
ユウキはまだマシだが、双子に聞かれたらどうなるか堪ったもんではない。
しかも何を話されるか分からない、心当たりがありすぎる二人であった。
その目には何だか涙が滲んでいるように見え、その必死さは土下座でもしそうな勢いがある。
そんなことをされたら体裁が悪いし、焦った二人が見れたので良しとする。
「分かった分かった。許すよ」
エルは黒い笑顔を苦笑に変えて、二人を許す。
「えぇ~。許しちゃうの?」
「すっごい聞きたかったのにぃ」
ほぅっと息を吐き出して安心しているロウェンとマリアとは対照的に、ナディアとソフィアはほっぺたをプクゥッと膨らませて機嫌を斜め45度に傾かせている。
「そんなに聞きたいのか?」
「「うん」」
聞くと、キラキラした目で見つめられた。
その様子を見たロウェンとマリアはエルが話してしまうと思ったのか、焦って止めに入ってくる。
「そんなの聞いてもつまんねェって。な、マリア」
「えぇ。ホントにつまんない話だから。面白くもなんともないわ」
二人にとっては。
「そうそう。気にする程の事じゃねェって。ユウキは興味ないだろ?」
「無いことは無いけど、僕は次の魔方陣の講義が気になるかな」
ユウキは双子ではなく、二人に協力することにしたらしい。
「私の魔方陣どんなだろ? 気になる~」
「高望みはしないけど、可愛いのだったらいいな」
双子はあっさりユウキが出した話題に食いついてきた。
元々気になっていたことだったのだろう。
魔方陣は、魔術師が魔術を発動する為に必要不可欠なものである。
魔方陣の構造はベースと術式の二つで出来ている。
魔方陣にとってベースは、核であり中枢である。
術式が無くても魔術は使えるが、ベースが無ければ魔術は使えない。
ベースは魔術師がそれぞれ自分一人だけのものを持っており、同じものは一つとしてない。
また、自分のものではないベースで魔術を使うことは出来ず、任意で変えることも出来ない。
しかし、それは飽く迄任意で変えることが出来ないという意味であり、全く変化しないということではない。
術式はどういう魔術にするか設定するための方式である。
魔方陣の中にどんな術式を書き込むかで、どんな魔術になるかが決定するのだ。
単純に言えば、魔方陣に光・玉と書き込んで発動すると光の玉ができるという感じである。
双子が言っているのはベースの方。
「三人の魔方陣はどんな感じ?」
ユウキが聞いてくる。
気のせいか、その質問が出た途端、何だか教室が静かになったような感じがする。
「俺のはな……」
と、ロウェンが答えかけたところで、リーンゴーンという鐘の音で会話が中断される。
何となく、何となく残念な雰囲気が教室の中に漂った。
「実習までのお楽しみだな」
エルの一言で雑談はお開きとなった。
お読みいただき、ありがとうございます。




