第一話 Ⅸ 上
お久しぶりです。
前回の投稿から、十日以上経ってしまいました。
楽しみにして頂いてる方々(いればですが。)、申し訳ありません。
カッ、カカッ、カッ
誰もが一度は聞いたことがあるであろう音が教室に響いている。
その音と同時に壁に掛けられている深緑色の板の上に白い線が書かれていく。
書いているのはこのクラスの担任であるスハイツ=カリカ。
彼は五分ほど前から一言も発さず、チョークで黒板に文字を書いている。
一限目の開始の合図である本鈴が鳴ると同時にガラッと扉を開けて現れたかと思うと、授業開始時にする挨拶もせずにチョークを持って黒板に向かい、何やら一心不乱に書き始めた。
登校初日とは打って変わって一言も発さない担任の様子に、生徒達は付いて行けずに戸惑ってざわつくばかりだ。
だが、その戸惑いも二、三分経つと、スハイツが書き終わらないと何も始まらないから考えても無駄だという結論に達したのか、次第に治まり静かになった。
そして現在、全員黒板が白い文字に埋め尽くされるのをただ黙って見ている。
約二名を除いて。
「「すぅ、すぅ」」
黒板にチョークで文字を書く音しかない教室でその音は妙に目立った。
嫌な予感がしながらエルはゆっくり首を回す。
(さすがに学院に入学して初めての授業なんだしアイツ等でもそんなことはしないだろう、いやでもこの状況でこんなことが出来るのはアイツ等以外に……、いやいやもしかしたら俺の知らないアイツ等よりも神経の図太い奴が……、いやいやいやアイツ等並みかそれ以上に図太い奴なんて会ったことないし滅多にいない……、分かっているこれは現実逃避だそれでも俺は日頃アイツ等を扱いていたタリアさんの苦労と時間に賭けた……)
心の中の呟きが最後まで無かったのは答えをその目で見たからだ。
寝息を立てていたのはロウェンとマリア。
ロウェンは腕を組み、椅子の背もたれに体重を預けた状態で。
マリアは右手で頬杖を突き、左は机の縁に置いて机に体重を預ける状態で。
どちらも顔は下に向いている。
分かっていたのだ、寝息が聞こえてきた時点でこうなっていることは。
確認するまでもなかったことなのに、つい意味のない考えを巡らせて有りもしない可能性に期待した自分が馬鹿だったのだ。
回した首を元の位置に戻して、額に手を当て溜息を吐く。
そして、視線を前に向け、未だに黒板に向かってチョークを扱っている担任の背中を何気なく見ていたら、彼が振り返った。
と思ったその時。
ヒュッ
高速で何か白いものが二つ、教室の空間を同時に駆け抜けた。
その白いものが向かう先にはロウェンとマリアの額があった。
ガッッ!!
白いものは正確に二人の額にヒットした。
「いってぇ~」
「いったぁ~」
二人は同時に攻撃を受けた場所に手を当てる。
寝ていた二人の額にヒットした白いものは、チョークだった。
いや、この場合、スコーンという間の抜けた音ではないところがチョークの投げられた速度と威力を物語っているのでクリーンヒットと言うべきか。
倒れはしなかったものの、ロウェンとマリアはチョークが当たった瞬間かなり仰け反っていた。
自業自得なので同情の余地はないが、あれは痛い。
「今年は二人かぁー。ちょいと少ないが、中々チョークの投げ甲斐がありそうだな」
教師らしくないが、ある意味教師らしい言葉がスハイツの口から飛び出てきた。
(えぇー……)
さっきまでの微妙に緊張していた空気は一体何だったのか。
今、生徒達の心境を表すとしたら概ねこんな感じの言葉になるだろう。
しかも、今年は、と言っている所からして、毎年同じことをしてチョークを投げる生徒を判別しているようだ。
スハイツは呆けたような顔をしている生徒達を楽しげに見ている。
その時、ガタタッと音を立てて、ようやっと痛みが少し和らいだロウェンとマリアが勢いよく立ちあがった。
立ち上がった二人はこう叫んだ
「そう簡単に何度も何度もやられてたまるか!!」
「返り討ちにしますからっ!!」
二人とも涙目でどこかの国の僧侶のような、中心に丸くて小さい赤い点ができているおでこを片方の手で庇いながら、もう片方の手で担任をビシッと指差す。
(アホ……)
それではスハイツの思う壺だということが何故分からない。
何だか頭が痛くなってきた。
「それは楽しみだな。ま、精々《せいぜい》期待しておくことにするよ。ほら二人とも座れ、講義始めるぞー」
そして二人が座ったところで、やっと講義が始まった。
お読みいただき、ありがとうございます。




