表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Diaspora  作者: 吐露ヰ
8/11

格納庫の喧騒

「だから、っわっかんない奴だねっ!!私が嘘を言っているとでもいうのかい?」

ただっ広い空間にその声はためらい無くコダマする。


誰一人としてその強壮たる声の主に反駁しようとするものはいない。

そんなこと出来るはずも無かった、、、、、、、

ただ一人を除いては。

「わからんのはあんさんの方や!こないな機体でフロウをとっちめたやって?ひどい冗談や。

あんさんはこれがどういったモンか全くわかっとらへん!」

それに負けず劣らずの罵声をその人だかりの中央で叫ぶ一人の少女。


「そんなものは門外漢の私がしることではない。

だが事実だ。

私は一度ならず、二度その機体がフロウを撃退した現場にいたんだぞ!?」

リスキーは目の前に格納されている件の機体を指差して反論した。


「ちゃうちゃう。

聞いている限りだと、一回目は結局このあんさんのアンファンが止めを刺した。

二回目は実際見てへんやろ?

もしかしたらあの化けモンが逃げただけかもしれへん。

一体誰が、こんな壊れかけの機体でフロウ倒しましたゆうて信じるっちゅうねん!?」


ワラワラとその熾烈な応酬が繰り広げられる一角に格納庫の作業班が群がっている。

彼らの表情は実にさまざま。

『この二人じゃ誰も止められないよな、、、、』

或いは

『またか、、、』

といった感じで彼女たちを止めようとする者がいないでもないにしろ、

大半は極日常的なイベントを観戦するかのようにそこに展開されている”今日のリング”を見ていた。


その中央で舌戦を引き受ける一人―――クレバイン整備班主任にして、比類ない機械愛好家。

名はロコ・マインストーン。

彼女は作業の邪魔になるためその長い赤毛を左手に束ねて団子状に纏めているはずであったが、

今は先ほどから続く言い争いのために解けて妨げられることなく右へ左へ激しく跳ねていた。


「それはっ!!、、、、、、たしかにそうだが、、、、、。

だが一体目のフロウ相手に彼がやって見せた戦いについては説明しただろう?

確かにとどめを刺したのはわたしだが、倒せたのは完全に彼の功績だ!

いままでコアを露出させられた奴がユリイカにいたか?

せいぜい大量の弾幕と数的優位で押し切って撤退させるくらいが関の山だった。

恥ずかしい話だが、このアンファンでさえ未知の領域が多くて私たちがアレをまともに相手取るのは困難なのも事実。

この機体を調べればわれわれアンファンにとって有益な何かがわかるんじゃないか?」


今まで幾度と無く現れたフロウ。

幸いなのはやつらが一度に一体、せいぜい三体で出現してくれることだ。

今では奴らに対する24時間の警備体制がどの管区においても義務となっている。

ひとたびフロウが現れれば、管区同士の垣根を越えて全面支援をすることがユリイカ安全保障統一法で定められている。


だが、今後フロウが必ずしも少数で出現しつづけると決まったわけではない。

だから彼女たちシベリウスが作られたのだ。

現在に至ってもロスト・テクノロジーは完全には解析できていないが、

そんなことをいっている状況ではないため、

ほとんど手探りで彼女たちはこの未知の技術の産物であるアンファンの運用を実現させることを求められている。


だが、ロコは知った顔でかぶりを振り呆れ顔でリスキーを見た。

「”アンファンに有益”!?

そもそもそこからおかしいねん!

勘違いもはなはだしい。

これのどこがアンファンゆうねん!?

全くの別物!

姿かたちは似ていても、遥かに原始的!骨董品!

こんなんでフロウとやり合おうなんて正気の沙汰やないわっ!」

ロコはいきり立って眼前の機体―――外壁に”隼”とペイントされた廃棄寸前のボディを軽くこぶしで殴って見せた。


そう、そんなことがあるわけが無いのだ。

アンファンと似ている?

確かに外見は本当に瓜二つだ。

こんなものがアンファン以外にこのユリイカにあること自体が不思議で仕方ない。

それゆえにロコにとっても非常に興味深い研究対象であることに間違いは無い。


だがコレがフロウとまともに戦い”打倒した”と聞いては黙ってられない。

ロコは毎日アンファンの状態を自分のベストを尽くして整備・調整しているのだ。

ましてやまともなマニュアルも無く、言語もシステムも異なるディアスポラ期のロスト・テクノロジーを解析することにはさすがの彼女も悲鳴を上げていた。

だからこそ、こんなわけのわからないアンファン”もどき”に自分の子供たちとでも言うべきアンファンが劣っているなど断じて認めるわけにはいかないのだ。


「これがフロウを倒したやて!?

ええわ説明したる。

こいつはな、ゼロ・フィードバックなんや。

わかるやろ?それ聞けば。

だからこいつにはアンファンのようなパイロット支援用のAIも情報整合化フィルターもなぁんもゼロ!

まったくの全くの丸裸!

パイロットと機体をつないどるのは、恐ろしいことやで?

この操縦棹とペダルだけ!

それでも、あんさんまだ言い張るんか?」


―――ゼロ・フィードバック?

リスキーは耳を疑った。

本来アンファンは遺伝子ベクター導入施術を受けて出生してくる神経強化されたユリイカ市民を前提に作られている。

というかディアスポラ期のユリイカ兵がそういった処置を施されていて、

偶然彼女たちの世代にそれが浸透していた、というのが正解なのだが。

その為、パイロットは操縦棹を握ることはあっても、実際に機体をコントロールする情報は脳内から直接システムに伝達させる。

そして情報をファジー分析したAIが改めて最適な指令に変換して機体を動かす。

そのフィードバック機能のおかげで搭乗者はより多くの情報を獲得し発信することが可能となったのだ。


だがゼロ・フィードバックはそれらパイロット補助のためのあらゆるシステムが皆無なことを意味していた。

いわば、ディアスポラ期の地球軍が使用していた人型兵器のように、

あくまで従来の航空機を高高度域戦闘に対応させただけの非常に原始的な構造ということになる。


『地球軍、、、?、』


リスキーははっとなって初めてあの男と邂逅したときに聞いた彼の言葉を反芻した。

「正統、、、、地球連合軍、、、、」

そうだ彼は確かにそういっていた。

あの時はフロウの出現に全神経を傾注していたし、

実際それを冷静に聞いていたとしてまともにその意味するところのものを知ろうとしただろうか?


「せや!まさに史実に残るディアスポラ期の地上の蛮族の技術レベルの低い人型兵器がこんなものだとしたら、

十分合点がいくわ。、、、、、、、は?」

勢いに任せてリスキーの言葉に続けた彼女であったが、ややもして疑問符を浮かべてリスキーに目線を向ける。


『どういうことだ?だが、ロコの言っていること、奴の言葉。

だが本当にそんなことがありえるだろうか?』


リスキーは目の前で呆れ顔でこちらを見ているロコを半ば強引に横様へとどけると、

オンボロな機体むかって走り出す。

四方を駆け回り目当てのものを探す。


無い?

いや正確には損傷が激しくてあるべき刻印が刻まれた装甲などほとんど残っていないのだ。

『もし本当ならなにか証拠が、それを証明するものがあるはずだ!』

彼女はコックピットへ駆け上がる。

開かれたハッチの中を覗き込むと、そこは外見とは違いアンファンのそれとは似ても似つかない構造をしていた。

二本のレバータイプの操縦棹と恐らく出力制御用のペダルがいくつか見受けられる。

座席の傍らには急ごしらえなのか妙に違和感のある防護カバー付きのボタンが一つ。


そんなリスキーの理解不能な一挙手一投足をしたから見上げていたロコは相変わらずの呆れ顔でリスキーをたしなめた。

「何も無いで?

うちらプロが徹底的に調べたんや。

まぁちゃんと修理するには一回解体せぇへんとさすがにあかんがな。」

確かにあのロコがこの機体の構造で見落としているものがあるとは思えない。

だが、、、、、、、


―――クシャッ、、、、、

不意に彼女は足元で何か紙のようなものを踏んだのに気がついた。

『これは?』

かがみこんでその紙切れを広いあげる。

ボロボロで所々すすけた一枚の―――写真だった。


その一人があの男というのはすぐにわかった。

だがその一方の少女が誰であるかは当然わからない。

あの男はこんな風にして笑うのか。

あの戦慄駆け巡る地獄で平然とフロウを駆逐してしまう鬼のような男がなんと優しい笑みを浮かべているのだろう。


リスキーは海賊討伐部隊出身の軍人ゆえ、ユリイカのなかでも多くの戦闘を経験してきた類の人間だ。

だからこそ彼女はあの男に想像しえない過酷な戦いを経験してきているだろう事は無意識に予感していた。

だが、この写真が彼女に示した彼の待ったく別の一面が、

今まで感じていたのとは異なる新しい彼に対する好奇心を生み出しはじめていた。


『・・・・・・・!?』

リスキーは写真を裏返して言葉を失う。


―――二〇九七年十二月二十五日、セツナ誕生日にて


二〇九七年?

どういうことだ?

今は二二九九年だ。

この写真は二百年以上も昔のものだというのか!?

リスキーは愕然としてその場にへたりこむ。


写真を頭上に持ち上げてもう一度眺めた。

『だが、確かにそうすれば合点がいく、のか、、、、、』

二百年前―――それは確かにディアスポラ真っ只中の時代。

そして未だこの宇宙に”地球”と呼ばれる星が存在していた時。


リスキーは心を落ち着けるために大きく深呼吸をした。


すると俄かに格納庫を掛けてくる足音が近づいてくるのに気がついた。

「皆ー、お手伝いに来たよー」

その声の主はセキレイだった。


ああ、そうか彼女は修理当番だったな。

リスキーはそんなことずいぶん前から忘れていたのはいうまでも無い。


「お、今日もセキレイはんか。また訓練でやらかしたんやな?

もう整備班に移って来ればええんとちゃうか?

こっちの才能の方があると思うで?」

ロコは悪戯っぽくここにやって来たセキレイを迎えた。

セキレイは恥ずかしそうに笑った。

「じょ、冗談やめてくださいよ。

あたし機械とかややこしいの苦手なんですから。」

そういいながら彼女はあるものを見つけ、目を輝かせそれに近づいた。


「あ、これがさっきの!うわぁ、、、、近くで見るとすごい壊れっぷり。」

セキレイはぐるりと周囲を見回すとコックピットへあがる梯子を見つけ上ってみようかという好奇心に導かれて上のほうを見た。

するとそこにはすでにこちらを見下ろしている見慣れた顔が一つ。


「遅かったじゃないか。

お前はあっちだろ?」

そういうとリスキーは少し離れた場所に安置してあるヒスイ機とセキレイ機を指差した。

「あ、あははは、、、、いや、ちょっと久々に組み手で盛り上がっちゃって。」

そういうとセキレイは舌を出して罰の悪い顔をしてみせる。

「ほぅ、珍しいな。いつも相手がいないって嘆いたのに。

私以外にお前の相手ができる奴がこの艦にいるとはしらなかったな。」

そういうとリスキーはさっきの写真をひそかに胸ポケットにしまいこんでコックピットから飛び降りた。


するとリスキーの質問にうれしそうに答えた。

「この機体のパイロット―――イクマさんってゆうんですけど、参っちゃいましたよ。

結局あたしが勝ったみたいな感じだったけど、全然。

完全に遊ばれてたって感じでしたよ。」

セキレイはそういいながらイクマの機体をチラチラと観察した。

残念ながら損傷がひどすぎて機章の類は見つからなかった。


リスキーはセキレイの言葉を聴いてはっとした。

「あの男、目を覚ましたのかっ?!」

驚いた。

あれだけぼろぼろの状態で意識を失っていたのにもう自分で歩きまわれるほどに回復したというのか。

それにどうやらこの格闘少女の組み手の相手をこなしたようだし。


セキレイは急に喚声にもにた声を上げたリスキーにビクッと面食らっているのが伺える。

「え、えぇ、まぁ。

怪我してるみたいだったけど、基本的には大丈夫そうでしたよ?」

基本的には、セキレイはその言葉を加えることを忘れなかった。

そうだ、確かに多分怪我のことはもう心配ない。

だが彼の問題の核心はそこじゃない気がする。


リスキーは逡巡した。

が、其れもつかの間、気付けばすでに自分は早歩きにその場を去ろうとしていた。

『そうだ、今は彼に問いたださねばならぬ。

彼が過去の―――ディアスポラ期の人間に間違いないのかどうか。

そして、何故、どうやってそんなことを可能にしたのか。』

そしてある考えにいたる。


セキレイはいつに無く険しいリスキーの表情をすれ違いざまに見ていた。

「た、隊長?」

すでに完全に蚊帳の外状態だったロコも其れに続く。

「何や?一人で勝手に機体調べたかと思えば、今度は急に。」


リスキーは思った。

『さっきは協力してくれた。

其れは間違いないが、あの状況はフロウを排除せねばならないという特殊な状況だった。

だが、仮に奴が当時の人間だったとして、私たちユリイカのことをどう見ているだろうか?

”彼の時代”では私たちユリイカは戦争相手、敵に他ならない。

もしかしたらその”イクマ”という男は自分の目でこの時代が未来の世界であることを突き止めているかもしれない。

だが、ついさっきまで戦争の真っ只中にいた人間がそう簡単”はい、そうです”とその敵愾心を打ち消せるだろうか?』

危険だ。

確実とはいえないものの危険に違いない。


いずれにせよ今すぐ彼をリスキーは見つける必要がある。

セキレイは無事だったみたいだが、いつ過去の感情の矛先が未来に生きるわれわれに向けられるかわからない。

ましてや、あの男はリスキーのしる最も”強かな”戦士だ。

「セキレイっ!今あいつ、、、、イクマという男はどこにいる!?」

リスキーは思わず語調を強めセキレイにたずねた。


セキレイはきょとんとした表情で彼女の急な変貌にうろたえながらもそれに答える。

「え?えと、さっきは言ったとおり訓練室にいましたけど、でももう10分位前だし。

もう違うところ行ったかも。」

十分。

それだけの時間ならこの艦内の構造をしらないイクマはそうは遠くには移動してはいない。

『今すぐ彼を拘束しなくては。

いやその必要があるのかどうかもわからないが、とにかく最優先だ。

最悪の場合何をしでかすかわからん。』


そうだ、彼は生粋の戦士。

時代も状況も違う場所にいても、果たして敵として認識していた勢力の真っ只中にい続けたいと思うだろうか?

恐らく何かしらの方法で脱出しようと考えるのではないだろうか。

この状況で最も簡単なのは、人質を取りこの格納庫にあるアンファンという移動手段を奪うこと。


するとセキレイが思い出したようにさっきの出来事を付け加えた。

「そういえば、ヒスイがあの人探してたね。なんか妙にやつれてたけど。」


リスキーに悪寒が走る。

「なん、だと?」


彼女は自分が彼を拘束せず医務室で治療を受けさせたことを後悔した。

いやあの状況ではそれどころじゃなかったのだで仕方はない。

ましてやイクマが”そんな”人間だなんて思い知ることができるわけがなかった。


「隊長?もしかして遅れたの怒ってます?」

セキレイは恐る恐る彼女の表情を伺った。

―――ガシッ!

突然セキレイの腕をリスキーが掴んだ。

「行くぞ!ついてきなさい!今すぐあの男を捜すんだ!」

そういうとリスキーは強引にセキレイを引っ張って格納庫出口へと向かった。

「え?えっ!?ええっ!!?」

わけもわからずセキレイは彼女のなすがままに引きづられて後に続く。


格納庫に久方振りの静けさがよみがえった。

「なんやっちゅうねん、、、、、ったく。」

ロコは内心毒づくと再びあの機体に振り返った。


『これがフロウを倒したやって?馬鹿げてるわ、、、』

だがあのリスキーが嘘をつくことはないだろう。

それにロコの専門はあくまでメカニカルな分野に限られる。

衛団の人間ではあるが自分は科学者でしかない。

リスキーにわかって自分にわからないことがあるのは当然の理だ。


『異常なんは、このパイロット?』

自分のこの機体に関する分析は間違ってない。

とすれば、あの男の類まれなる力がフロウを打倒したのだろうか?

だがしかし彼女にしてみればそっちのほうがよほど奇天烈な着想に思える。


「おい、ちょっと手伝ってぇや!」

そういうとロコはこの機体によじ登る。

『まぁわからんことは何でもやってみればええねん。

こいつを治してあの男の操縦するところを見れば一目瞭然。

簡単なことや。』

非常にロコらしい考え方。

そうやって証明されたものであれば自分はどんな結果であろうと”理解”することができる。

「幸い初見のメカでもアンファンよりは修理はずっと楽や。」


ふたたび格納庫での作業が再開された。

あるものはヒスイ機とセキレイ機の補修作業に、

あるものは腹部にぽっかりと風穴の開いたカルテシア機の修復作業に取り掛かる。

そこはすでにいつも見慣れた格納庫の光景だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ