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Diaspora  作者: 吐露ヰ
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廊下にて

セキレイは廊下を歩きながら物思いにふけっていた。


果たして彼の言っていたことは本当なのだろうか。

或いはあのボロボロの機体からもわかるように、とんでもない過酷な戦闘を潜り抜けたせいで精神がまともじゃなかったのかもしれない。

だが、、、、、、、


「あ~~~~っ、もうっ!」

こういうややこしい事を考えるのが自分の性分じゃない!

ただ今わかる事は、彼の拳から伝わってきた切迫した感情は”正真正銘”だったということだ。

それ以前にほとんど実戦経験のないユリイカの衛団の人間にたった一人でフロウを倒す事のできる人間がいるだろうか?

一個師団を率いても追い返すのが精一杯な現状を考えてみれば、イクマの存在は確かにユリイカとはまったく別のどこかに由来しているとも思える。


ダメだ。

考えてもどうせそれらしい答えにたどり着けそうもない。

セキレイは考えるのをあきらめると再び廊下の先へと視線を戻した。


『あれ?あれは、、、、』

廊下の先からふらふらと見慣れた人影がこちらに近づいてくる。

「ヒスイ!どうしたの、なんか妙に疲れてるみたいだけど?」


それは同じシベリウス隊員のヒスイだった。

相変わらずお人形さんみたいなお嬢様お嬢様した女の子で、

セキレイとは似ても似つかない女性だ。

物腰も穏やかで言葉も丁寧。

そんな彼女にセキレイは時折羨望の眼差しをむけることもあるが、

そんなふうに振舞うなんて到底無理な話だという事も自分でよくわかっていた。

彼女は私とは全く違う世界を生きてきたのだから。


「セキレイさん、、、、」

なんて力のない顔をしているのだろう。

それどころか目は赤くはれぼったい。

つい今しがた迄その場所が涙でぬれていたことをありありと示している。

「ちょ、ちょっと、本当に何があった?まさかシアになにかあったの!?」

セキレイは医務室にヒスイがこもりっきりだったのを知っていたため、

てっきり彼女に何かあったんじゃないかと急に心配になった。


セキレイはヒスイとは違い、あの時正気を保っていたため、

カルテシアの救護を少し手伝っており、そのときに彼女の腹部から流れていた大量の出血を目の当たりにしていたのだ。


だが、ヒスイはゆっくりとかぶりを振ると、痛々しい笑顔を浮かべてセキレイに答えた。

「心配なさらないで、何でもありません。

それよりこっちに、、、、その、、、、病棟服を着た男性がいらっしゃいませんでしたか?」


なるほど。

彼女はあのイクマという男を捜してここに来たのか。

という事は、この憔悴し切った彼女の有様は彼の仕業なのだろうか?

「ええ、さっき訓練室であったわよ。っていうか、それあの人に何かされたの?」


よく見るとヒスイの首筋がほんのり赤く染まっているように見受けられる。

ヒスイはセキレイの視線に気付きサッと首筋を襟で隠した。

「い、いえ、大丈夫です。

ただ、まだ安静にしていないといけないのに、

病室を抜け出されたモノですから、、、、、、

その、心配になって、、、、」


ヒスイは嘘を言っているつもりはなかった。

彼が心配だというのは本当だ。

ただ何かされたかという質問に対してありのままを今ここでいってしまってよいものかどうかは疑問であった。

確かに罵倒され、一瞬ではあるが拘束されたのは事実。

だが、ヒスイはそれが彼の自分に対する敵意や悪意から生まれたものではないと思っているからこそ、

こうしてその真相をしろうと彼を探しているのだ。

だからセキレイに今どう話したらいいのかなんてことは判りようがない。

「ありがとうございます。

訓練室ですね。それでは、、、、、」

そういうとヒスイはヨロヨロとセキレイの来た方向へ廊下を歩いていった。


ふとセキレイは引き返してヒスイに事の詳細を詰問しようかと思った。

それはいろいろな理由からだ。

まず第一に今あの男が置かれている状況―――彼は自分が未来の世界に来たという現実をたたきつけられて深く絶望のふちにたたされている。

たとえ、彼のいっているそれができの悪いSFファンタジーチックな話であってもだ。

今の彼は正常に誰かとやり取りできる状況じゃないのは明らかだった。


もう一つの理由にヒスイの性格にまつわる問題―――彼女は意外と頑固者なのだ。

自分にできないことが判明したとき、失敗したとき、誰かに自分のせいではないにもかかわらず迷惑を掛けてしまったような状況、

そういったものに直面したとき、彼女は自分の心を傷つけでも其れを何とかしようと無茶をする、そんな人間だった。

その上、見ての通り身体もセキレイのようにたくましいわけでもなく、

お世辞にも心が”強い”類の人間でもないから、

余計見ていて危なっかしいのである。


『でも、こういう時私の入る余地無いんだよなぁ、、、、』

こういう時にせっついても、彼女は決してこちらに何かを打ち明けるようなことはなさそうだし。

一人で考えて、解決する。

そうしたらいつもどおりセキレイが羨望を向けるヒスイに戻るはず。


セキレイは踵を返すと再び自分が向かっていた方向へと歩みを再開する。


しばらくして彼女はあることを思い出して冷や汗をかき頭を抱えた。

「しまった、、、、さっきの滅茶苦茶な状況ですっかり忘れてたけど、あたし修理当番じゃん。」

そう、先の先頭の直前、彼女はヒスイ機に誤って衝突し傷をつけてしまった。

当然いつもの慣わしどおり、傷をつけた隊員はアンファンの機体修理を手伝わなくてはならない。

フロウの襲撃がうやむやにした感じだが、あのリスキー隊長が見逃してくれるとはとても思えなかった。


セキレイは急ぎ足で格納庫へと向かった。

『そういえば、イクマって人の機体もやっぱり格納庫かしら?』

ふと彼のあのボロボロなアンファンに似た機体の姿を思い返した。


もしかしたらそれを見れば何か彼についてしることができるかもしれない。

セキレイは漠然と彼に興味を抱いていた。

さっきの組み手のときもそうだったが、彼は今まで会ったどんな人間とも違う、

研ぎ澄まされた感覚を感じる。


セキレイの生まれた星では―――彼女の父が惑星移民系であったことから当然彼女はユリイカで生まれたわけではない―――

その星の文化になぞらえてこういうだろう。

<鍛え抜かれたニホントウのようだ>と。

セキレイは心なしかさっきより速いスピードで廊下を小走りに掛けていた。

すでに彼女の頭の中からは自分のさっきの失敗でリスキー隊長に叱責を食らうであろう事はすっぽり忘れ去られていたのはいうまでも無い。

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