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Diaspora  作者: 吐露ヰ
11/11

観世の洞、開く

暗がりでろうそくが照らす光が彼女と彼女の”友”を照らす。

ゆれる灯火に照らされるこの広い空間だけが彼女の世界だった。


だが彼女にとってそれ以外の世界など興味の範疇になかった。

この世界の残滓から生み出されたイミディアならより卓越した知覚力をもってしてこの世界の仔細を感じ取ることができた。

彼女はそれを感じこの”観世の洞”でこの友と共にさえ居ればそれで十分だった。


「パリティはしった。イデアの残滓が異なる門”ツガヒ”を叩いたことを」

少女はつぶやいた。


手元には大事そうに人形を抱えられている。

紫苑はパリティと名づけられた人形と対話するようにいつも独り言のように言葉を発する。

だがその常として彼女は自らの言葉としてしゃべることはない。

彼女の実態はパリティである、そのような認識が彼女をしてそういった言葉遣いをさせている。


「パリティは感じている。”異なる門”のかんなぎが異界のつわものをこの大宙うみに放ったことを」

彼女はとまどった。


このような事態は彼女が生きてきた長いときの中で一度もなかったことである。

かんなぎとは彼女の属する勢力の敵とでもいうべき存在である。

もはや力を失っていたはずのかんなぎがいかにしてそのような策を講じることができたのか、

それは彼女をしてもしることはできない。

ただひとつ言えることといえば、

今このとき彼女はこの観世の洞を出る必要があるということだけだ。



「おや?紫苑か?100年振りくらいだな?当然感じたんだな?」

彼女のふさふさの金髪が翻る。

くれない色にひっそりと輝きをもらす相貌が目の前の少年の姿をまなざす。

「パリティは感じている。」

紫苑はそういうとパリティをぎゅっと抱きしめて答える。


「だろうね。二百年すごしてきてはじめてだよこんなこと。

イデアの残滓”羅刹”がついさっきツガヒの門目指して消えてしまったよ。

一体あっちでは何が起きたんだろうね?」


「パリティは感じた。門のカンナギが異界の者をこちらに使わしたのを

パリティはハロに願う。このことをアンガー・ジュマンに伝えることを」

ハロとは目の前に居る少年の事を指す。


ハロは紫苑と並んでみるとそろいのフランス人形のように愛らしい服装とやはり麗しい金髪をなびかせていた。

彼女と違う点といえば、彼はその両目が紺碧の輝きを放っているという点だろう。


ハロは彼女の言葉を聴き目を見張って聞き返した。

「異界の者だって?よもやかんなぎにそんな力が残っていたとは驚きだね。

一刻も早くアンガー様に伝えなくちゃ。

紫苑はしばらくこっちに出てるんだろ?

どうする?一緒に来るかい?」

ハロは久方ぶりに再開することのできた紫苑と一緒に居ることを望んでいた。

だが彼は自分がした質問が何の意味もないことをしっていた。

紫苑は彼としか話すことを好まない。

他のものと居るときはまるでパリティとともに本当の人形になってしまったかのように沈黙する。


だがそれは当然なのだ。

ハロと紫苑はつがいのディミデア、同じイデアの残滓から生まれた双子のような存在なのだ。


彼女は小さくかぶりを振ると

「パリティは嫌だと思う。久しぶりの外で疲れたと」

と彼に告げた。

「そうか。じゃあ僕は行くよ。しばらくしたらまた君のところへ行くから心配しないでおくれよ」

ハロは立ち去った。


紫苑は独りになり再びこの世界を感じてみる。

「動き、、、、、、異界の者、イデアの残滓は”彼”に惹きつけられ消えてしまった。

カンナギは異界の者にいったい何を望んでいる?」

二百年間僅かな変動しか見せなかった世界に新たなる因子が加わり彼女のしらざる動きが生まれつつある。

彼女”たち”にとってカンナギは敵に他ならない。


だが紫苑自身にとって敵も味方も実際のところ興味はない。

ただこの世界に起こりつつある変動がどのような結果をもたらすものなのか、

それを見つめ続けることこそ彼女の使命であるはずなのである。


紫苑は観世の洞の錠前を閉めると久方ぶりの外の世界へと歩き出す。

元いた部屋と大して変わることのない洞穴のような空間でしかないが、

そこの空気が不思議と彼女の感覚を鋭敏にする気がする。

だがこの自分に宿ったディミデアとしての力は諸刃の刃。

彼女はパリティを抱きしめ心を静めるようにして一歩一歩静かに踏みしめるようにその場を立ち去った。




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