9人のバカども
「おい、磯野。野球しようぜ!」
そう言って牽制球にも至らぬ単なる暴投を投げて来たのは、
御年78になる中島正平である。
彼は清掃員の仕事を3度、再雇用制度で何とか繋ぎ止めたものの、
どうしてもやりたい事があるとの事で昨年に退職した。
「ん、野球?そう言えば世間はそんな名前のスポーツで湧いてるな。」
磯野凪兵、御年82歳。中島の4つも年上であるにも関わらず、
彼はナメられていた。それもそのはず、彼はこれまでずっと
男の娘風俗の専属サンドイッチマンをしていた。
毎日貰えるわずかな給金で買うのはサンドイッチ。
彼の日常はサンドイッチに塗れていた。
(サンドウィッチマンのコントは見た事が無かった)
「野球って、9人でやるものらしい。あと7人、集められるか?」
中島のフリは非常に苦しいものであった。
二人はそれぞれにあまり社交的な性格では無い。
唯一とも言えた野火は7年前に鬼籍に入られた。
もう二人には、残された道はそう多くなかった。
「やるしかないか、アレを。」
二人はペットショップでの強盗を試みた。
「おい、ペットを出せ!さもなくばありったけのフードを頂くぞ。」
店員はおそるおそる、ハムスターを一匹差し出した。
「よし、コイツを部員にするか!」
しかし、そこで磯野が気付く。
「このハムスターじゃダメだ・・・。中島、気付かないか?
確かに一見するとこのハムスターでも十分に野球が出来そうだ。
でもさ、そもそも野球って成人がやるものじゃないか?」
ハムスターの寿命は平均2年程度だ。
つまりは、良くて2歳といった所である。
「じゃあ無理か、チェッ。」
そう言うと彼らはハムスターを近所の公園で野放しにした。
すぐにタカとトンビがやって来てハムスターは攫われてしまう。
「結局、こうやっていつも振り出しか・・・。」
そんな時、二人が通りかかった公園でガキ大将がいた。
「おい、お前ら。そのフラフラした足取り、もしかして野球をしようとして
メンバー募集(メン募)してる最中か?」
彼は河豚田雷蔵、御年88歳。この町、いや公園を仕切るガキ大将だ。
「あぁ、最も87歳までに絞って募集してるがな。」
「だったら、そんな前例オレが変えてやるよ。
88歳でも投げれるストレートボールがあるって事、
その目ん玉ひん剥いてよく見てやがれ。」
こうして3人が集まったは良いものの、前途多難である。
そんな折に中島が思い付いた。
「碁会所にでも行けば、一気に3つ子とかに会って
メンバー水増し出来るんじゃね?」
彼らは善は急げと、プライベートジェット飛行機をチャーターして、
四国へと飛んだ。
「えぇと、確かこの辺りに…あった!!」
それは町の片隅の使われなくなったガシャポンコーナーを
無理矢理改造して作られた碁会所だった。
中ではジャラジャラと牌を混ぜる音とタバコの匂いが充満している。
「おぅ、いらっしゃい。」
強面のスキンヘッドにグラサン、頬の傷、更には口元にチュッパチャプス。
彼こそがこの雀荘のオーナー、些家楓。御年72歳である。
「野球メンバー探してるんだろ?噂で知ってるよ。
どれ、まずはオレが入ってやるよ。
あと、あそこでイカサマ麻雀してる3つ子、アイツらはどうだい?」
見るとそこには、一枚の毛布を奪い合いながら裸で震えている3つ子。
彼らこそが、この碁会所を騙った裏賭博雀荘『クソ政所』の常連、
初心者潰しの華沢組だった。
「おぅ、ここらじゃ見ない顔だな。」
長男の華沢牡丹、御年65歳。
「へぇ、オレ達に用事があるって?」
次男の薔薇華、御年65歳。兄より3秒後に生まれた。
「ま、オレ達と麻雀勝負をして勝てたら考えてやるよ。」
三男かつ末っ子のひまわり、御年65歳。兄達より随分遅れて、
半年後に生まれた。まだまだ甘えん坊のベビーフェイスだ。
「よし、オレが行こう。」
河豚田が腕まくりをして、手には虫網を持って挑む。
「お前、麻雀なんて出来るのか?」
「知ってるさ。要するに振り込めば良いんだろ?
まぁ、なるようになるさ。」
そして3人に挑んだは良いものの、雀卓から洗牌の際に牌を落とし、
いや、落としまくった事によりあえなく落選してしまう。
「お前じゃあ、ダメだ。オレ達をメンバーに向かえる事は出来ねぇよ。
でもま、ブービー賞だ。野球チームに入ってやるよ。」
こうして、メンバーは一気に7人に増えた。
もうこのまま野球出来るんじゃないか、そう思った。
そこへ警察が通りかかった。
「三河谷です…ありゃ、アンタらまさか、野球チームを集めてるのかい?」
三河谷春蔵。彼は、御年62歳の新人警察官。
特に仕事も無いので、ブラブラと町を警備している。
警察官は7人の雰囲気から察した。
そして、中島が正直に事実を伝えた。
「えぇ、今朝の朝食の魚の骨が喉に引っかかったままで…。
どなたか、良いお医者様はおられませんか?」
「それなら、行きつけの風俗店に良い医者がいるよ。
今から行こうか!」
そして8人が向かったのは都内某所にある熟女専門店『真理の扉』。
そこの待合室にいた三河谷の知り合いの医師を確保した。
医師の名は穴子勃蔵、御年55歳の最年少。
「3時32分、確保。ハイ、署までご同行願います。」
そうして、近隣の交番へと医師を連行した。しかしその交番は三河谷の担当地域では無く、別の警官がいた。
三河谷は賄賂を渡してその警官を無理矢理帰らせてしまい、
こうして交番の中に9人のメンバーが揃った。
「ありゃま、あっという間に揃っちまったな…。
ところで、誰か野球のやり方を知らないか?」
シーン・・・。
誰も野球など知るはずも無かった。
「とりあえず、せっかく9人いるんだし、2チームに分けるか。」
「でもそれだと4対5になって片方が不利だぜ?」
「それもそっかぁ、じゃあ一人は監督兼ジャーマネで!」
「あ、じゃあアタシそれやりたい~」
こうして、4対4の野球の試合が行われる事となった。
河川敷の広いグランドを借りて(無理矢理恐喝して奪い取り)
ついに、初マウンドとなった。
「えーっと、ボールはこのバレーボールで良いんだよな?
あとバット・・・は、股間のバットで良いか。
あれ?これをどうやって打つんだ?」
外野からは「サッサとしろ」とブーイングが飛び交う。
「あ、あぁ、すまんな。なんせ初めてなものでね。」
それじゃあ、魔法でこの球を浮かせて、と。
よーし、股間のバットは固さ十分。それじゃあ、打つぞ。
━カキィーン!!━
バットは金属製の小気味良い音を鳴らして、ボールは空高く舞った。
彼らの青春はまだ始まったばかりだ。
今後、数多くのライバルチーム達が徐々に散って行くのだが、
それはまた別のお話。それでは、またね。




