赤の雫のモノクローム
掲載日:2026/05/24
あの交通事故の日から、俺の世界は色というものを失ってしまった。
以前はあれだけあざやかに見えた街も、今となっては大昔の映画のように現実感がない。
今日は出かける必要があるが、もう運転もできなくなってしまった。
なるべく信号のない道を選びながら、ゆっくりと歩いてゆくことにする。
途中、目についた花屋に寄る。
「よければお選びしましょうか。お好きな色などございますか?」
目も合わせずにただ任せますとだけ言った俺の様子を見てなにか察したのか、店員は手早く花束を作ってくれた。
礼を言って店を出ると、いつの間にか空を厚い雲が覆っていた。
歩くこと二十分ほど、目的の場所にたどり着く。
あの日、この場所で事故があった。
小学校の通学路に近い交差点。
信号を無視して飛び出してきた子供を、俺は――。
手に持った花を手向け、両手を合わせる。
じっと目を閉じると、嫌でもあの日の記憶が浮かんでくる。
俺はこの先一生あの光景を忘れることはないだろう。
黄色の通学帽、青いランドセル、そしてひときわ鮮烈な赤。
そう、丁度目の前にある色とりどりの花のような、あの日の光景を。




