2 確保
日は上り太陽が眩しさを増す中、アハトとフィーアは走り抜けていく。レンガの町並みが凄まじい速さで過ぎ去る。だが獣人の泥棒とアハトたちの距離は離れるばかりだった。かろうじてボロマントの薄汚れた黒と隙間から見える、獣の尻尾が遠目から分かる程度だ。
『勢いよく啖呵を切ったのは良いが、作戦はあるのか?あの獣人、明らかに俺たちより早いぞ』
「アハトの氷でどうにか出来ねぇか?足を凍らせたりして」
『流石に街中で魔法の連発は出来ないな。距離もある、なにより通行人に当てないとも言いきれない』
人通りも多くなってきている。万が一、通行人に怪我させてしまえば試験を受けるどころの話ではなくなり、泥棒だけでなくアハトまで縄につく事になるだろう。
「くそっ、お前の魔法、無駄に威力高ぇもんな!羨ましい」
『ありがとう』
「褒めてねぇよ、くそが!」
人より魔力が少ない獣人は、高威力の魔法を使えない。それはフィーアも例外ではなかった。とはいえフィーアの魔力は決して低い訳ではない。ただ幼い頃から、魔力ネタでアハトから弄られ続けていたフィーアにとって、それは禁句だ。フィーアはギロッとアハトを睨んだ。それに気にした様子もなく、アハトは前だけを見てる。
『それで、本当にどうする。おそらく、試験まで一刻もないぞ』
「わかってる。だから俺の魔法で先回りする、本当は試験まで温存しておきたかったけどしょうがねぇ」
フィーアの体が灰色の魔力に覆われると、ただでさえ凄まじい速さだったのにフィーアの速さは更に上がる。その速さはまさに、光。アハトもこれにはついていけず、あっという間に泥棒を追い越し、進行先を遮った。
「なっ!?」
「お、チーターの獣人か。どうりで速いわけだ」
追い越された泥棒は、驚きの声をあげ止まる。後ろからではなく、前から泥棒の顔を見たことで、フードで隠れたチーター柄の獣耳が見えた。それでようやく、泥棒をした男の種族が判明した。
「くっ」
『どこに行くつもりだ、悪党』
進む方向を変えようとフィーアが横道に体を向ける前に、アハトが追い付き泥棒の首に手刀を落とす。気絶した泥棒は地面に倒れ同時に地面に女ものカバンが転がった。
『縛れるものあるか?』
「ねぇよ、このまま寝てるコイツを軍人に引き渡すしかない。それにこのカバンも、持ち主に返そう」
『それしかないか。ところでフィーア、お前魔法使って良かったのか?お前1日に三回しか魔法使えねぇだろ』
「うっせ。ハンデだよ、ハンデ」
『試験で自らハンデをつけるのはお前くらいだ』
《魔法》この世界の一部を除いて扱える、一般的な技術。魔法は1人1属性のみ扱える。種類は光、無、闇、火、風、雷、水の7つ。だが光魔法を使えるのは伝説の人物や回復術士のみ、闇の魔法を使えるのも悪魔のみで実際基本は5つのみ。
火属性は、火を生み操る力。それは雷、水、風、光、闇も同様。唯一、無属性だけはその範疇ではない。他の6つに当てはまらない魔法。重力を操ったり、空を操ったり、身体能力を上げたりと他の属性では不可能なことを可能にする属性で、未だに解明されていない。
アハトの属性は風。フィーアの属性は無属性。先ほどフィーアが使ったのは[身体強化]だ。文字通り身体の強化を行い、足の力と速さを上げた。
「別にオレだって好きでハンデを負った訳じゃー「町の方から通報を受けてきた軍人だ。少しいいか」」
声に被せるように聞こえた男の声に振り返ると、紺色の軍帽と軍服を身に纏った男がいた。紺色の軍服はグランツ帝国の軍人である証の一つだ。この国では珍しい茶髪に翡翠のタレ目が印象的だ。軍人の男は、地面に倒れる男を見下ろした。
「泥棒というのは、この男か?気絶してるようだが」
『そうです。逃亡されそうになったので気絶させました』
「そうか。協力感謝する。詳しい事情を聞きたい、場所を変えー「すみません、軍人さん。俺たちこれから試験があって、すぐ向かわないとなんす!試験が終わったら、すぐ向かうんで!」は?おい!」
フィーアはアハトの腕を掴むと、走り始めた。
『良かったのか?下手したら、試験に合格しても監置場に連れていかれるかもしれないぞ』
「人助けしたのに捕まるって理不尽すぎだろ!話したらきっと分かってくれるって」
『…ホント、甘い男だ』
「褒めるなって」
『褒めてない、貶してるんだ』
「お前の言葉、やすりがけしたナイフなの??鋭利すぎだろ」




