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1 移民

 グランツ帝国。獣人と人間、妖精などあらゆる種族が共存する国。他国と比べ人口密度が高い。というのも、他国からの移民が多いからである。迫害、貧困、亡命などを理由にこの国にやってくる。


グランツ帝国は他の大国と比べ、移住許可の条件が低いからだ。条件は、過去に罪歴が無いこと、それのみ。お陰で、今や希少種となった森で暮らす長命なエルフやプライドが高く人前に滅多に姿を見せない吸血鬼、亡命の王子が住んでいるという噂がある程だ。


無論、移民許可の条件が低いことには理由がある。移民した者は、何らかの職に就いて国に貢献しなければならない。例に上げると、食物を育て収穫した二割を毎年国に献上するとか、建築や制作の知識を付け国に貢献するだとか。方法は様々。


 ゆえに移民である彼…アハトが国のため、軍人になる試験を受けることもまた、当然。


『…』


 彼は私服姿で、まだ夜が明けたばかりの町を歩いていた。白いワイシャツに黒の上着、黒のズボンと動きやすい格好だ。朝早かったこともあり、アハトは欠神しつつも、まっすぐ進んでいた。


「アハトォォ!!!!」


 背後から聞こえたバリトンボイス。同時に響く、凄まじい速さで駆け寄ってくる足音。それにアハトは振り返る…ことはなく、そのまま半歩横にずれた。その動作に迷いはなく、表情も無から動かない。


「え、ちょ…!?ぐふっ!」


 飛び付くつもりで駆け込んできたであろう男は、進行前にアハトが居なくなったことで走ってきた勢いを止められず、激しい音をたてて転んだ。アハトはそれを無視し彼の隣を通りすぎる。


「イテテ…待ってってば!」


 地面から起き上がった男は、今度はスピードを落とし彼の隣に並んだ。派手に地面とぶつけた自身の額を撫でながら。


『朝っぱらから騒がしい男だ』


「お前が避けなきゃ、こんな騒がしくなかったっての!」


『今でも十分騒がしい。口を閉じたらどうだ』


「お前、オレのこと嫌い??」


『そんなことより、寝癖付けたまま試験に挑むつもりか?フィーア』


「え、どこ?」


 フィーアと呼ばれた男は、自身の金髪の髪を抑え跳ねた所を直そうと格闘する。この男はアハトの幼馴染みで、共にフェルカーモルト国家よりグランツ帝国に移民した経歴を持つ。


「ぎゃ…!」


 髪を直そうとして、自分の獣耳を触ってしまったらしく悲鳴を上げる。爪が長いから、引っ掻いてしまったんだろう。彼は人以上の速さと力を持つ、獣人種の虎人族だ。獣人の爪は人より早く鋭く伸びる。アハトはため息をつき、フィーアの腕を掴む。


『こっちに来い』


「うぅ、わりぃ」


 アハトはフィーアを連れ道の端に寄ると、フィーアの寝癖を直し始める。


『なんで寝癖を治さずに着たんだよ』


「それは、アハトがオレを置いて先に行くからだぞ。起こしてくれてもよくない?」


『俺は何度も声をかけたぞ。お前が寝坊したんだ』


「え?」


 その言葉にフィーアは目を見開くと、悩ましげに腕を組む。


「俺、そろそろ目覚まし時計買った方がいいと思う?」


『逆に、お前はいつまで俺を目覚まし代わりにするつもりだ?来年で成人だぞ?いい加減に買っておけ、と何度も言ってるだろう』


「俺貧乏だし、アハトが起こしてくれるならそれで良いかなぁって思ってて…あはは」


『金輪際、お前を起こさないようにする』


「ごめんって!!」


 そう会話しつつも、アハトはフィーアの寝癖を直し終えた。アハトとフィーアは試験会場への移動を再開する。その時


女性「ドロボー!!!誰か捕まえて!!!!」


 甲高い声をバックにして、ボロマントを着た獣人が、アハトとフィーアの横を通り過ぎていった。


『泥棒?珍しいな』


 此処は、グランツ帝国。それも中心にある基地近くの町だ。そこで犯罪をしてしまえば、すぐに軍人がやって来てお縄につかれるのがオチだというのに。それほど飢えていたのか、はたまた…とアハトが思考するなか、フィーアは走り出した。


『!おい』


 走り出したフィーアをアハトも追う。だが、フィーアとの距離は縮まらない。フィーアは虎人、生き物の中でトップクラスの速さを持つ一族の一つ。そのスピードに離されることなく、ついていくアハトの方が褒められたものだ。


『何をしている。試験に間に合わなくなるぞ』


 試験開始は、教会にある鐘が三度(日本でいう約9時)鳴った時だ。既に二度の鐘(約6時)が終わり、暫く経過している。試験までの時間は少ない。


「だからって放っておけないだろ!オレは泥棒を追いかけるから、アハトは先に試験に向かってくれ!すぐ追い付く!!」


『チッ…』


 更にスピードを早めるフィーア。アハトは舌打ちをして同じくスピードを上げると、フィーアの隣に並んだ。普通の人間のアハトが足の早い虎人のフィーアに。それは普通の人間なら、あり得ないことだった。


『さっさと終わらせるぞ』


「!そうこなくっちゃ」


 アハトのその発言に、アハトは一瞬驚いた顔をしたが嬉しそうに笑った。

閲覧ありがとうございました。

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