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第19話 律量って何だよ



「ま、とにかく実演っしょ⭐︎ ユウっち、訓練場ついてきな!」


そう言うなり、ギャルエルフ講師ことリリムはオレの手首をガシィッと掴み、そのままズルズルと廊下へ引きずり出した。いや、待て、オレまだゾンビだぞ? 魂の残量ゲージが赤く点滅してるのに、そのまま戦場直行は危険すぎんだろ!?


「ちょっ、おい! マジで歩けないんだけど!」

「ダイジョーブダイジョーブ☆ ゾンビでもイケるって! つか訓練場までは体力いらんし?」

「いらんし? って軽く言ったな!」


そんな掛け合いをしつつ廊下を進む。

……で、ふと気付く。リリムの服装。


黒を基調にした動きやすい訓練服なんだけど、え、これ絶対わざとでしょ?ってくらい露出多め。へそチラ、背中オープン、太ももスパーン。スタイル抜群、脚長すぎて現実感がない。しかもその褐色肌と金髪のコントラストが眩しすぎて、目が痛ぇ。


「……おい、ダークエルフって、みんなそんなセクシー路線なのか?」

「ん? なに〜? アタシのファッション気になるわけぇ?」

「いや……気になるっちゃ気になるけど!」

「ウケる☆ ユウっち、目が泳いでんじゃん!」


くっ……脳内に「倫理委員会」設置! 赤ランプ点滅!

“視線を前に戻してください、戻せユウキ!”

でも無理なんだ、だって前歩いてるのがこの女なんだから!


――と、内心で戦ってるうちに、広い訓練場へ到着。天井は高く、開放感のある石造りのドーム型空間。中央には模擬戦用のアリーナが設置されていて、周囲には観覧席。あ、これ絶対「やられる側」が恥かくやつだ。


「さーて、実演タイム! アタシのリツ、ガン見しときな〜☆」


そう言ってリリムは、軽く腰に手を当てて、キリッと構えた。……あれ? いつものギャルテンションじゃない。なんだこの凛とした空気。急にオーラが違うんだが?


「……あのさ」

「ん?」

「アリシアと、どういう関係なんだ?」


つい口にしてしまった。気になっていたのだ。

だって、アリシアの弟子って自分で言ってたけど、あのギャル全開モードからは想像できなかったんだ。


リリムは、一瞬だけ口元の笑みを引っ込めた。

そして真面目な眼差しで、遠くを見つめながら答える。


「アリシア様はね、アタシの命の恩人なんだ」


その声色は、いつもの軽さが消えていた。

ギャル特有の伸びたイントネーションもなく、まっすぐに、静かに響く。


「アタシさ、昔ちょっと……マジで終わってたんだよね。自分でもどうしようもなくてさ。そんな時、アリシア様に拾われた。『お前にはまだ物語が残ってる』って」


物語。

律の説明の時に言ってた言葉が、ここで繋がる。

いや、実際にどことどこが繋がったのかは自分でもよくわからないが。


「だからアリシア様は、アタシにとってただの師匠じゃない。生きてる意味をくれた人。だから……軽いノリに見えるかもだけど、裏切んないし、ずっと信じてんの」


……マジか。

いや、正直、リリムのキャラのせいで「ノリで生きてるギャルエルフ」みたいに思ってたけど……その瞳は冗談ひとつなく、芯が通ってた。


でも、その余韻も束の間。


「――って、真面目に語っちゃった☆ やっべ、キャラブレるじゃん!」

「いや、ブレてもいいだろ! 今の普通にカッコよかったから!」

「え〜? マジ照れるぅ〜! じゃ、とりま実演するっしょ!」


再びギャルモードに戻ったリリムは、ひらりと髪を揺らしながら訓練場中央へ。

ボヨンボヨンと訓練場に似つかわしくない巨大な胸を揺らしながら、モデル顔負けの美しい足をスッと伸ばした。

オレは……いや、オレの脳内倫理委員会は、再び警告を鳴らし始めた。


――この女、マジで危険だ(色んな意味で)。




「よし、それじゃ基本のキから行くっしょ⭐︎」


訓練場のど真ん中。両手を腰に当ててどや顔をしているのは、もちろんギャルエルフ講師リリムさん。

はいはい、先生モードっすか。ギャルが教師とか、もう矛盾の権化みたいなワードなんだが。


「始める前に確認なんだけど、律量リツリョーって今まで聞いたことある?」

「……いや、さっきも言ったけど初耳です。ラーメン屋の新メニューですか?」

「は? ラーメン? ちょーウケる☆」


ケラケラ笑うな! こっちは真面目に聞いてんだぞ!?


「律量ってのはさー、要はアンタの“エネルギータンク”みたいなもんよ。誰でも持ってるんだわ」

「……え、でもさっき”燃料タンクじゃない“って言ってなかったか…?」

「ウチそんなこと言ったっけ??」

「…うん。“オマエ自身の物語“が動力源って…」

「解釈は人それぞれ〜。ようするに、それ無いと生きてけないってやつ〜☆」

「ええっと……」


燃料タンクでも解釈は合ってる…ってことだよな?

イマイチ言ってることが頭に入ってこないが、ギリギリ会話はできてる気はする…

…ってか待てよ? そんな便利なタンク、オレ一度も感じたことないんだけど? 腹が減ったら飯食うし、眠かったら寝るし、それで足りてたぞ。


「その”タンク“ってやつは、…どこにあんの?」

「ん〜、説明むずいけどさ。心臓とか胃袋みたいに物理的な臓器じゃないの。もっと“存在のリズム”って感じ?」

「リズム?」

「そうそう。ユウっちが呼吸してんのと同じで、存在そのものが奏でてるリズム。そこにエネルギーがたまってんの」

「……余計にわからん!」


リズムって何だよ! ドラムセットでも内蔵してんのかオレ!?

混乱するオレを見て、リリムは「あー、やっぱイメージ弱いな〜」と頭を掻いた。


「じゃ、目に見せたほうが早いっしょ」

そう言うと、リリムは手を前に突き出した。


すると、空気が微かに震えた。

……え、ちょっと待て。手のひらの周囲がゆらゆら揺れてる。熱気? 蜃気楼みたいな歪み?


「これが、アタシの律量ね。ま、今は超サラッと漏らしてるだけだけど」

「……おお……」


何だこれ、見えてるぞ。透明な揺らぎ、まるで空気が光ってるみたいな……。


「ほら、触ってみ?」

「え、いいの?」

「いいから☆」


恐る恐る手を伸ばす。……すると。


「うおっ!? ビリッとした!」

「でしょー? それが律圧。存在感の濃さ、みたいなもん」

「なるほど、確かに“いる!”って感じがしたわ」

「そゆこと☆」


なるほどな……いや、でも。


「いやでもオレ、そんなの出せる気しないぞ。今まで一度も体感したことないし」

「大丈夫大丈夫〜。最初はみんな“はぁ?”ってなるから☆」

「軽いな!」


リリムはニカッと笑いながら、今度は両手を広げてゆったり呼吸を始めた。


「まずは感じること。ユウっち、目ぇつぶって〜」

「え、目ぇつぶるの?」

「つぶれ☆」

「……はい」


しぶしぶ言われた通りにする。

……暗い。静か。なんかちょっと眠くなる。


「ほいで〜、自分の中で“鼓動”感じて。トクン、トクンって」

「……うん」

「それがリズム。そっから外に広がる感覚を探すんよ」

「……広がる、感覚……?」


……探すんよって簡単に言うな! オレには何も見えんし感じんぞ!

ただただ自分の心臓がドクドクしてるだけだ。


「……何もねぇな」

「ま、最初はそんなもんっしょ☆ 気にすんな!」

「気にするだろ普通!」


リリムはまたケラケラ笑いながら、今度は両手に青白い光を灯した。

おおっ!? 蛍光灯みたいな輝きが、手のひらからふわりと漏れてる。


「こんな感じで、上手くなれば光ったり、形作ったりできんの」

「お前……簡単そうにやってるけど、絶対クソ難しいだろ!」

「ま、ユウっちもそのうちできるって〜☆」


そう言われたが……オレの頭の中は「???」のまま。

律量? リズム? エネルギータンク? わからん、わからんが……確かに“ある”のは今ので見せつけられた。

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