黒銀の梟
▼ 悪徳ギルド《黒銀の梟》(こくぎんのふくろう)
《黒銀の梟》(英: Guild of the Black Silver Owl)は、フロム星の港湾都市レスタルムを拠点とする多目的冒険者組織。傭兵業、魔導金融、遺体回収、遺産管理を主業務とし、蘇生保証付き契約サービスを最大の特徴とする。表向きは「生命保護を目的とした民間救命組織」として登録されているが、契約形態や金利体系の独自性から、周辺諸国および一部監視機関から“悪徳ギルド”の通称で呼ばれている。
■ 概要
《黒銀の梟》はダークエルフの大魔術師アリシア・ヴェルネスによって創設された。創立当初は、戦死者や事故死者の遺体回収と私有財産の整理・分配を専門とする「死後管理ギルド」であったが、後に魔導金融と傭兵派遣を統合し、包括的な「生死に関わる全業務」を取り扱う複合組織へと拡張された。
活動範囲はヴェルネス領内および周辺自治都市に限定され、領外への事業展開は政治的衝突を避けるため意図的に制限されている。
■ 主な活動内容
1. 蘇生保証付き冒険者契約
最も特徴的な事業。契約者は高額な入会金を“魂の分割払い”として契約し、《魔力債権》による魔力前借りを受けられる。この契約により、死亡または致命傷を負った場合でも、蘇生魔術や緊急転送が適用される確率が大幅に向上する。
・契約印:契約者の魂に刻まれる魔力担保の紋章。返済完了まで削除不能。
・返済猶予:標準12期(1期=30日)で、延滞は利率加算。
・担保内容:魂の一部を時間凍結保存し、返済後に解放。
2. 遺体回収・遺産整理
死亡者の遺体を回収し、依頼者または契約書に基づき財産を相続人や指定先に分配する。遺体の防腐・魂封印処理も行い、蘇生可能性を最大限維持する。
3. 傭兵・護衛派遣
契約者や自治都市からの依頼に応じ、戦闘能力を有する傭兵団を派遣。特に蘇生保証契約とセットで利用されることが多い。
4. 魔導金融業
戦闘用装備、魔導薬、旅費のための融資を行う。融資条件は《魔力債権》による魂担保を前提とし、返済不能時には契約者の蘇生保証権利を一時停止する措置をとる。
■ サービス体系と収益モデル
・初期入会金:高額(標準で銀貨1,000枚相当)だが、魂担保により分割払いが可能。
・月額保険料:契約期間中は固定の魔力量を支払う形式。
・蘇生時追加費用:実費+危険度係数による加算。
・延滞金:市場金利+魔導保険料換算率(年率換算で最大25%相当)。
この体系により、契約者が生き延びる限り安定収益が確保され、死亡時には蘇生費用による追加利益が発生する構造となっている。
■ 悪徳商売とされる理由
1. 魂担保の心理的負担
契約者は返済完了まで魂の一部をギルドに預けるため、「魂を売った」感覚が強く、恐怖心や依存心を植え付けられる。
2. 情報格差の利用
契約内容は地球式保険数理を基に設計されており、一般市民には計算根拠が理解しづらい。結果として「返済可能か否か」の判断を誤る契約者も多い。
3. 蘇生後の再契約誘導
一度蘇生された契約者は再び死亡リスクを恐れ、同条件での再契約を望む傾向が高く、ギルド側はこれを収益の柱としている。
■ 正当性の根拠
一方で、《黒銀の梟》の契約は違法性が認定された例がなく、魔導監視局による査察でも生命保護機能の有効性が統計的に立証されている。特に以下の点が評価されている:
・魂担保の凍結保存は悪魔や死霊による捕食を防ぐ効果がある。
・蘇生成功率は非契約者比で平均42%向上。
・返済不能者への物理的・魔術的危害は一切加えない。
■ 評価と影響
《黒銀の梟》は冒険者層の生存率向上と地域治安の安定化に寄与する一方、「命を金で担保にする」という倫理的議論を常に呼び起こしてきた。その事業モデルは周辺都市の模倣を生み、魂担保型の蘇生契約は徐々に市場へ浸透しつつある。
▼ 黒銀の梟 — 内部構造と内観
黒銀の梟は、レスタルム旧市街の丘の中腹に構える四階建ての石造建築で、灰色の切石を積み上げた外壁と、銀色の梟の看板が象徴的なギルド本部である。外見は城館のように堅牢だが、内部は実用性と芸術性を兼ね備えた造りとなっている。
■ 1階 — 受付・業務処理区画
重厚な両開き扉をくぐると、すぐに高い天井のホールが広がる。
床は磨き込まれた黒大理石で、壁には各種依頼の掲示板が並び、冒険者や傭兵たちが群がっている。天井から吊るされた大きなシャンデリアは鍛鉄製で、銀色の羽飾りが揺れ、光を反射してまるで梟の羽ばたきのように見える。
正面奥にはカウンターがあり、常に4〜5名の受付係が依頼の受理や報酬の支払い、契約手続きに忙しくしている。カウンター裏には巨大な書類棚が並び、依頼記録や契約書が日付順に保管されている。
右奥の扉からは「契約室」へと通じており、ここで《魔力債権》契約や蘇生保証の説明が行われる。契約室は防音と結界処理が施され、魔力反応の記録装置が設置されている。
左側には小さな休憩スペースがあり、来客用のソファと香草茶が振る舞われる。港町らしく、窓からは潮風が吹き込み、壁には航海地図や星図が飾られている。
■ 2階 — 作戦会議室・文書管理部
二階は内部階段でのみアクセスでき、一般冒険者は立ち入り禁止。
中央には長い楕円形の会議卓が置かれ、壁一面が黒板と地図で覆われている。ここでは遠征作戦の策定や、ギルド員の派遣計画が立てられる。
部屋の端には通信魔道具が設置され、港湾や他都市の支部と即時連絡が可能だ。
文書管理部は隣接しており、専任の書記官たちが古い依頼記録、討伐報告書、財務台帳を保管・整理する。書類は羊皮紙や魔力耐性紙に記され、耐湿結界の棚に収納されている。
■ 3階 — 研究室・医療室
この階はアリシアの専門領域ともいえる魔導研究施設だ。
死霊術や魂保全の実験室があり、魔力計測器、魂波長分析機、符術の刻印台などが並ぶ。研究室の一部は黒幕で仕切られ、外部の目を避ける形で禁術関連の装置が置かれている。
医療室はギルド医師と回復魔導士が常駐しており、負傷したギルド員や蘇生直後の患者が休養する場所だ。ベッドは白布で整えられ、魔力循環器や治癒ポーションの保管棚がある。
蘇生処置室は医療室の奥にあり、契約によって保全された魂を肉体に再定着させるための儀式用円陣が刻まれている。
■ 4階 — アリシアの私室・執務室
最上階はギルドマスター専用区画で、外部者立ち入りは極めて制限される。
執務室は高い本棚と大きな執務机が中心にあり、机上には契約魔方陣の描かれた黒銀の板が置かれている。窓からは港と丘を一望でき、夜には月明かりが直接差し込む。
私室は豪奢というより機能的だが、ベッドや暖炉、武具ラックなどが整然と配置されている。壁には二人分の小さな肖像画が掛かっており、アリシアがかつて愛した人間との記念品らしい。
▼ 黒銀の梟 — メンバー構成と仕事内容
黒銀の梟は、総勢およそ120名の構成員を抱える中規模ギルドだが、その活動範囲は極めて広い。以下は主な部門と役職である。
1. ギルドマスター
・アリシア・ヴェルネス
・ギルド全体の運営・契約監督・戦略策定を行う。特に《魔力債権》契約に関しては全てアリシアの承認が必要。
2. 幹部(5名)
・各部門の統括責任者。戦術顧問、財務責任者、依頼調整官、諜報主任、研究主任が含まれる。
・幹部会議は週1回開催。
3. 受付・契約部(15名)
・新規依頼の受理、契約説明、報酬支払い、書類管理を担当。
・《魔力債権》の契約印刻もこの部門で行うが、最終承認はアリシア。
4. 冒険部(60名)
・討伐・護衛・探索など、依頼遂行の実働部隊。
・個人の技能に応じて小隊編成され、依頼ごとに柔軟に再編される。
5. 医療・蘇生部(12名)
・回復魔導士、治癒師、蘇生術士で構成。
・《魂保全状態》の解除や肉体再生を専門とし、戦闘出動時には前線救護も担当。
6. 研究・開発部(10名)
・魔導具開発、呪文改良、魂保護技術の研究。
・戦場用魔力供給装置や魂安定化装置の開発実績あり。
7. 諜報・監視部(8名)
・他ギルドや裏社会の動向調査、契約違反者の追跡。
・一部は潜入専門で、変装や幻術に長ける。
この構造により、黒銀の梟は単なる傭兵ギルドに留まらず、経済・医療・研究・諜報を統合した多機能組織として機能している。
アリシアはその全体を掌握しつつも、現場にも頻繁に姿を見せ、部下からは畏怖と敬意を同時に受けている。
▼ 黒銀の梟 — 主要メンバー
1. ラザン・クロウヘルム
・種族/性別:竜族(半竜形態)・男性(壮年)
・役職:戦術顧問兼冒険部長
・異能:《戦場予測》— 敵味方の動きを魔力視覚で先読みし、戦況図を頭に描ける。
・外見:赤銅色の鱗を部分的に持ち、竜角が短く湾曲して生えている。戦闘時は全身に鱗を展開可能。
・性格:寡黙で現場主義、仲間の損耗を何より嫌う。口数は少ないが、戦闘前の指示は驚くほど詳細。
・背景:元竜族軍の副将で、星間戦争時に多くの前線指揮を担った。終戦後、戦死者の魂を守るアリシアの理念に共感して加入。
・口調:短く簡潔。「動け、考えるな。遅れは死だ。」
2. ミリア・フォールフィールド
・種族/性別:獣人(狐族)・女性
・役職:医療・蘇生部長
・異能:《生命糸縫合》— 肉体の裂傷や欠損を魔力糸で編み直し、即時修復可能。
・外見:淡金色の長髪と雪白の狐耳。白衣と軽装鎧を併用し、戦場にも即出動できるスタイル。
・性格:普段はおっとりしているが、治療中は極端に厳しい。患者が暴れると尻尾で強制的に拘束する。
・背景:港町出身の野戦衛生官。戦場で数えきれない死を経験し、魂と肉体を守る技術に魅せられて加入。
・口調:柔らかく語尾を伸ばす。「じっとしてないと、縫い口が開いちゃうよ〜」
3. ジルバ・ドランクス
・種族/性別:ドワーフ・男性
・役職:財務責任者
・異能:《金勘定の眼》— 人や物の市場価値や耐用年数を即座に見抜く。
・外見:赤銅色の髭を三つ編みにし、背丈は低いが肩幅は広い。常に上質な商人服を着ている。
・性格:豪放磊落で酒好きだが、財務管理では鬼のように細かい。
・背景:元は海運ギルドの会計士。アリシアとの賭博勝負で負けた借金を返すため加入、後に正式採用される。
・口調:「金は命より軽い? 救える命を買えるなら、その限りじゃねえな!」
4. リュシアン・ヴェイル
・種族/性別:エルフ(夜目特化亜種)・男性
・役職:諜報・監視部長
・異能:《影潜り(シャドウスリップ)》— 影を媒介に短距離移動や潜伏が可能。
・外見:銀灰色の短髪、緑金色の瞳。軽装黒衣に投擲用の小型武器を多数隠し持つ。
・性格:皮肉屋で情報屋気質。何事も二歩先を読んで動く。
・背景:元盗賊ギルド幹部で、星間戦争時に暗殺任務でアリシアと交戦。命を救われた恩で以後忠誠を誓う。
・口調:「信じるなよ、俺の言葉も、俺以外の誰の言葉も。」
5. カロル・ハインド
・種族/性別:竜族(魔力変質型)・女性
・役職:研究・開発部長
・異能:《符術構築》— 魔方陣や符術を即時構築し、魔力を安定制御できる。
・外見:黒髪ボブカット、灰色の小さな竜角。ローブの袖や裾は常に煤やインクで汚れている。
・性格:研究対象への執着が強く、周囲の時間感覚を無視して没頭する。
・背景:竜族の魔導学院を退職し、自由な研究環境を求めて加入。ギルド内の魔術装備や蘇生装置の開発を一手に担う。
・口調:「話はあと! このルーンが崩れる前に固定しないと!」
6. ノルン&セス(双子)
・種族/性別:獣人(猫族)・姉弟
・役職:受付・契約部 主任補佐
・異能:《共鳴記憶》— 双子間で五感と記憶を即時共有可能。
・外見:金毛と碧眼で瓜二つ。ノルン(姉)は髪を編み上げ、セス(弟)は後ろで束ねている。
・性格:ノルンは几帳面で真面目、セスは軽薄で冗談好き。二人同時に話すと混乱必至。
・背景:孤児院出身で、市場で培った交渉術をアリシアに買われ加入。契約業務と顧客対応を担当。
・口調:ノルン「契約書は丁寧に」、セス「命より軽く書くと危ないぜ?」
7. ヴァルド・グリーフ
・種族/性別:巨人族(半身)・男性
・役職:警備・搬入主任
・異能:《重量無効》— 持ち上げた物体の重量を自在に無効化。
・外見:2メートルを超える巨躯。白灰色の肌と短い黒髪。常に大型の革製エプロンを着用。
・性格:温厚で笑い声が大きいが、怒らせると一瞬で周囲を沈黙させる迫力を持つ。
・背景:港湾の荷揚げ職人だったが、輸送護衛中にギルドを救った縁でスカウトされる。
・口調:「重い? 俺にとっちゃ羽根より軽いさ」
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▼ 虚禍 — 生態と脅威
1. 呼称と起源
・正式名称:虚禍
・俗称:「虚の瘴魔」「喰らう闇」
・由来:古代星間戦争期、外宇宙から侵入した未知の生命体群を総称した呼び名。
・起源は定かではないが、星外生命体の生態パターンにも当てはまらず、“生命”と呼ぶにはあまりに異質。
2. 生態と統合認知核(CK)
・虚禍は個体としての肉体を持たず、統合認知核(Cognitive Kernel/CK)と呼ばれる半結晶状の器官を中枢とする。
・CKはあらゆる物質・生物の構造情報を書き換える能力を持ち、その活動はウィルス的かつ癌的。
・寄生プロセス:
1. 核から発せられる「虚波」が宿主に侵入
2. 細胞や物質分子を改変し、虚禍化
3. 宿主の意識や記憶を侵食、行動制御
4. 最終的に宿主は虚禍本体と融合、核の防衛機構の一部となる
・物質にも寄生可能で、金属や建築物すら生きた武器や巣に変える。
3. 虚禍の亜種分類
・虚禍獣型:生物宿主型。元の生態の面影を残すが、異形化・巨大化する傾向。
・虚禍機構型:物質宿主型。兵器や建造物が自律的に活動。
・虚禍集群型:微小個体が群体を形成し、雲状や波状で襲う。
・虚禍核生型:CKそのものが外殻を持たず剥き出しで活動、極めて危険。
4. 繁殖と拡散
・CKは自己複製可能であり、宿主が死んでも別の物質や生物に即座に寄生。
・真空・水中・極低温・高熱に耐性を持ち、宇宙空間を漂って移動することも可能。
・星間戦争時、人間文明もフロム星の種族もその繁殖速度に翻弄された。
■ 黒銀の梟との関係性
1. アリシアの動機
・アリシアが黒銀の梟を立ち上げた最大の理由は、虚禍を“自分の目で、自由に調査する”ための拠点を確保すること。
・国家機関では虚禍の研究は厳重に制限され、結果は秘匿される。その閉鎖性を嫌い、あえて民間ギルドとして活動。
・星間戦争で出会ったユウキのいた世界も虚禍の侵略を受けたことを知り、その研究は彼の世界の真実に繋がる可能性があった。
2. ユウキとの過去
・フロム星の種族と人間は侵略と防衛という関係にあり、本来は絶対に交わらない立場。
・アリシアとユウキは、戦場の混乱の中で偶然に出会い、互いの能力と意志に惹かれ合い恋に落ちた。
・戦争末期、ユウキは虚禍の中枢防衛戦で命を落とす。
・アリシアはその後も彼を忘れられず、魂波理論とマナ・リースを完成させ、“召喚物”としてユウキを蘇らせる。
3. ギルドの役割
・虚禍の調査・討伐・核回収は黒銀の梟の最重要任務。
・他ギルドが討伐や護衛に特化する中、黒銀の梟はCKの回収・解析まで一貫して行える唯一の組織。
・国家間の政治的圧力を受けにくいため、危険地帯や国境を越えた作戦も実施可能。
4. 社会的需要
・虚禍被害は戦争の代替的脅威となっており、国際条約下でも討伐任務は認可されている。
・各国は直接軍を動かすと外交問題になるため、民間ギルドに委託するケースが増加。
・虚禍のCKは武器素材やエネルギー源にも転用可能だが、取扱いは極めて危険なため、信頼できる組織にしか回収依頼が出せない。
5. アリシアの私的目的と公的使命
・私的目的:ユウキの記憶を取り戻し、彼との“真の再会”を果たすこと
・公的使命:虚禍の完全な根絶、CKの制御・封印方法の確立
・この2つが表裏一体となって、黒銀の梟の活動方針を決定づけている。