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第11話 港湾都市 レスタルム




門をくぐった瞬間、鼻の奥をくすぐる匂いの洪水に襲われた。

魚を焼く香り、潮の香り、香辛料の甘く刺激的な匂い、そして――たぶん港湾区特有の「今日獲れたやつをそのまま置いときました!」っていう生臭さ。

「うわ、匂いがごちゃ混ぜ……でも、なんか腹減る……」

口では文句を言いながらも、胃袋はすでに全力でスタンバイしている。


アリシアは振り返らずに言った。

「寄り道するなよ。まずはあたしの仕事場だ」

「へいへい、わかってますよ隊長」

そう言いつつも、俺の視線は港湾市場のカラフルな屋台へと勝手に吸い寄せられる。

赤や黄色の果物が山積みになり、店主らしき髭の濃いおっさんが異国語で何か叫んでいる。

その横では、銀色に輝く魚を少女が捌き、氷を敷き詰めた桶に並べていく。氷が太陽の光を反射してキラキラ光り、魚の鱗もそれに負けない輝きを放っていた。


石畳の通りは幅こそ広くないが、道の両脇には木造や石造の建物が肩を寄せ合うように並び、頭上には色とりどりの布製の屋根が張られている。

布は潮風でゆらめき、そこから漏れる光が道をまだらに染めていた。

港から旧市街へ続くこの一帯は「商人通り」と呼ばれるらしく、交易船から荷下ろしされた品々が直接店先に並べられるらしい。

そりゃあ、人の数もえげつないわけだ。押すな押すなで、俺はアリシアの背中を見失わないよう必死に追いかける。


「おっと……」

前から来た獣人族の大男とすれ違う。耳と尻尾が立派すぎて、俺の顔に尻尾の先がバサッと当たった。柔らかくてちょっとイラッとする感触。

横を歩くエルフの女性は鮮やかな緑の瞳で俺をチラと見てから、何事もなかったように去っていく。

――なんだこの“人種見本市”みたいな街は。ルメルナもすごかったが、ここはもっと色んな種族が行き交っている気がする。


やがて道は少しずつ傾斜を上がり、石畳が細かい段差を作る。港湾区から旧市街へ入る境目らしい。

建物の壁は白い石灰岩で作られ、窓辺には赤や紫の花が吊るされている。

潮風に混じって、花の香りがふっと漂ってきた。港の喧騒から少し離れただけで、空気が柔らかくなる。

「……なんか、いいな」

そんな感想を呟くと、アリシアが横目でちらっと笑った。

「レスタルムは港だけじゃない。丘まで全部がこの街の顔だ」

彼女はそう言って、さらに前へ進む。


旧市街に入ると、道幅はさらに狭くなり、両脇の家々が迫ってくるようだ。

路地は迷路のように入り組み、石造りのアーチ橋が頭上を横切る。

その橋の上では、子どもたちが手を振って遊んでいた。

遠くで鐘の音が響き、どこかの家の窓からパンを焼く香りが漂ってくる。

……あれ、この街、歩いてるだけで腹減る仕様なの?


そんなこんなで、しばらく歩くと――アリシアが立ち止まった。

「着いたぞ」

目の前には、灰色の切石で造られた堂々たる四階建ての建物があった。

入り口の上には銀色の梟を象った看板が掲げられ、黒い翼を大きく広げている。

彫金細工のように精密なその姿は、昼間なのにどこか威圧感を放っていた。


「……ここが?」

「ああ。あたしの拠点であり、職場だ」

窓は分厚いガラスで、1階には大きな両開きの扉。その奥からは、人の話し声と紙の擦れる音が漏れてくる。

すでに何人かが列を作っており、書類らしきものを持って順番を待っているようだ。

アリシアは慣れた足取りで扉を押し開け、振り返って言った。

「ほら、入るぞ。立ち止まってると、後ろの連中に押される」

「は、はいっ!」


俺は慌てて彼女の背中を追いかけた。



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▼ 港湾都市 レスタルム(Restalum)


レスタルムは、フロム星西方大陸オルディア南東部に位置する独立商業都市。交易港として栄えると同時に、背後に広がる鉱山地帯からの資源輸出でも知られる。中立都市としての立場を保ち、複数国家・種族間の政治的中継地となっている。


アリシア・ヴェルネスのギルド《黒銀の梟》は、この都市の旧市街南部、港湾地区と職人工房街の境界に位置する四階建ての石造建物を本拠地としている。



■ 地理

・位置:南東沿岸の天然良港「蒼湾」に面する。

・地形:沿岸部は平坦で、内陸は丘陵と鉱山地帯。背後には低山帯の「青磁山脈」がそびえる。

・気候:温暖湿潤で冬も雪は少ない。年間を通して交易船の往来が可能。


港は三重の防波堤で囲まれ、戦時にも封鎖されにくい構造。海路で北方のドワーフ諸都市、南方のエルフ自治領、西方の獣人王国と結ばれている。



■ 歴史

・古代期:エルフ商人の寄港地として成立。

・中世期:鉱山資源と海運の結びつきで急成長、商人評議会が自治権を獲得。

・近世期:「光路断絶」後も航路維持に成功し、難民や商人を受け入れ都市規模拡大。

・現代:国際的中継港としての地位を確立し、外資系ギルドや傭兵団も多数拠点を構える。



■ 政治体制

・商人評議会:港湾商人、鉱山主、工房組合、宗教指導者などから選出される20名で構成。

・市長:評議会議長が兼任(任期3年)。

・治安維持:港湾警備団・市警団・傭兵契約制の巡回隊。


評議会は交易中立を最優先方針としており、いかなる国家の軍事駐屯も認めない。これにより、魔導監視局の査察も事前通告制を条件に許可している。



■ 経済


1. 海運業:蒼湾航路を利用した国際交易。

2. 鉱山資源:青磁山脈のミスリル鉱・黒銀鉱。

3. 魔導金融業:蘇生契約・魔力貸付(ギルド単位で提供)。

4. 傭兵・冒険者産業:依頼仲介、護衛業務、遺物回収。



■ 《黒銀の梟》の位置づけ


《黒銀の梟》はレスタルムでも有数の「危険地帯遠征専門ギルド」。特に蘇生保証つき契約を商業化した点で異彩を放つ。

ギルドは港湾地区近くの四階建て本部ビルと、郊外に蘇生専用の魔導工房を保有。

・港湾近接のため、海路を利用して迅速な派遣が可能。

・鉱山労働者からの依頼も多く、地元経済に密着している。

・魔導金融部門を併設し、魔力リースや魂担保契約を専門部署で管理。




▼ レスタルム都市構造(文章による地図案内)


レスタルムは、蒼湾に面した半月型の港湾都市で、海から見れば弧を描く防波堤と白い石造の街並みが目に飛び込む。都市は大きく港湾区・旧市街・新市街・丘陵区の4つに分かれ、それぞれに特徴的な施設が集中している。



1. 港湾区(南東部)

□ 位置:都市の南東、蒼湾の内側に沿って広がる。

□ 特徴:三重防波堤で囲まれた深い天然港。常に交易船と荷役作業で賑わう。

□ 施設:

・南埠頭:大型交易船用の石造桟橋。遠方からのミスリル鉱・香辛料・魔導品がここで荷下ろしされる。

・北埠頭:小型船・漁船・ギルド専用の高速船が利用。

・港湾市場:朝から昼まで海産物や香辛料の露店が立ち並び、異国の言葉が飛び交う。

・港湾警備団詰所:出入港の監視・密輸取締を担当。



2. 旧市街(中央部)

□ 位置:港湾区のすぐ北、蒼湾に向かって緩やかに傾斜した丘の中腹。

□ 特徴:石畳の細い路地とアーチ橋が入り組み、エルフや獣人など多様な種族の家屋が密集。

□ 施設:

・評議会庁舎:白い大理石造りの三階建て。都市の自治を担う商人評議会がここで会合を開く。

・中央広場:噴水と鐘楼があり、市民集会や祭りの中心地。

・旧港門:古代の城壁に残る唯一の門。今は観光名所。



3. 《黒銀の梟》本部(港湾区と旧市街の境界)

□ 位置:港湾区北端と旧市街南端を結ぶ商人通り沿い。

□ 建物:灰色の切石で造られた四階建て。1階は受付と契約室、2階は作戦室と記録庫、3階が宿泊施設、4階にアリシアの私室兼魔導研究室。

□ 特徴:

・港からも評議会庁舎からも徒歩15分以内で到達可能という好立地。

・契約希望者や依頼人がすぐに来られるため、蘇生保証契約の受付が常に混雑している。



4. 新市街(西部)

□ 位置:旧市街の西側、丘陵地帯に向かって拡大した比較的新しい区画。

□ 特徴:広い通りと整然とした建物配置。高級商館や異国商人の邸宅が並ぶ。

□ 施設:

・高等魔導学院:他都市からも留学生が訪れる学術拠点。

・公会堂:商人・職人・傭兵団の大規模集会に使用。



5. 丘陵区(北西部)

□ 位置:都市の背後に広がる青磁山脈の麓。

□ 特徴:鉱山労働者の集落と精錬所が点在。

□ 施設:

・鉱山ギルド本部:ミスリルや黒銀鉱の取引調整。

・蘇生工房(黒銀の梟支部):鉱山事故の即時対応のため、魂保全装置を備える。



■ 位置関係(簡易方位)

・南東:港湾区

・中央:旧市街(評議会庁舎・中央広場)

・境界:港湾区北端〜旧市街南端に《黒銀の梟》本部

・西:新市街(商館・学院)

・北西:丘陵区(鉱山・精錬所・蘇生工房)


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