巻紙と沈黙』 ―三者会議:女優Mの逮捕をめぐる48時間―
Scene 1|“密室”の会議室
湊原(警視庁 管理官)
「まず最初に確認しておきます。
本件――女優M、麻生麗の逮捕について、現場からは“執行可能”との判断が出ています。
小泉さん、改めて状況を。」
小泉(マトリ 捜査官)
「2018年から継続していた内偵捜査、今年3月には巻紙状の“廃棄物”からMDMAの微量成分を検出。
さらに4月にはLSDの残留反応を確認。
5月20日夜、現場張り込みにて本人の使用行為も確認済み。
証拠は、充分に揃っています。私は、“いま動くべき”と考えます。」
本田(芸能事務所 法務部長)
「……弊社としては、社会的影響が甚大すぎるとの懸念があります。
今月末の執行は、経済的にも倫理的にも“過剰反応”を伴うと判断しています。
CM契約は8本、復帰主演ドラマは既に海外配信の調整中。
逮捕が公になれば、全てが飛びます。」
Scene 2|揺れる均衡
小泉(マトリ 捜査官)(目を細めて)
「それはつまり、“見て見ぬふりをしてくれ”と?」
本田(芸能事務所 法務部長)
「違います。問題は“いつ動くか”です。
復帰ドラマが終わった秋以降であれば、世論の圧も穏やかになる。
私たちは“現実の炎上”を見てきています」
湊原(警視庁 管理官)
「芸能界の都合で法律のタイミングは変えられない。
“間違いなく使用している”人物を、さらに放置する理由がない。
麻生麗は、“模倣される存在”です。
あなた方が守っているのは、彼女一人だけではない」
Scene 3|交錯する現実
小泉(マトリ 捜査官)(感情を抑えきれず)
「彼女のInstagramを毎日見て、
“あの口紅”“あの髪型”“あの夜”を真似してる子が何万人もいるんです。
その向こうに、ドラッグがあるなんて、誰も思っていない。
でも、私たちは知っていた。7年間、見てきた。
黙っていたのは、彼女のためじゃない。“命の順番”のためです。」
本田(芸能事務所 法務部長)
「ならば私たちは、黙って死んでくださいとでも?」
湊原(警視庁 管理官)
「黙ってはもらいません。
だからこそ、前日中に“活動自粛”を発表してください。
あなた方にも、立つ“時間”を渡したい」
Scene 4|決断の時
小泉(マトリ 捜査官)
「彼女を逮捕すれば、芸能界も変わる。
でも、本当は……“社会そのもの”が問われている。
どれだけの大人が、彼女の背後に沈黙していたか。」
本田(芸能事務所 法務部長)(うつむいて)
「……我々が沈黙していたのではありません。
彼女のまぶしさが、すべてを“見えなくした”んです。」
湊原(警視庁 管理官)
「逮捕日は、5月31日。午後3時。
マスコミ報道は6月1日朝刊。
“薬物を吸わない美しさ”が、本当の美だと伝えるべきです」
本田
「……わかりました。前日正午、“活動停止”を発表します。」
(沈黙)
(議事録係がゆっくりペンを置く音だけが響く)
ラスト:ナレーション(小泉)
「薬物が奪うのは、判断ではない。
周囲にいた“大人たちの責任”をぼやかす霧だ。
その霧を割るには、誰かが罪ではなく、
“構造”を斬らなければならない。」
(フェードアウト)