亡霊会議室(The Specter Conference)
NMCホールディングス本社・最上階の役員応接室。
6月25日の株主総会を1週間後に控え、主要株主と経営陣による非公開協議が始まろうとしていた
会話劇本編
【Scene 1|“亡霊”の部屋】
(応接室に篠崎社長が一人座っている。時計の音。やがて、風間元会長が静かに入ってくる)
風間
「……もう“あの時代”を知らない人間ばかりになったな。ここに座るのも、今日が最後かもしれん」
篠崎(微笑)
「今でも現場の人間は、会長のお名前を神棚に掲げていますよ」
風間(冷たく)
「神棚に掲げるのは“遺影”だろう?」
(間)
風間
「お前、“乗り切れる”と思っているのか?」
篠崎
「“乗り換えられる”側でないことを、祈っているだけです」
【Scene 2|外圧】
(ドアが開き、バートンが通訳と共に入ってくる)
バートン
「Mr. Shinozaki, we respect tradition. But nostalgia does not build shareholder value.」
(通訳)
「篠崎社長、我々は伝統を尊重しますが、“懐古主義”では株価は上がりません」
篠崎
「……あなた方の要求は理解しています。しかし、“現場”が混乱すれば、テレビそのものが壊れます」
バートン
「それなら、“壊せばいい”。我々はメディアを守りたいのではなく、“企業価値”を守りたいのです」
【Scene 3|内部の声】
(久保田真奈が入室、資料を持っている)
久保田
「社長、この人事案、現場では全員が不信感を抱いています。『あの人』の影が、いつまでも編成に残ってる」
風間(不快そうに)
「“あの人”とは誰のことかね?」
久保田
「あなたですよ、風間さん。
視聴者が去っているのは“番組”じゃない。“空気”に冷めているんです。見えない支配が、現場を腐らせてる」
【Scene 4|矢上の提案】
(矢上が革のトートを提げて入室)
矢上
「お集まりの皆さん、私は新しいNMCを作りたい。テレビを“過去の遺産”から、“未来のインフラ”にしたいんです」
篠崎
「それは理念として美しいが、現場はそんなに柔らかくない」
矢上
「社長、“改革”は最初は痛みます。でも、痛みを避けた組織は、後で“手遅れ”になりますよ」
(全員、言葉を失う)
【Scene 5|選択】
風間(立ち上がり、窓の外を見る)
「私は明日、ロンドンへ行く。もう“亡霊”として、うろつく気もない。だが、忘れるな。
テレビ局は“血と恩”で回ってきた。数値じゃ動かんものが、確かにあったんだ」
(沈黙)
篠崎
「……その“血と恩”が、時代の錘になっていたなら、もう降ろさねばならない」
バートン
「Then let the shareholders decide.」
(訳:それを決めるのは、株主です)
【エピローグ|久保田のナレーション】
「誰が“正しい”のかじゃない。
誰が“残る”のか。
そして、誰が“語り継がれない”まま消えるのか。
6月25日。テレビは、企業になるか。企業が、テレビを捨てるか。」
(照明がゆっくりと落ちる)