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代わってほしいと言われましたが

作者: にゃみ3


 私の名前は、フィオレッタ・ラヴァル。至って普通の侯爵令嬢だ。

 他の人と少し違う部分といえば転生を経験したことがあることくらい。


 前世で読んだ小説の主人公、フィオレッタ・ラヴァルに転生したと気がついたのは、今から8年前。私が9歳の時だった。


 あり得ない話だと、私も思う。あの記憶は全て子供の頃に改造された記憶なのではないかと考えた時もあったが、実際に起こった出来事や周囲の人間までもが一致しているところを見ると、一概にあり得ないことだと片づけることはできなかった。

 

 だからといって何か行動を起こす訳でもなく、そういった記憶があるというだけで、私は普通に平穏な日々を過ごしていた。

 

 そんなある日、興味深い噂を耳にした。

 悪名の高さで有名なアルノール伯爵家のご令嬢、バイオレット・アルノール嬢が階段から転落したという事件だ。


 そして、性根の悪さで有名だったバイオレット嬢が、事故の後からまるで別人のように優しくなったという噂が広まった。


「初めまして、フィオレッタ嬢」


 そんな今話題の彼女と会ったのは、王室の開いたピクニックに参加していた時だった。


 とある用のために一人で森の奥までやって来ていた私に突然声をかけてきた、バイオレット嬢。


 ニッコリと微笑みを浮かべる彼女の顔を見て、私は内心冷や汗が止まらなった。

 何故ならバイオレットという少女は、私が前世で見たこの世界の小説の悪役だったのだから。


 どうしてバイオレット嬢がここにいるの?


 彼女とは社交界で何度も顔を合わせているし、今更初めましてと挨拶されるとは。

 やっぱり、あの噂はただのでまかせで、悪女・バイオレットは前世で見た小説のキャラクターと何の変りもないのではないだろうか。そう思い、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいではあったが、とりあえずはニッコリと笑みを浮かべて誤魔化しておく。


「ごきげんよう、バイオレット嬢。相変わらずパープルの髪がお美しいですね」


「そうかしら? いかにも転生ものの悪役って感じじゃない?」


「……えっ」


「え?」


 今、転生って言った? うん、確かに言ったわよね?


 思わず反応してしまったからか、バイオレット嬢も驚いたようにこちらを見つめている。


「もしかして……フィオレッタまで誰か入っちゃってるの?」


 それが、私とバイオレットの出会いだった。


「いやぁ、せっかく転生したらやっぱり主人公には会っておきたいでしょ!」


 そう満面の笑みでサッパリと言い切ったバイオレット嬢を見れば、彼女の言っていることは全て事実なのだと納得せずを得られなかった。


 彼女によると、ある日目を覚ますと小説のキャラクター、バイオレット・アルノールになっていたという。


「髪も綺麗だし、目も綺麗だし、顔立ちなんて完璧じゃん……。バイオレットも中々に美人だけど、やっぱり主人公は別格だよね」


「あはは……褒められると照れますね。ありがとうございます」


「え? いや、何言ってんの。私が褒めてんのはアンタの方じゃなくて、フィオレッタだから」


「……? はい」


 何を言っているのかさっぱりわからない。

 フィオレッタ、つまり私を褒めてくださっているのだから感謝の言葉を口にするのは何の違和感もないことだろうに。


「ほんと、羨ましい。――ねえ、私と代わってよ」


 ニヤリと口角を上に吊り上げて、囁くように呟いたバイオレット嬢。


「……代わると、いいますと?」


「ハッ、やだなぁ。バカなところはキャラクターのままってこと? それともなりきっているの?」


 アメジストのようにキラリと光る紫色の瞳が、私をまっすぐに見つめている。

 私を小馬鹿にしているかのような、挑発的な笑みを浮かべて。


「私ね、恋するトウィンクル聖女ではギルバート王子が好きだったの」


 そういえば、そんな名前だったかと思わず苦笑いが浮かぶ。

 小説『恋するトウィンクル聖女』の男主人公、ギルバート・フォン・ハイムノルン王子。じきに私と婚約者になると言われている人物だ。


 彼とは昔からの交友関係もあるし、小説の内容を知っていた私は、フィオレッタとギルバートが結ばれることを知っていたからそれなりに意識もしていた。


「だからお願い、私と代わって?」


 ニコッと愛らしく笑ったバイオレット嬢の顔を見ると、やはり彼女の魂が入れ替わってしまったのだと納得した。

 私を視界に入れると、いつもしかめっ面をしていたバイオレット嬢が、私に向かって笑顔を向ける日が来るだなんて。


 ギルバート王子が好きだから、私と代わってほしい。それは今後結ばれるであろう私、フィオレッタではなく自分が結ばれたいということなのだろうか?


「えっと、ギルバート王子のことが好きだから私に協力してほしいってことであっているかしら?」


「うーん、まあ大体はそんな感じよ。手伝ってくれるわよね? だってあなたは、心優しいヒロインなんだから」


 さも当然だと言いたげに笑うバイオレット嬢を前に、私は頷くことしかできなかった。


「……わかりました。私にできる範囲でしたら、お手伝いさせていただきます」


 いくら私が前世で小説に見た内容だからといって、彼女の願いを拒む真似はできない。自分がこの世界の全てなのだと考えるのはやっぱり図々しい。


 まだバイオレットとなってから数週間も経っていないのだろう。突然異世界に転生して、悪役となってしまった彼女がひどく不憫に思えた。


 ……その甘すぎた考えが、身を滅ぼしたのだった。


 ――バンッ!


「ありがとう! 信じていたわ、さすがフィオレッタね!」


「え――」


 バイオレット嬢に押された私の身は、先ほどから背後でひゅうひゅうと風の音が響いていた崖へと投げ出された。


 私の身体は重力に逆らうことなく、そのまま落下していく。


 最後に目に収めたのは、満足げに笑う女。

 前世の記憶の隅に合った、小説『恋するトウィンクル聖女』の挿絵描写、悪女・バイオレットが階段からフィオレッタを突き落とすシーンと同じだった。



 痛い……痛いよ……。


 どうしてバイオレットがこんな所で私を殺そうとしたのか。理由なら簡単に想像つく。小説でフィオレッタが見つけた聖遺物であるエメラルドストーンを手に入れようとしているのだろう。


 今日のピクニックは私にとって、フィオレッタにとって、人生を大きく変える出来事の一つだったのだ。


 ピクニックの最中に迷子になり、森へと迷い込んだフィオレッタは目麗しいエメラルドグリーンの光に導かれるように歩き始めた。そして、光の先に合ったのは、エメラルドストーンが埋め込まれた指輪。それは、真の聖女が手にすることができると言われる伝説の聖遺物だったのだ。


 そしてそれを発見したフィオレッタは聖女の力を得て、国の人々のためにその力を使った。そう、小説には書かれていた。だから私は、絶対に手に入れなければならなかったのに。


 「代わって」って、ギルバート王子のことだけじゃなくて、聖女の立場もだったの? 私と同じく転生者であるバイオレットは小説の内容を知っている。あそこにいたということは、今から聖遺物を探しに行くのだろう。


 私という主役を舞台から引き下ろして、自らが主役という絶対的な役を手にするために。


 私の能天気な考えのせいで身を亡ぼすことになってしまったのだろうか。


 バカな私のせいで、フィオレッタは……。


「う……」


 ひんやりと冷たい感覚と、ズキズキと痛む頭。ぬめりとした感覚は、血だろうか。

 薄っすらと見える視界の先で私は見ていた。真っ赤に染まった、自分の手を。


「……ごめ、んね……フィオレッタ……」


 目からは涙が零れ落ちて、段々と視界が暗くなっていく。ああ、私死ぬんだ。私のバカな判断と行動のせいで、フィオレッタが死んでしまうんだ。


 視界が真っ暗になったかと思う瞬間、私の前には眩く光るエメラルドの光が現れた。正確には、私の右手から。




∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴




「フィオレッタ様~! どちらにおられるのですか、フィオレッタ様!」


「フィオレッタ!!」


 捜索隊を率いていた、王子ギルバートは人一倍大きな声を上げて、名前を呼んだ。しかしフィオレッタからの返事はない。

 代わりに、甘ったるい声が返って来た。


「ギルバート様、お怪我をされていますね」


「……バイオレット嬢。こんな傷、大したことはない。それよりも先に彼女を探さなくては……」


「そんなわけにはいきません。ほら、手を貸してください」


 結構だと振り払おうとするギルバートの手を無理やり取ると、バイオレットはニヤリと口角を上げた。自身の色白な手でギルバートの一回り大きな手を取り、すくうように両手で握りしめたのだ。


「あなたに、祝福がありますように……」


 その言葉と共に、バイオレットの左薬指からは眩いほどのエメラルドの輝きが醸し出された。


「なっ……!」


 ギルバートが驚きの声をこぼすのと同時に、周囲にいた騎士団員たちがどよめき始める。


「何だあの光は!」


「なんと美しい! まさに神聖なる光!」


「エヘヘッ、実は昼間にこの指輪を見つけ――」


 まばゆい光に目を奪われる人々の中で、ギルバートが目を細めてバイオレットに問いかけた。


「何? 君も森へ来ていたのか?」


「えっ……」


「ならばフィオレッタのことを見たか? どうなんだ?」


「え……ええ。ああ、そういえばお会いしたような気がします。ですが私が止めても無視して奥へと入って行かれたので……って、ギルバート王子?!」


 バイオレットの話を聞くや否やすぐに騎士団員数名を付けて森の奥へと歩き始めたギルバート。その奥に広がる場所は、丁度数時間前にフィオレッタとバイオレットが話をしていた場所だった。


「バイオレット嬢がまさか聖女様だったとは! 危険ですから私たちが宮内までお送りいたします」


「そうですよ。さあ、戻りましょうバイオ……」


「チッ!」


 心配げに声をかけた騎士団員二人の声が、バイオレットの大きな舌打ちでかき消された。


「……バイオレット嬢?」


 バイオレットは左の親指を口元へ持っていくと、ガリッと爪を噛みしめた。その勢いで肉の方まで噛みしめたのか、バイオレットの口の中には鉄さびのような風味が一気に広がる。


「……まあ、いいわ。どうせ主役はもう、この私なんだから……」




∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴




 翌朝。ギルバート王子率いる騎士団員たちの捜索によって、崖下の岩肌にこびりつくような大量の血痕が発見された。周囲には引きずられたような跡もあり、「落下後、獣に襲われたのだろう」と結論づけられた。


 遺体は見つからずともその場に残された痕跡はあまりにも生々しく、明らかに人が助かるような状態ではなかった。


 彼女はもうこの世にいないのだと誰もがフィオレッタの死を疑わなかった。


 しかし、ギルバートだけは違った。たとえ彼女が息絶えていたとしてでも必ず連れて戻ると、毎日毎日、彼女を探し続けていた。


 ――数日後。 神殿では、聖女の誕生を祝う盛大な祝賀会が催されることになり、ギルバートもまた王子としての義務を果たすため、参加を強いられることとなった。

 

 人々の歓声と神官たちの祈祷の声が交錯する神殿の中心で、光のような衣を纏ったバイオレット嬢が、純白の礼装で立っていた。


「もう、ギルバート王子ったら。隈がひどいですよ? そんな顔では祝福の場が台無しですわ。私が聖女の力で癒して差し上げましょうか」


「いいや、大丈夫だ」


「……ほんとう、連れない人なんだから」


 ギルバートの頬に向かって手を伸ばすバイオレット。その距離が縮んでいたそのとき――。


「――私の男に触らないでいただけますか」


 澄んだ、けれど張りつめた緊張感を纏った声が神殿の奥から響いた。

 ゆっくりと人々の視線がその声の主を探して振り返る。


「……フィオレッタ?」


 ギルバートが思わず呟いた名の先には、深い森の奥に消えたはずの少女――フィオレッタ・ラヴァルが、静かに佇んでいた。


 光を受けて煌めく、長く伸びたプラチナブロンドの髪が揺れ、アイスブルーの瞳がまっすぐにギルバートを見据えていた。



 ――時は遡り、王宮主催のピクニックの日。


 日が沈みだした頃、私は目を覚ました。

 肌に感じるのはひんやりとした土の感触。耳には、どこか遠くで鳥のさえずる声が微かに響いていた。


 視線を落とすと、血に染まったドレスの布が目に飛び込んできた。しかし痛みはほとんど感じない。


 ここは死後の世界なのか。それとも、私は亡霊にでもなってしまったのか。

 そんな考えは、いつのまにか私の右手に握られていた、聖遺物、エメラルドストーンのおかげで理解できた。この石が私を助けてくれ、聖女に選んでくれたのだと。


 さすが、主人公。これほどまでに自分がフィオレッタであることを感謝した日はあるだろうか。


 そこからの数日は、まさに波乱万丈だった。

 ふらつく身体のまま森を抜け、たどり着いたのは小さな町。

 身に着けていたイヤリングを売り払い、着替えの服を手に入れ、どうにか身なりを整えた。


 若い女が金を持っていると噂が流れてしまい、山賊のような者たちから襲われることもあったが、彼らのおかげで聖女の力を使いこなすことができた。


 そして今日、私はようやく戻ってこれた。


 それなのに! 私の男に! ……じゃなくて、ギルバート王子に触れようとするバイオレットの姿を見てしまい、思わず叫んでしまった。本当ならばコッソリ王子を呼び出して、経緯を説明するつもりだったのに……。


 うう、皆からの視線が痛いわね。消えたはずの私が突如帰ってきたのだから驚くのも無理はないけれど。


 きっと皆は私が死んだものだと思い込んでいただろう。


 だけどね、私は帰って来たのよ。

 バイオレットに突き落とされたって、消されかけたって、私は生き延びた。


 そして、戻って来たのよ――この舞台の主役として。


「なんで……指輪なら私が先に手に入れたはずなのに!」


 バイオレットが目を見開き、呆然としたまま自分の左手を見下ろした、その瞬間。


 パリンッと硬いガラスが砕けるような音を立てて、彼女の左薬指で光っていたはずの聖遺物の指輪が砕け散ったのだ。

 そこにはもう、眩いエメラルドの光は存在しない。黒く濁った、みすぼらしい石だけが残された。


「フィオレッタ嬢、これは一体どういうことですかな? きちんとわけを説明してください! 一体、今までどちらへ……!」


 慌てた様子で出てきたのはバイオレットの父親、アルノール伯爵だった。


 私は彼を一度見つめると、すぐに視線を逸らして会場全体へ語り掛けるように声を上げた。


「皆さま、驚かせてしまい申し訳ございません」


 スカートの裾を掴み上げて、丁寧に礼を取る。


「私が行方不明になっていたことは皆さん既にご存じでしょう。私は王宮主催のピクニックに参加していた時、聖なる光に導かれ森へ足を踏み入れると、バイオレット嬢とお会いしました。しかしバイオレット嬢は私が聖遺物を見つけたと知ると勢いよく奪い取り、私を崖から突き落としたのです」

 

 その言葉に、ざわりと空気が揺れた。

 人々の顔には疑念の色や、嫌悪。様々な反応があったが、私は質問を飛ばされる前に話し終えてしまおうと息を吸う間もなく続けた。


「気が付くと私の手にはまた、このエメラルドの聖遺物がありました。きっと神が私をお救いくださったのでしょう!」


 薄く微笑みながら、私は自分の右手を差し出した。

 そこにはまばゆい光を放つ、本物の聖遺物――エメラルドストーンの指輪がしっかりと嵌っていた。


「そ、そんなはず……! だって私は確かにあの場所で……小説で見た通りの場所にちゃんと合ったのに……!」


 私が今こうして主人公・フィオレッタとして立っていられるのは、ただ運が良かったから。

 もし逆だったら。私があなたの立場、つまり悪役だったなら……。そう考えるだけで怖くてたまらない。


 でもね、バイオレット。

 もしそうだったとしても、私はこんなふうに誰かを押しつぶして上に上がろうとするようなマヌケな行動はけしてしないわ。あなたのような、バカな真似は。


 私は一歩、また一歩とバイオレットに近づくと、彼女だけに聞こえる声で囁く。


「あなたはやっぱり、バイオレットになれないわよ。小説のバイオレットは自分の正義を持った美しき悪役だった。……それに比べてあなたは、ただ自分の欲のために罪を犯した、ただのマヌケじゃない」


 私の言葉に目を見開いて驚いたような顔を見せた後、バイオレットは鬼の形相で私を睨みつけた。


「アンタ何様のつもりなのよ! ふざけんな! アンタだって偽物のくせに!」


「偽物? 何を言っているのよ。あなたはただ魂が転生した存在なのかもしれないけれど、私は生まれてからずっとこの世界で生きてきたの。フィオレッタ・ラヴァルは、この私よ」


「っ、だからアンタは……。そんなことで納得できるわけないでしょ! ふざけんなあああっ!」


 気が狂ったかのように叫び出したバイオレットは、私に向かって駆け出してきた。

 鋭い爪を振り上げ、まさに私を殴りつけようと――


「っ、放しなさいよ!」


 けれど、バイオレットが私に触れる前にその手は後方から伸びた大きな手にがっちりと掴まれた。


 ギルバート王子――彼が私の前に立ちはだかったのだ。


「放せっ! 離せって言ってんのよおぉぉ!!」


「衛兵、拘束しろ」


 ギルバート王子が短く命じると、騎士団員たちが即座に動いた。

 数人がかりでバイオレットの両腕を押さえつける。彼女はなおも暴れ続けるが、もはや抵抗する力も残されていなかった。


「チッ……ッざけんな……! こんなの……こんなの、認めない……!!」


「押さえろ!」


「っ、大人しくするんだ!」


「離せよ、おいっ!」


 品のある美しきバイオレット嬢の姿は、もうそこにはなかった。

 顔を歪め、髪を振り乱し、怒りと憎しみに染まった姿。そこにあるのは、ただ欲望に呑まれた一人の女の末路だった。


「……君が生きていてくれて、よかった。フィオレッタ」


 連行されていくバイオレットを黙って見つめていると、隣に立つギルバートが静かに口を開いた。

 

 眉を下げて、目の下にはぎっしりと隈が付いていて疲れ切った様子だ。もしかして、また大好きな本を朝まで読んでいたのかしら?


「心配をおかけしてしまい申し訳ございません、王子」


「ふむ。もう俺のことを、私の男とは呼んでくれないのか?」


「……やっぱり聞こえていましたか」


「当たり前だ」


 眉を下げたまま笑うギルバート王子に、私も慌てて笑みを返す。


 心配をかけてしまったことに申し訳なさは感じるものの、それ以上に、彼が私を心配してくれたという事実が嬉しかった。


 前世で読んだ、あの小説には存在しない展開を迎えた、私とギルバート王子の会話。

 誰よりも優しくて、私のことを心配してくれる人。


 代わってくれ? ふざけないでよ。相手が誰であろうとも、私は何も譲ってあげない。私は私のための選択をするのよ。


 だって、この世界の主人公は私で、彼は私の男主人公なんだから。


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