表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染に嫌われたと勘違いして不登校になりかけたけど、実は両想いだった件  作者: 桜 偉村


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/22

第16話 水着選び

 二回目の定期テスト、私は中学時代も含めて、初めて学年で三十位以内に入ることができた。

 自分でも驚いたけど、ご褒美制度を設定してから、はっきりと集中力が増した自覚はあった。


 やることを終わらせれば、気兼ねなく(れい)と触れ合える——。

 そう思うと、いくらでも頑張れた。

 昨日——テストが返された日の放課後も、開放感から気づけばいつも以上に触れ合ってしまっていた。


(まあ、テスト期間全体のご褒美よ)


 そう無理やり自分を納得させる。

 その後、夏休みの予定を話し合い、海に行くことになったので、現在は大型のショッピングモールにやってきているところだ。


 主な目的は水着を購入するためだが、その前に、カフェで(ゆう)先輩の恋愛相談をしていた。

 先輩はちょっと怖気付いていたけど、話を聞く限り、神崎(かんざき)君との仲は良好そうだ。近いうちに吉報が届くかもしれない。


「それで——白石(しらいし)君との関係、ぎこちなくなってない?」


 ストローをくるくる回しながら、悠先輩が探るような視線を向けてくる。

 神崎君の話が一段落した今、その話題が来るのはわかっていた。以前、本番が怖くなってしまったとき、相談していたのだ。


「大丈夫です。今は、ちゃんと……」


 言いながら、昨日のことが一瞬よぎって、喉の奥がひゅっとなる。


(っ……ちょっと落ち着きなさい、私)


 自分に言い聞かせるけど、頬がじんわりと熱くなるのは止められなかった。

 悠先輩がニヤリとイタズラっぽく笑う。


「ふーん? もしかして、けっこう進んじゃってたりして?」

「な、なに言ってるんですかっ⁉︎」


 慌てて身を乗り出すと、先輩は軽く肩をすくめる。


「別に隠さなくていいじゃん。私は一通り経験してるし、アドバイスもできるよ? ——実体験つきで」

「なっ……!」


 さすがに照れて言葉が詰まった。

 でも、たしかに経験者からのアドバイスって、貴重かもしれない。


「……最近、その……してます。手と、口で」


 赤面しながらも、なんとか言葉を絞り出す。

 悠先輩は表情ひとつ変えずに、うんうんとうなずいた。


「白石君は喜んでる?」

「……すごく、嬉しそうにしてくれてます。だから、そこはよかったんですけど……」


 視線を伏せる。


「どうしたの? なにか不安?」

「その……本番を我慢させてるのって、やっぱりひどいのかなって。澪は優しいから言わないだけで、本当は()れてたりするかもって、最近思ってて……」


 気づけば、ぽつぽつと弱音をこぼしていた。

 先輩は一瞬だけ目を細めて、それから真面目な声で問いかけてきた。


「まだ怖い?」

「……正直、怖いです。でも、前よりはずっと……。それに、関係を進めたいって気持ちも、ちゃんとあるんです」


 私がそう言うと、悠先輩は「——よしっ!」と手を打った。

 そして立ち上がりながら、にかっと笑う。


「じゃあ、今回の海を、二人の関係を進めるターニングポイントにしちゃおっか!」

「へっ……?」


 口がぽかんと開いたまま、私は先輩に引っ張られて席を立たされた。


(た、ターニングポイントって……そういう意味……⁉︎)




◇ ◇ ◇




「これとか、いいんじゃない?」

「そ、それはさすがに……っ」


 悠先輩が手にしていたのは、黒のオフショルダー。

 華奢な肩をきれいに見せるデザインで、細身のボトムスが腰のラインをやたらと引き立てていた。


「ふふ、悩殺力は折り紙付きだよ? ほら」


 先輩が、にやにやと笑いながら水着を私のほうへ差し出してくる。


「わ、私、別に……そういう、悩殺なんて、する気ありませんし!」

「じゃあ夏希(なつき)は、どういうのがいいと思ってたの?」

「え、えっと、こういうのとか……」


 指さしたのは、爽やかな水色のビキニ。

 フリルの付いたシンプルなデザインで、海らしさもありつつ、肌の露出も控えめだ。


「うんうん、それも可愛いよね。絶対似合うよ。でも——」


 先輩はうなずいてから、黒の水着を手に取って、意味深な笑みを浮かべた。


「白石君を本気でオトしにいくなら、こっちだと思うな」

「っ……!」


 言われてみれば、そういう見方もある。


(で、でも……っ)


「やっぱり、これは無理です!」


 私は黒の水着を悠先輩に押し付け、水色のビキニを手に取った。


(まだ高一なんだし、こういうかわいい感じので十分なはずよ……)


 ——そう、思っていたのに。




◇ ◇ ◇




「買ってしまった……」


 紙袋を抱きかかえ、家のベッドでため息を吐く。


『念の為だよ。別に着なくてもいいんだし』


 そんな悪魔の囁きに乗せられて、気づけば店員さんの前に、二つの水着を並べていた。


(べ、別に二つ買うのは変じゃないし……)


 自分に言い訳するように、頭の中で必死に言葉を並べる。


 たとえば、プールにだって行くかもしれないし。

 どっちを着るかは、ちゃんと考えてから決めればいいだけで——。


(……うう、それにしても……)


 悩殺という言葉が、どうしても頭から離れなかった。


(澪、どんな顔をするのかしら……)


 その想像だけで、顔から火が出そうになる。


「っ……~~っ!」


 思わず、首をぶんぶんと振っていた。


(悠先輩のせいなんだから……!)


 そう心の中で責任転嫁してみるけど、心臓の鼓動は一向に収まってくれなかった。




 ——夜。

 誰もいない部屋の中、私は黒の水着を前に立ち尽くしていた。


(……試してみるだけ。着てみて、それから考える)


 パジャマを脱いで、そっとウエストを通していく。

 冷たい布が肌に触れるたびに、心臓の音がうるさくなっていく。

 最後に、肩を通して鏡を見た瞬間——。


「っ……」


 言葉が出なかった。

 鏡に映る自分は、どこか見慣れない女の子で。


(これ、私なの……?)


 肩も腰も、変にあらわになっていて——。

 布越しに、そっと胸元に触れてみる。


「っ……」


 自分で触れただけなのに、鼓動が跳ねて、すぐに手を引っ込めた。


 ——関係、進めたいって思ってるくせに。


 心の奥で、誰かがつぶやいた。


 ——だったら、ちゃんと覚悟決めなさいよ。


 鏡の中の自分に、そう言われた気がして。

 私は思わず、小さくつぶやいた。


「……こっちでも、いいかも」


 ほんの少しだけ笑ってみせる。

 誰にも見られていないことをいいことに、気持ちが少し浮かれているのが、自分でもわかった。


 澪は、どんな反応をしてくれるのだろう——。


 胸が高鳴る。

 私はどこかふわふわした気持ちのまま、眠りについた。




 そして、翌朝。


「——無理っ!」


 起きてすぐ、袋から黒の水着を引っ張り出して、鏡の前にかざしてみた。


「やっぱりこれは無理……絶対無理……!」


 顔が真っ赤になる。


(昨晩の私、何考えてたのよ……!)


 しかも、今日は海。

 私たちだけじゃなく、周りには他の人もいっぱいいるに決まってる。


「いや、別に二人きりならいいってわけじゃないけどっ! でも、さすがにこれは……っ」


 ごちゃごちゃ言い訳をしながら、私は水色のビキニを袋から取り出した。

 落ち着いたトーンの、水に溶けるようなブルー。

 昨日の夜とは違って、今の私には、こっちのほうがしっくりきた。


(これなら……まだ、見せられる)


 鏡に映った自分の姿に、小さくうなずいた。


(……かわいいって、言ってくれるかしら)


 その想像だけで、もう一度、頬が熱くなった。

「面白い!」「続きが気になる!」と思った方は、ブックマークの登録や広告の下にある星【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくださると嬉しいです!

皆様からの反響がとても励みになるので、是非是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ