この部屋の者だな?
虎の威を借る狐は、何処にでも居るものですね。
連絡を受けて、冒険者ギルドに行くと、今回の買取の説明を受けたが、何故か2人が名乗り出たみたいだ。
1人は、この街の領主アリングサス伯爵の補佐役をしているグエルブ男爵の代行の者と、アリングサス伯爵の三女の侍女プラムだと言う。
さて、順番だが、微妙だった為に、男爵本人の代行者を先に対応する事にした。
「初めまして。俺がCランク冒険者のライだ」
「遅い! 何時まで待たせる気だ!」
ムカッ!
「ギルドが指定した時間には充分に間に合っているが?」
「そんな指定なんぞ知るか! 貴様ら下民は、夜明けと共に、この部屋で頭を地に着けて待っているのが普通だ」
今回の買取の品が、本当にこいつのバックに居る男爵だとしても応じるのは不愉快だ。
なら……
「そうか。それは失礼したな」
「分かったのなら、さっさと出せ!」
「確認の為に、買取の品の特徴を言って貰おうか」
「何!?」
「今、あの品の所有権は俺に有る。だから、買取したいのなら、こちらが出す条件を満たせば買取に応じてやる」
「げ、下民風情が……」
「どうした? 買取の品の元の所有者なら、答えられる筈だ」
そう。
偽者対策の為に、買取の品の特徴を部分的にしか公表していないのだ。
「良いから、直ぐに出せ!」
「断る。あの品は、今は俺の物だ」
「貴族である男爵様に盾突くつもりか!」
「俺は冒険者であり、この街の住民ではない以上、そんな権力は俺には関係無い」
「下民が~」
まあ、ギルドにも報告してない事があるのだが、男爵の代行者が来た事で確信した。
「では、今回の交渉は決裂という事でお引取り願おう」
代行者は、真っ赤になって色々と喚いているが知ったことか。
最後はギルド職員に連行される形で追い出されていた。
次は、この街の領主の三女の侍女だな。
「初めまして。俺がCランク冒険者のライだ」
「初めまして。この街の領主であるアリングサス伯爵が三女クリヴィアお嬢様の侍女をしているプラムと申します」
「では、早速だが確認の為に、買取希望の品の特徴を言って貰おうか」
「はい。特徴は……」
きちんと本来の持ち主か、それに深く関わる人物ではないと答えられない特徴を話したから、買取に応じても問題無いが、それで「はい、さようなら」は、目覚めが悪いんだよなぁ。
「どうでしょうか?」
「買取に応じても良いが、条件が有る」
「買取金なら、充分に用意しております」
「その三女との面会を条件とする」
「なっ!」
「嫌なら、買取の話は無しだ」
「……分かりました。2日後に迎えに行きますので、宿の名前を教えてください」
「分かった。宿の名前は満福亭だ」
「満福亭ですね」
その後は、普通に解散となり、その翌日の午後から俺達を尾行する者が現れた。
黒幕が誰か分かり易い流れだな。
その夜……
「この部屋の者だな?」
「ああ。この部屋の男は殺しても構わん」
「女は全部頂いて良いだな?」
「ああ。但し、アイテムや持ち物は……」
「分かっている。手を出さない」
「分かっているなら、殺れ」
な~んて、部屋の扉の向こうでは、そんな話をしている。
当然だが気配に気付いて、俺達は迎撃体制を整えている。
因みに俺達が選んだのは6人部屋で、俺達は既に気配を殺して待ち構えている。
勿論、扉の前に置いていた物は退かしているから開けた時に大きな音はしない。
黒幕からのパシリ以外の実行犯が部屋に入った所で、睡眠と麻痺の魔法を放つ。
全部で8人を生け捕りする事に成功した。
そして、拷問に掛けて全てを吐かせた。
この拷問の仕方はサラから学んだ。
実は、こういう汚れ役はサラが担当していたのは、関係者以外には知られていない。
天空の翼は、人格者として通っていたが、それではやっていけない事が出てくる。
そんな時、サラが天空の翼に黙って処理をした。
それ以降、サラは率先して裏側の処理を続けたのだが、バルた時にはこう言ったらしい。
「汚れたからこそ、皆の清廉さが誇りよ!」
と。
一応言っておくが、サラは身体は使っていない。
汚れ役と言っても、やった事は、依頼料の値上げ交渉やポーション等の調達とかの雑用だ。
他には、天空の翼が無償でしようとした事をサラが裏で交渉して依頼料を発生する様にしたりした。
それと、ちょっぴりの拷問……
……さて、黒幕が誰かを吐かせた後は、とりあえず拘束して声が出せない様にして適当な部屋を借りて放り込んだ。
この部屋の代金は、後ほど、男爵から徴収するとしよう。
翌日、約束通り、俺達が朝食を食べ終わった頃に領主館からの馬車が来た。
そして……
「初めまして。私がアリングサス伯爵が三女のクリヴィアです」
「Cランク冒険者のライだ。後ろに居るのは冒険者仲間だ」
「それでは、本題に入りたいと思います。何故、買取の条件に私の面会を希望したのでしょうか?」
「もう、勘づいていると思うが、中身もしっかりと調べた」
中身を調べた、という所で、一瞬だがクリヴィアの肩が動いた。
「だから、このまま、買取を終わらせてさようならは、目覚めが悪い。」
「どういう事でしょうか?」
「だから、目覚めが悪いから、協力しよう」
「はい!?」
「俺達は冒険者だ。多少の荒事は出来る」
後ろでは、「何処が『多少の荒事』よ」とか言っているが無視だ。
レイには、後でお仕置きだな。
「貴方達には、大したメリットが有りませんが良いのですか?」
「先程も言った通り、目覚めが悪いからだ」
「……分かりました。貴方達に協力をお願いします」
「交渉成立だな」
「……」
そう言って、買取の品をクリヴィアに渡すと、大切に両手で包み胸の前に持って来て祈る様にクリヴィアは目を閉じた。
「……ありがとうございます」
厳しくも温かいメッセージを待っています!
そして、星の加点をお願いします。
買取の品は、ペンダントです。




