僕の天国
放課後を告げるチャイムが鳴り響く。担任がホームルームの終わりを告げるその瞬間僕はカバンを肩にかけ一目散に走りだす。向かうは僕だけの天国通称連峰寺、聞いた話によるとこの寺は僕が生まれる前からそこにあり今の住職は70代目だというかなり歴史のある寺だ。しかしそんな過去とはどうでもいい些細な問題だ。
僕はカバンの中にいつものあれがあるか改めて確認し走る速度を上げる。器用に人を避け山岳方面んに進んでいくと次第に人気はなくなってくる。ボロボロの石階段を上りやっとの思いで僕は連峰寺にたどり着いた。そこで軽く口笛を吹く。すると寺の周りの茂みがかすかに揺れ、小さな生き物が素型を表す
「ほ~ら皆ご飯だぞ」
カバンからツナ缶を三つ出し栓を開ける。すると草むらから姿を現した猫たちが僕に向かって一目散によって来る、そして地面に置いたツナの匂いを嗅ぎ、いつものものだと確信するとむしゃむしゃと中身を食べ始めた。
「は~お前たちは本当になんてかわいいんだ~」
「にゃぁ?」
その様子に僕は見惚れ、その場から動けなくなる。持って来たご飯をある程度食べた数匹が僕の指に顔を寄せる。きっと栓を開けた時に缶の中身の匂いが付いたのだろう。猫たちは夢中で指を舐める時折甘噛みしてくるが、痛がるほどの強さではなくかなり弱い静電気といったところだ。僕はすり寄ってくる猫たちの背を優しく撫でてやる。彼らは野で生きているため、時折土屋千切れた葉っぱなどがついていることがあるがその時は手で汚れを取ってあげる。清潔にしていなければ健康を保てないのは人間も猫も同じことだ。
膝にわずかな吐息がかかったことで僕は持って来たツナ缶が完食されたことを知る。今度はその缶の中に水をいれる。長年通い続けていることですっかり僕に心を許している猫たちは僕の後に続き水道へと向かう。蛇口をひねりからの缶に飲料用の水を入れる。その間猫たちは缶からあふれた水をシャワーのように浴びる。この蛇口は決して猫たちが届かない位置にあるわけではないが、このねじをまわすということが彼らにはできないから、必然的に僕が来た時が彼らの食事時間兼入浴時間になるわけだ。ぶるぶると体を震わせた際にかかる水しぶきを手で受け止めながらも僕は猫たちの仕草一つ一つに心をときめかせる。
とりあえず必要な事柄を済ませた僕は今度は賽銭箱の石段に座りその前に水の入った缶を置く。そして猫たちが水分補給に夢中になっている隙にカバンから小型カメラを取り出し彼らの自由気ままな姿を写真に収める。僕がここを知りなおかつ猫にはまったのは僕が小学生のころだった。たまたま暇つぶしで行っていた散歩でここを訪れ蛇口に群がる猫を見つけた。
「水が飲みたいのかい」
「にゃ~」
「そうか分かった」
いったい何が分かったのか自分でもわからないがとりあえず蛇口をひねり水を出してやると下に落ちる水に猫たちが一斉に飛び込んだ。そこで初めて僕は彼らが水を飲むことではなく水を浴びることを欲していると理解した。
「な~お♪」
気持ちよさそうにのどを鳴らし鳴き声を上げる猫たちを見て僕の口から思わず
「かわいい」
そう言葉が漏れた
それから友達と遊ぶ日以外は毎日ここに通い猫たちに水を浴びせてあげるようになった。そしてしばらくたち、僕は中学で写真部に入った。そして初めての大会で猫たちが水を浴びて楽しむ何気ない様子を写真に撮り提出したところ。気まぐれで警戒心の高い猫たちがここまであどけない姿を見せていることがかなり貴重らしく僕は最高賞を取ることが出来た。それからというものの僕はずっとここに通い続け日々、彼らの日常をフィルムに収めている。
そして今僕は高校生になり、再び写真部の門をくぐったのであった。
「よし、今日もかわいいぞ僕の天使たち」
そう言って僕はまたシャッターを切る。後にこの写真が僕の人生を良い方に変えたことはまだ先の話だ。