[序幕:君から俺へ]
はじめまして。下手の横好きで至らないところも多々ありますが、お付き合いいただけると、そしてあわよくば少しでも楽しんでもらえれば幸いです。
「好きです。付き合って下さい」
放課後の屋上。今日この場所で俺は初めて不安そうな顔をする先輩を見た。
細いガラス細工のような精緻な指で胸元をキュッと握りしめ、期待と不安がない交ぜになった表情で宝石のような双眸を真っ直ぐ俺に向けてくる。長身で大人びた顔立ちをしした人なのに、思わず“可愛い”という感想を抱いてしまう、そんな姿だった。
「そんな……冗談でしょう?」
狼狽えて、思わず譫言のような台詞が漏れる。この状況の全てが俺の想像の範疇を超えていた。
しかし、先輩はゆっくりと首を横に振る。そして、一振りの刀を思わせる強さで言った。
「私は冗談でこんなことは言わないよ。それは龍佑が一番分かってくれてるよね?」
「……それは……」
その指摘はまさにその通りだった。先輩の真っ直ぐさは誰よりもしっかりと目に焼き付けてきたつもりだ。
図星を突かれ、言葉に詰まる俺に先輩はフワリと微笑んだ。
「答えは急がない。突然だったし、龍佑に考える時間をあげないのはズルいからね」
でも、と先輩は表情を引き締めて続く言葉を紡ぐ。
「真剣に考えて。答えがイエスでもノーでも」
真剣で真摯な言葉。まるで、想いの強さに比例するように。
数瞬の世界が停止したかのような沈黙。ややあって、先輩が見る者を安心させる微笑みと共に口火を切った。
「さて、そろそろ部活行かないとね。遅れるとカナに怒られちゃうし」
「……はい」
あえていつも通りに振る舞ってくれる先輩の気遣いがありがたかった。
考える時間が今は欲しい。後悔しない答えを出すために。