世界の狭間で、無職堕つ
「どうして………どうして……っ」
ポロポロと雫を流す虻山。
葬儀場で泣きじゃくる彼の手に握られていたのは、一つの遺影。
その遺影には親友の周平がこちらを見てほほ笑んでいる。
生前彼が好きだったカレーパンを掲げながら。
「俺がっ、俺があの時周平を家に住まわせておけば…。」
隣に立っているセウタは何も言わず、ただ立ち上る一本の線香の煙に思考をくぐらせていた。
私は虻山の涙に耐え切れず、つい後ろを向いた。
すべてを知っている私にとって、虻山の姿を想像するだけで胸が痛かった。
でも、こうするしかなかった。
ごめん、と一言だけ虻山に言い残すと、罪悪感を抱えながら私は葬儀場を後にした。
今はただ、新鮮な空気をだけを吸いたい。
冷たい夜風が月夜を撫でる、言い表すならそんな夜だった。
私は周平が殺される、前日のことを思い出していた―――――。
周平が殺される一日前。
「明日、俺がやるよ。」
「あなた、本当に大丈夫?」
黒曜のテーブルで週刊ヤングジャンプを読んでいたセウタがページを静かに閉じると、
尖った持ち前のナイフを取り出し、静かにポケットに忍ばせた。
「それじゃあ翼子、元気で。」
「…待って。」
私の返答を聞かず無機質な一言を添えると、玄関のドアを開き、セウタは消えていった。
静かな一室がより一層、静寂を奏でている。
周平は以前、まじめに働く良い会社員として、そこそこの会社に勤めていた。
だが、脳に異常をきたす感染症【AHOVID-19】に感染してしまい、「俺感染症罹ったら困るし会社辞めるわ!」と言いはなち次第に酒、煙草、暴力に溺れていった。
「アブちゃん家に住むわ!」「俺は無職だぞ!」と大きな声で囀り、
虻山も迷惑そうに苦笑いしていた。
翼子は周平が引き起こす騒音で、ノイローゼになっており
痺れを切らしたセウタが私だけにこう言った。
「はい、殺殺リスト追加。」
彼がそう言い放つと、暗殺の準備を始めていた。
後日、黄金色に輝く夕焼け空、髭面の周平の首は、魔転車の籠の中で発見された。
生前好きだった、カレーパンを添えて―――――。
「翼子、葬儀場に戻ってきて! マジでヤバイ。」
私の空想に浸っている背中をドン、と叩き焦った表情でこちらを見つめているのは、友達の虻山だった。
「何かあったの…?」
「いいから来てって!」
虻山に半ば強引に腕を引っ張られると重苦しい葬儀場に連れていかれた。
そこは先ほどの葬儀場とは変貌しており、恐ろしく荒らされていた。
「な、なんなのこれ…!?」
状況についていけていない私を置いていくかのように、ある音楽が流れ始めた。
テケテケテーンテテーンテテンテンテン~、テケテケテンテケーンテテンテン~♪
どこかで聞いたことのある曲。
歌?いや、違う。これは…FALLGUYSのメインテーマ曲!?
ひたすらマッチせず、延々とこのBGMを聞かされていたのですぐに分かった。
生前彼が好きだった、ゲームの一つである。
「フォ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」
私は棺桶が置いてある中央に目を向けた。
嫌な、予感がした。
恐る恐る、その物体に焦点を合わせる。
そこには身長172cmほどの、周平の姿があった。
生前の彼とは違い、目に正気を保っていない。
そいつが、葬儀場、いや、ゲーム内ステージを荒らしまくっていた。
「な、なにこれ!?」
テン テンテ テンテテンテンテンテン~♪
という気さくなBGMと共にルーレットが周りはじめ、ミニゲームが決められていた。
どうやらフルーツパニックに決まったらしい。
周平が生前に勝ち方必勝法を750円で販売していた、あの、ミニゲームだ。
「フォ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」
どうやら葬儀出席者全員で参加するらしい。
「く、狂ってる…。」
セウタも混乱している。
これは、これはもうFALLGUYSなんかじゃない。
これは…そう。あえて言うならば…。
FALLGAIZI