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[「すまない。父さんが騙されたばっかりに…。」]
そう嘆く詩織の父の声と最期の風景を夢に見てはうなされて起きるクリスタの生活がしばらく続いた。
赤ん坊であるクリスタが泣いては起きるの生活をしていても家族に不審に思われる事もなかったが、それでも泣いて起きるとクリスタのために両親や兄が懸命にあやしてくれる。
どんなに真夜中でも父と母のどちらかがクリスタが再び寝付くまで抱っこしてくれていて、クリスタが家族に愛されていると実感するのに時間はかからなかった。
辛い記憶を思い出してばかりの時は、詩織としての記憶を持って産まれた事が重荷になっていたクリスタだったが、家族の愛情に包まれ、成長するにつれてうなされて起きる事も少なくなっていった。
そしてクリスタは詩織の記憶に引き摺られる事なくすくすくと成長し、10歳の誕生日を迎える頃には詩織だった頃の悪夢にうなされる事なく日々を過ごしている。
「クリスタ。」
クリスタに転生してもうすぐ10年。感慨深い思いで外を眺めるクリスタに向かえに座る父が声をかけた。
「今から行く所は治安が安定しているとは言え、隣国との境の街だ。何があるかわからないから1人で出かけたりしてはいけないよ。」
そう碧い瞳で優しく言う銀の髪の父の、その配色を受け継いだのはクリスタだけ。
兄と、4つ年下の妹は母譲りの金の髪と青い瞳をしている。
「はい、お父様。」
この世界では魔法が存在していて、貴族と呼ばれる上流階級に生まれた子供は10歳になると定められた場所で魔力の洗礼を受ける決まりだ。
定められた場所も両親から受け継いだ因子によって違い、父の珍しい髪と瞳を色濃く継いだクリスタは、父が洗礼を受けた同じ場所で受ける事になっている。
兄と妹は髪と瞳の色から一般的な貴族の配色を持つ母の因子を受け継いだと判断され、クリスタとは違う洗礼場で王都からとても近い。
「辛くないか?」
前世のような車などなく、移動は馬か馬車。舗装されているとは言ってもガタガタ揺れる中、長距離馬車移動はとても辛い。
今回は辺境の地の為母と妹は留守番で、クリスタは父と兄と訪れていた。
「ええ、大丈夫です。」
母の因子を継いでいれば長旅にならなかったのに……と、自分そっくりに生まれた娘を可愛く思いながらも、父は責任を感じてしまっているようだ。
「いつもはお忙しいお父様やお兄様とずっと一緒にいられる事がとても嬉しくて、旅路を辛く思う事はありませんわ。」
クリスタがニッコリ微笑みながらそう伝えると、父はフッと笑ってクリスタの頭を撫でた。
「父に気を遣う事はない。クリスタは本当に大人びているな。」
クリスタの隣では兄のマシューが眠っている。
前世で知る『オレ攻め』の設定で18歳のマシューは長身なのに、成長期に入ったばかりのマシューは13歳の割には小柄で可愛らしい。5年間でかなり身長が伸びるようだ。
「向こうに着いたら何か美味しい物でも食べよう。」
「はい!」
今向かっている先は父の両親、クリスタにとっての祖父母が暮らしている家だ。
果物がとても美味しいと評判の土地で、どんな食べ物が食べられるのかと考えるだけで頬が緩むクリスタを見て、父はもう一度笑った。




