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「風の谷はねー、シルフ様のお家の入口なのねー。」
可愛らしい妖精がニコニコしながらクリスタの右肩に乗った。
「でも、最近シルフ様はお家から出てきてくれないんだ。」
クリスタの左肩には突風に住まう精霊が悲しげに座る。
「出てきてくれない?どうして?」
悲しげな表情をしているのは突風に住まう精霊だけではない。他の風の精霊も同じような表情だ。
「わからないの。クリスタの洗礼してから出てきてくれなくなったの。」
「シルフ様のお家にも入れてくれないなんて…、シルフ様に嫌われちゃったのかな?」
風の四大精霊であるシルフが姿を現さなくなった……何か重要な事でも起きたのだろうか。消滅してしまったウンディーネの事もある。クリスタは父と顔を見合せると眉を顰めた。
「シルフに何かあったのかい?変わった事とか。」
父が精霊達に問いかけると、精霊達は揃って首を横に振る。
「特に変わった事はないのねー。強いて言うなら創造神様が時々会いにくる位ねー。」
創・造・神!
クリスタの脳裏にクリスタとして生まれる前に出会った神が思い出された。
「僕聞いたよ!創造神様が唯一神なのに布教活動?してるんだ。まずはシルフ様からだって言ってたよ。」
「あたちも聞いたれす。尊いしゅちるを語れる相手にシルフしゃまを選んだって言ってまちた。」
布教活動、尊い、スチル……精霊達の言葉に詩織には聞き慣れた言葉がいくつかある。
「シルフしゃまはクーデレっておやつが大好物らしいてしゅ。」
クーデレはおやつじゃない!とクリスタの中の詩織が叫ぶ。
クーデレとはクールな攻略対象がヒロインが大好きでデレデレになる事。
まさかとは思うが……創造神は『オレ攻め』の布教活動をしているのではないか。
『オレ攻め』の世界観はクリスタの世界の基となってはいるが、詩織の世界のゲームであってクリスタの世界しか知らない人間や精霊は知る事はない。
「それで…シルフとは会う事は可能だろうか?」
また父が精霊に問いかけると、精霊達もまた揃って首を振った。
「あそこの風の溜まり場がシルフ様のお家なの。声をかければ返事をくれるの。でも出てきてはくれないの。」
精霊の示した場所はこの烈風の中心らしく、烈風が集まり噴き出している。
クリスタは風の溜まり場までふわりと移動すると、風の溜まり場を静かに見つめた。
「貴女……クリスタね?」
風の溜まり場からシルフの声が聞こえる。
「ごめんなさい。貴女が悪い訳ではないの……でも!」
やはりシルフは『オレ攻め』をプレイしている。
「仕方がありませんわ。それが私の設定ですもの。」
そして当て馬であるクリスタのハイスペックさに苦しんでいるのだろう。
しかもその苦しみの元凶に洗礼を与えたのは他ならぬシルフ自身だ。
「ですが、当て馬やライバルがいるからこそ推しは更に尊くなるのです。敵役のいない乙女ゲーなどあんこのないどら焼きや塩のかかっていないポテトのように味気ないもの。私はリアル推しがより輝く為、ハイスペック当て馬令嬢への道を突き進むのです。」
推しへの愛を語るのはクリスタではなく詩織。
「この世の誰にに嫌われても、それは全て推しの為!!クリスタの成長がリアル推しを刺激し、成長を促すのです。推しを成長させる為に私は学び続けなければなりません。」
現にメイン攻略対象者であるアルトゥールもクリスタに負けまいと勉強に励み、その護衛騎士候補であるヴァレリーもアルトゥールに負けまいと励んでいる。
マシューだってクリスタを守る為にリッチフォース領で強くなろうとしてくれている。
詩織は大きく息を吐くと、風の溜まり場に手を差し出した。
「シルフ……どうかリアル推しの為に私を受け入れて下さい。」
「はい。貴女のその志しこそ真のファン。」
風の溜まり場から美しい手がクリスタの手を掴んだ。
「全ては推しの為。クリスタ、貴女は私の愛し子です。」
そして現れたシルフは優雅に笑った。




