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「あぁ…、尊い。神が尊ぶ本などけしからんが尊い。」
この神は『オレ攻め』のコアなファンらしく、鼻息荒く攻略本を本開く事なく頬ずりしたり抱き締めたりしている。
「生まれ変わる為の世界もなく、ただ消滅を待つ魂だけのお前にはもう不要な物だろう?これは大ファンである私がもらう。」
「えっ、嫌。」
バッサリ。
もう『オレ攻め』が出来ないとは言え、神と同じくコアなファンである詩織か反射的に断ると神は絶望した表情になった。
「私だって大ファンだもん!」
詩織が譲る事を拒否した直後、神の手にあった本が消え、詩織の手の中に表れた。
「神様も『オレ攻め』の大ファンなら、この本がどれほど尊いかわかりますよね?いくら神様の御所望であっても譲るわけにはいかない。ファンとして……大好きなお姉ちゃんがくれた本と消滅するなら本望ですっ!」
本と神。
より尊いのはどちらだろうか。
「クッ……大ファンとして、その心意気は認めねばなるまい。同じ大ファンからの尊い本の奪略行為は万死に値する。しかし、所有者の魂から取り出した物は所有者の物。魂が消滅してしまえば本も………神とは言え消滅したモノは蘇らせられん。」
どうやらこの神より尊い本は、未開封だったが正式に詩織の物になっているらしい。
「ならば、私にその本を預けると言うのはどうだ?私が新しい世界を作り、消滅してしまう魂らを尊き本と共に救おうではないか。」
「預ける?」
「うむ。新しい世界への初回転生サービスとして、今の記憶を残したまま転生させてやろう。新しき世界はこの尊きゲームに似せた世界にし、神に選ばれし者特権として、各能力の底上げに加え、好きなポジションを選ばせてやる。ヒロインはもちろん、イケメン攻略対象でも構わぬ。」
つまり『オレ攻め』の世界に転生出来ると言う事のようだ。
しかも男女問わず好きな役で。
「それって……、リアル推しに会えるって事?」
しかもヒロインになって頑張れば恋人になれるかも。
心が大きく揺れた詩織を見て、神はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「もちろん声もそのままだ。」
「!」
『オレ攻め』では登場人物の声はどのキャラクターもわずかしか聞く事は出来ないが、全ての攻略対象も恐ろしく声が良い。
「声がそのまま……なの?」
リアル推しのイケてるボイスに詩織はあっさり陥落したのだった。